【成功する同族企業】マネジメントのプロがみた長寿同族企業の落とし穴と成功のための一手
日本に欠かせない同族企業。不祥事の裏に隠れた強さ
昨今不祥事が目立つ同族企業
ジャニーズ・ビッグモーター。
どちらも2023年に世間を賑わせた企業ですが、共通点は同族企業であることです。
同族企業では創業者一族が代々、社長となり、権力が極端に集中します。
その結果、社長の暴走を防ぐことができない不健全な組織になってしまったり、昔から続く独特かつ異様なマネジメントが野放しに。
トップニュースとして、同族企業による不祥事が取り沙汰されると、世間や一部の専門家はしきりに「同族企業は悪だ」と批判をします。
しかし、本当に同族企業は悪なのでしょうか?
こうした同族企業の問題点に関して、世間のメディアではガバナンスの問題について語られることが多いので、本記事では同族企業のマネジメントについてお話しさせていただきます。
実は日本のほとんどが同族企業である
下記表が表しているように、国税庁の会社標本調査結果(令和3年度分)によると日本企業の96.5%が同族会社(家族経営の会社)となっています。
*同族会社には、特定同族会社を含みます。特定同族会社とは、親族ではなく一人の株主のみで株式等の過半数を保有する一定の会社などをいいます。
上場企業の中での割合としては、約半数が同族企業です。
また、日本経済大学大学院の後藤俊夫特任教授が監修責任者として出版した『ファミリービジネス白書2018』によると、同族企業が一般企業に比べて財務的に優位であることも明らかとなっています。
これらの調査を見ると、同族企業は悪い形ではないように思えます。
また、世界的に見ても同族企業の価値が見直されており、欧米のMBAプログラムにはファミリービジネスのマネジメント論が加わっているのです。
そんな同族企業にはどんなメリット/デメリットがあるのでしょうか?
同族企業のメリット/デメリット
■同族企業のメリット:
意思決定スピードが速い
所有と経営が一体化しており、経営者に権力が集中するため、スピード感が早い一体感のある組織になる
元々の信頼関係ができているため、コミュニケーションの取りやすさや理念浸透のしやすさによって一体感が生まれる長期的視点での経営が可能
外部の意見を聞く必要がないため、自分たちが追い求めたい長期的な目標に向かって経営ができる
■同族企業のデメリット:
独裁的なワンマン経営、ガバナンスやコンプライアンスの弱体化の恐れ
経営者に権力が集中しすぎる分、独裁的な体勢に逆らえず、会社が腐敗していく恐れがある納得のいかない評価や配置
血縁関係のあるものが評価されることで、努力しても重要な役職を与えられない従業員のモチベーションが下がっていく
次の章では、同族企業のデメリットに対処し、成長を続けている企業の成功事例をベースに、うまくいくマネジメントについて掘り下げていきます。
従業員がついていくのは「人」ではなく、「理念」。
同族経営で成長し続ける会社のマネジメント手法
三代で潰れる同族企業
このような書籍が出版されているように、「同族企業は3代で潰れる可能性が高い」という通説があります。
「売り家と唐様で書く三代目」ということわざがありますが、家業というものは三代で潰れるという意味です。
創業者は何も無いところから、情熱と努力で事業を成功させ、財産を築き、二代目は父親の苦労する姿を見ながら育ち、財産を維持し、三代目は財産を当たり前のものと思い、使い果たしてしまうが、教育レベルは高いので、洒落た唐様の文字で売り家と書く。
また、日本以外でも「三代経つと手元にはシャツ一枚」(アメリカ)、「三代目は先祖の田んぼに戻って野良仕事」(中国)などのことわざがあり、三代で潰れることが多いという現象は世界共通のものとして捉えられています。
実際、二代目への引き継ぎに成功する同族企業は30%、三代目への引き継ぎに成功するのは12%という調査結果もあるそうです。
では、四代目以降も成長を続ける長寿同族企業ではどんなマネジメントがなされているのでしょうか?
