【主題】須賀敦子、池澤夏樹、日野啓三の共通した主題はエンタメ性の拒絶

似たもの同士!
作家やエッセイスト、評論家で、
印象的な3人がいます。 
読んでいて、なんだか、
匂いが似ているんです。

須賀敦子、池澤夏樹、日野啓三。
この3人はどこか、
日本社会の多数派に対して
異質な何かを感じさせるんです。

もっと売れ線な本を書くことだって
この3人なら、出来たろうに。
なぜか硬質な風が吹いてくる。

いや、生来かかえてきたテーマに
ただ当たり前に取り組んで
きただけなんでしょう。

池澤夏樹は、
大震災やエネルギー問題や
エコロジカルなテーマが多い。
人間と自然環境がつくり出す
世界の在り方について、
追求してきたような人だ。
読み始めて、すぐ気づくのは、
決してエンタメに落とし込まない、
ということです。

読んだ人間に、
何だかモヤモヤした、
答えのない主題が
読者の心にも刻まれます。
まるで読者の心に
種を植える職人かのよう。
 
1980年代90年代に作家として活躍した
日野啓三は、
あの時代特有のスピリチュアルな
時代精神があるものの、
今読んでも、
地球規模の世界観は哲学的で
かつ、媚びないまっすぐな表現に
溢れています。
現在は、日野啓三がどうも
忘れられているのが勿体ない。
講談社文芸文庫から
数冊出ているくらいです。

そうして、須賀敦子。
須賀さんは、全集が文庫として 
今なお出ている位だから
いちばん有名ですね。

でも、向田邦子や幸田文らに比べたら、
それほど大衆性、エンタメ性はない。
エンタメ性よりは、
神について考える時間が長かったろう。

戦後すぐの頃に、 
貧しい日本から海外に留学した人は、
ごくごく一部のエリート
だったでしょうが、
彼女は最初はパリで学ぼうとして
どうも飽き足らず、
数年後にはローマに移り、
さらには、ミラノに移って行った。
キリスト教左派をポリシーとした
小さな書店に自分の学び場を見つけた。
自分が学びたいものについて
常に意識的な人だったんですね。

イタリア語の翻訳家であった事も
彼女の土台でしたが、
クリスチャンであった事が
須賀作品を決定的にしていた事は
間違いありませんね。

この3人は、
誰かが文庫を出す際、
しばしば解説で
他の2人のどちらかが解説を
書いている例が多い。

とはいっても、
この3人はリアル次元でベタベタと
仲よくしていたとも思えない。
友情などという言葉は似合わない。
分かり合える戦友、
そんな渇いた印象の同士でしょう。

決してエンタメになびかず、
ただ、自分の主題を貫いた。
その世界観は、人間界を
常に飛び越えていました。
人間関係にばかり
焦点が当たりがちな日本の
一般的な小説では計り知れない
異質な世界観が、まるで
心を潤す清涼剤になる。

こんな作家やエッセイストが
文学界に今ももっともっといたら、
文学の分野も厚みが出て、
元気になるでしょうね。

おっと。
池澤夏樹は、
今はすっかり老齢になったものの、
まだまだ健在な作家ですね。
まるで鬼籍に入ったみたいな書き方で
誤解を生みましたかしら。
今年も大作を発表したばかり。

最後に、3人のオススメ作品を
紹介させて頂きます。

池澤夏樹
『スティル・ライフ』中公文庫
『南の島のテオ』文春文庫
『きみのためのバラ』新潮文庫

日野啓三
『日野啓三自選エッセイ集』集英社
『あの夕陽・牧師館』講談社文芸文庫
『夢の島』講談社文芸文庫

須賀敦子
『コルシア書店の仲間たち』文春文庫
『ミラノ 霧の風景』白水社
『ユルスナールの靴』河出文庫

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