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【脱・幸福論】少しの野菜と味噌に満足せず、腹一杯ご馳走を欲するススメ

澁澤達彦という異端な作家がいました。
1928年~1987年。
古今東西の異端思想や異端文学、
異端芸術を紹介したり、
自分でも書いたりした博識と反骨の作家。

漱石や太宰を読んでた平凡な私には、
澁澤さん独特の怪しげな世界は
どうも溶け込みにくい印象でした。
ただ有名な「脱・幸福論」があり、
これは前々から気になってました。
『快楽主義の哲学』(文春文庫)。

本を開くと、まず
宮沢賢治「雨ニモ負ケズ」の詩を
みっともない精神ではないかと、
やり玉にあげている。
野菜と少しの味噌だけでいいなんて
小さくまとまらずに、
腹一杯食べたい、
贅沢な肉だって食べたいと
言わないのは、実に覇気がない、と。
は?へ?ほう?
澁澤さんは「雨ニモ負ケズ」の詩を
みっともない精神だと言うのか!?

また、上田敏が訳したカール・ブッセの
「山のあなたの空遠く
幸い住むと人の言う」
という親しまれた詩を、
安っぽいセンチメンタリズムと
切り捨てる!?

「幸福ははるか遠くに
あるのでしょうか」
なんて感傷的なことを言ってては、
いつまでも人は幸福にはなれない、
幸福のすぐ前にまで自分から歩き
自分の力で掴むんだ!
というのが澁澤さんの、
当時の幸福論の甘さへの、
強いメッセージでした。

優等生的な幸福論への反発、
肉食系なハングリーさ、
それから行動主義的な傾向は、
今はむしろ当たり前な感じですね。
今のベンチャー精神の若い人には
歓迎されやすいでしょうね。

澁澤達彦が、没後30数年、
今もどんどん作品が新装されたり、
評伝が書かれたり、
コミカライズされています。

『快楽主義の哲学』は、
澁澤ワールドがわからない人間にも、
実に刺激的なパンチを与えてくれます。


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