私は、理念の浸透度合いだと考えています。
理念が浸透していれば、理念・社長/創業家・社員の考えが一致するため、常に強固な組織を保てます。
しかし、理念が浸透していないと事業承継の度にズレが発生していくため、組織が崩壊に向かっていきます。
ここからは、今まで、大手企業から中堅・スタートアップ企業まで100社以上の組織支援をしてきたマネジメントのプロとしてズレを防いで、長寿同族企業として社会に価値を提供し続けている企業をご紹介します。
成功事例1:とある町工場が新理念を土台に組織改革!今では多数メディアに取り上げられる大注目企業に(株式会社島田電機製作所)
参考記事:
独自の仕掛け続々で、社員を“自社ファン化”
株式会社島田電機製作所HP
株式会社島田電機製作所とは?:
1933年に創業したエレベーターの押しボタンや到着灯などのオーダーメイド意匠器具のモノづくり企業で、現在、五代目社長。
強みは、専門性・提案力・使命感の3つで、国内シェアは6割以上、海外にも進出しグローバルなオンリーワン企業、チャレンジングな100年企業を目指している。
また、ユニークな仕組み仕掛け、自由度の高いオープンな職場環境、上下関係に縛られないフラットな組織風土により、従業員エンゲージメントを高めている。
かつて抱えていた課題:
現社長になってからの状況としては、働く上でのルールが整備されておらず、人事考課の基準も不透明。いわゆる旧態依然とした町工場で、会社組織としての適切なマネジメントがされていない状況だったそうです。
現社長曰く、「若い方たちが働きたいと思えるような職場ではなかったですし、人材を育てられるような会社でもなかった。加えて、業績も低迷しており、賞与も出せませんでしたし、管理職の手当をカットせざるを得ない状況が続いていました。社員の定着率こそ悪くはなかったのですが、会社へのエンゲージメントが高い、仕事が楽しいなど、ポジティブな理由で離職が防げていたわけではなかったと思います」。
課題解決のために取り組んだこと:
まずはビジョン・ミッションといった理念策定の着手と社内共有のためのカルチャーブックを作ったそうです。
そして、その理念に則って、社員が会社のファンになってくれるように30以上の仕組みや仕掛けに取り組んだそうです。
(例:表彰式・社内カフェ&バー・社歌の作成・採用面接の際はラブレターを持ってきてもらう etc)
また、個々の社員が主体的に行動する組織を目指すために、人事制度の設計にこだわっておられます。業務レベル別の10段階の等級が明確に設定されており(「単独での業務貢献」、「他者に教えられる」、「人財育成が育成できる」など)、自分が今、どの等級なのかが把握でき、今後はどこを目指したいのか、自分自身で高い解像度で目標を持てるようになっています。
成果:
売上は、現代表が就任した当時の倍以上に。新規顧客が急増したわけではないため、働き方改革を実施し、それらを対外的にも発信してきたコーポレートPRによるブランディングが一定の成果を見せたことが要因でしょう。
また、採用面では、HPからの直接応募の件数が増え、以前まではなかった地方からの応募もあるなど、自社への共感度が高い人材獲得の間口が広がったと感じているそうです。
成功事例2:全世界の従業員に浸透する究極のクレド!業界で世界第2位を維持する成長の源泉(ジョンソン・エンド・ジョンソン)
参考記事:
①「我が信条(Our Credo)」に基づくDE&Iの精神
②ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社HP
③ビジネス史上最も優れた危機対応を実現。ジョンソン・エンド・ジョンソン「タイレノール事件」
ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下、J&J)とは:
1886年に創業され、現在はアメリカ合衆国ニュージャージー州ニューブランズウィックに本社を置く、製薬、医療機器その他のヘルスケア関連製品を取り扱う多国籍企業で、ニューヨーク証券取引所に上場している。
最も有名な経営理念「Our Credo(我が信条)」とは:
1943年、J&Jの三代目社長ロバート・ウッド・ジョンソンJrにより、会社の果たすべき社会的責任について起草されたもの。以来、長きにわたりJ&Jの企業理念・倫理規定として、世界に広がるグループ各社・社員一人ひとりに確実に受け継がれており、各国のファミリー企業において事業運営の中核となっている。
特徴としては、J&Jが大切にすべきものの順番。「我が信条」にはお客様>社員>コミュニティー>株主の優先順位で大切にすべきであると書かれており、一部から反発もありましたが、80年経った今でも「我が信条」は最高級の理念だと称されている。
「我が信条」を作ったことによる成果:
