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【文学と人生】創作のヒントは日常生活の中にある!?

美とはいったい何か?

まあ、いつも全身ユニクロの私に 
そんな話をする資格があるかどうか。
(笑)。

批評家の小林秀雄と江藤淳の
対談ではこんな話が出てきます。
(『小林秀雄・江藤淳全対話』中公文庫)
「ぼくらが美というと、
美はたちまち床の間に
乗っかってしまって、
抽象的なものになってしまう。
(ところが)その辺の奥さんが
デパートに出かけ、自分のセーターや
スカートを血まなこで捜すときには、
一番正確にいいものを選ぶ…」

一般的には、
掛け軸や骨董や絵画を、
書斎の壁や床の間に置いて
飾り、めでることが、
美を味わう態度だと思われがちですが、
小林秀雄は、
女性たちがデパートのバーゲンで、
夢中で自分の欲しい服やバッグを
またたく間に見つけてしまう、
それこそ美を求める心理ではないか
というんです。

なぜバーゲンのセーターやバッグと、
美学が繋がっているのか?(笑)

小林秀雄によれば、
女性たちは、バーゲンの戦利品を
買いたくなり、
着たくなり、
実際に生活の中で着たり履いたりする、
そこが大事なんだと話すんです。

そこへ行くと、
知識人はつい観念的、抽象的に
絵や壺を眺めることで満足してしまう。
それが知識人の限界…と。

美というのは、
実際の生活の中で試され、
実験したりして、
大きくしていくものらしい。
いかにも小林秀雄らしい話です。

生活に根づいていない美学や
生活に根ざしていない文学を
とことん批判し続けた小林秀雄。

生活に根ざした文学や批評は
ちょっと間違えば、
ただの、卑近な私小説にも成りさがる。
そうならなかったのは、
小林秀雄に強い美意識が 
あったからでしょうか。

小林秀雄は、
いっけん、知識人でありながら、
同時代の知識人であった
マルクス主義文学者や
戦後民主主義の知識人、
つまり観念や知識で
アタマでっかちになった物書きに
とことん批判的でした。
彼は彼の日常にあること、
好きな本や芸術だけを
批評の対象にし続けました。

小林秀雄には「日常生活」は
永遠なる舞台でありました。

だから、
デパートのバーゲンと
応接間の絵画や骨董を、
瞬時に比較してみせる発想が
当たり前に湧いて来る。

本物の創作は、生活の中にある。
生活からはみ出た創作は創作ではない。
それが小林秀雄の信条だったに違いない。

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