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【全米図書大賞】淋しがり屋の少女が成熟した作家に至るまで…

自己顕示欲が強烈で、
いつも全身全霊で自分を
主張している作家がいました。
彼女は在日韓国人として
受難が多い昭和を生きた。
彼女が書いた戯曲は
自己破壊型の作風でした。

男を愛する時ですら破滅型で
相手も自分も追い詰めてしまう…
そんな愛し方しかできない、
まっすぐで不器用な人でした。

10代から劇団で役者となり、
20代前半で自分の劇団を旗揚げし、
20代後半で芥川賞作家になった。
才能あきらかな人でした。

その後、
妻子ある男性の子供を生み、
最初にいた劇団の主催者と
共同生活をしながら、
その彼が重い病にかかると、
彼を全身全霊で看取っていった。

公私ともにいつも、
シリアスな話題をまとい、
文学界やジャーナリズムを
賑わわせ続けました。

サイン会を開こうとして、
右翼団体から、中止せよ、
中止しないなら爆破するぞ
という予告電話を受けた。
マスコミはいつも彼女に
注目していた。

でも、顔や目はいつもなぜか、
さびしそうな人でした。
本当に淋しい人だったのでしょう。
だからこそ、あんなに、
自分はここにいるぞと
叫ばざるを得なかったのか?

そんな作家が次第に
マスコミを騒がせなくなり、
作品の発表もめっきり減った。

ファンだった私も、
彼女は書くことがなくなったのか?
と思ってしまった。

しばらくして、
彼女はフクシマに移り住み、
福島で本屋をしながら、
自分のペースで作家活動も
してると聞こえてきました。

あんなに過激な、いつも
世間を騒がせずにはいられない
自己顕示の塊の人が、
ようやく、居着く居場所を
見つけたらしい。

そんな彼女が今年、
「全米図書賞」に選ばれた。
昔の彼女なら、どれだけ
今頃マスコミに露出し
目立とうとしたろうか?
それが、今は穏やかに
凛とした姿勢で静かだ。

もう叫ぶ必要もなくなった。
淋しがり屋ではなくなったらしい。

熱く過激な一人の作家が、
等身大になっていく過程を
見させてもらったような。

彼女の名前は柳美里。
ユーミリと読みます。
受賞作は『JR上野駅公園口』。
上野の淋しい人たちの物語を
粘り強い取材を元に書いた。

彼女のデビュー作や芥川賞作と
比べてみる。
反権力的なことは一貫してる。
ただ、文章からの叫び声は
強烈な高い声ではなく、
落ち着いた優しい声になっていた。

一人の作家とリアルタイムで
年を重ねる楽しみとは
こういうことでしょうか。



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