J&Jでは「我が信条」にあるように社員を大切にし、成長できる人事制度を整えていることや「我が信条」に共感できる人材しか採用しないことにこだわっていることが大きく影響し、22年7月末時点の時価総額はアメリカ企業の中では8番目、1932年から2008年まで76期連続で増収するという驚異的な数字を叩き出しています。
また、有名なお話に1982年の「タイレノール事件」があります。
「タイレノール事件」とはJ&Jが出していた鎮痛剤ですが、当時これを服用したシカゴ周辺の人々がなんと次々に「突然死」を遂げるというという不可解な事態が発生したことに端を発する事件です。
これを機に、ジョンソン・エンド・ジョンソンは社会からの信頼を大きく失墜させ、倒産寸前にまで追い込まれるという状況に陥りました。
当初は、第三者による意図的な犯行なのか、それとも生産過程で生じた問題なのかもわからない中、社員の多くは動揺を隠せずにいましたが、CEOのジェームズ・パーク氏は自社には責任がないと言い逃れをすることもなく、すぐにマスコミを通して「アメリカの消費者にタイレノールを一切服用しないこと」という旨の警告を発信し、自主的に商品回収を実施。
「タイレノール事件」の発生後、同社が行った情報公開の対応では、衛生放送を使った30都市にも渡る同時放送、専用フリーダイヤルの設置(事件後11日間で、136,000件の電話があったため)、新聞の一面広告、TV放映(全米85%もの世帯が2.5回見た計算になる露出回数)と、当時の考え得るありとあらゆる手段を講じました。
同社は重要な情報を包み隠さず発信し続け、マスコミからの厳しい追及を受けても決して委縮せず、常に誠意ある対応を取り続けたのです。
この時同社がとった迅速な対応は、後に「ビジネス史上最も優れた危機対応」と称されています。この対応がとれたのは「我が信条」にあった顧客ファーストという理念が浸透していたおかげでした。
成功事例2つに共通している理念策定と浸透施策の両立
ずばり、会社の指針となる理念の策定とそれを社員に浸透させるための人事制度(人事評価制度や目標管理、1on1制度)を整えていることです。
多くの企業で、理念はあると思いますが、その理念は会社として心から達成したい想いを言語化できているのか。
また、その理念は形骸化していないか。
浸透のための施策は機能しているのか。
理念は浸透が肝となります。
そんな理念浸透の施策としておすすめしているのが、人事評価・目標管理・1on1を連動させることで現場管理職を媒介として、理念を伝え、仕事の中で体現してもらうことを可能にする「パフォーマンスマネジメント」です。
アメリカではTOP500企業のうち20%が採用しているほど、革新的な取り組みとなっているのですが、日本ではまだまだ導入が進んでいません。
しかし、私は日本の同族企業にこそ、パフォーマンスマネジメントを取り入れて欲しいと思っています。
先程、同族企業は三代で潰れやすいとお伝えしました。
創業して初期の頃は、創業者の抜群のリーダーシップに社員がついていきますが、事業承継を重ねたり、代が変わることによって、社員が何についていけばいいのかわからなくなり、結果、崩壊の道を辿っていく、ということが多くの同族企業で起きています。
社員に追っかけてもらうべきなのは、カリスマとしての「人」ではなく、「思想」としての理念なのです。
理念を社員にとっての行動指針とするためには、理念から逆算した人事評価制度の設計や上司ー部下間での1on1によるすりあわせが必要となります。
そして、理念が浸透すると、現場社員が適切な行動を取れるようになり、パフォーマンスが向上していきます。それによって、企業の成長スピードも上がるという仕組みです。
「パフォーマンスマネジメント」は理念浸透に適した取り組みですが、人の成長を源泉に、企業成長にも直結する手法となっているため、ぜひより多くの経営者や人事の皆様に知っていただければなと感じています。
まとめ
人がついていくのは、創業者(人)ではなく、理念(思想)!同族企業にはパフォーマンスマネジメントを
同族企業成長の鍵として、理念策定と理念浸透のためのパフォーマンスマネジメントを紹介させていただきました。
「同族企業は3代で潰れる」と言われますが、長く社会に価値を発揮し続ける同族企業には漏れなく、確固たる理念とそれを体現するための人事制度があります。
なかなか聞き慣れない言葉かもしれませんが、是非パフォーマンスマネジメントを覚えていただければと思います。
パフォーマンスマネジメントを実現する『コチーム』
私が代表を務める株式会社オーでは、パフォーマンスマネジメント実現をご支援させていただく『コチーム』を提供しております。
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ここまで読んでいただきありがとうございました!
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