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Motivator構想:社会福祉士だからこそ、出来ること

私は、大学卒業とともに「社会福祉士」の資格を取得したこともあり、名刺には、いつもこの5文字があった。しかし、最近まで「社会福祉士」という国家資格が、私のキャリアを切り拓く武器になった感覚はあまりなかった。なぜなら、障害のある人の就労支援領域では、福祉職が就労支援をすることへの批判的な見方、意見(例:福祉職は、企業内の価値観、論理を知らない等)もあり、「福祉」という言葉のつく資格を堂々と伝えにくい感覚もあった。

しかし、私自身がキャリアを重ねた今、改めて「社会福祉士」ってどんな専門職なのか、何をすることが使命なのかを調べ考えてみると、やっぱり私は「社会福祉士」なのだと思えるようになった。そして、昨年から掲げているMotivator構想は、私が福祉専門職だからこそ出来ることであり、Motivator構想の目指すゴールも同時に見通すことが出来るようになった。今回の記事では、私なりの社会福祉士の定義に挑戦した上で、1年前に立ち上がったMotivator構想のアップデートした姿を皆さんにお伝えできればと思う。


国内、海外で定義された「社会福祉士」とは?

まずは、日本国内における「社会福祉士」の定義を振り返ってみると、昭和62年5月、第108回国会において制定された 「社会福祉士及び介護福祉士法」に下記のように明記されている。

社会福祉士:
専門的知識及び技術をもって、身体上もしくは精神上の障害があること、または環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連携及び調整その他の援助を行うことを業とする者(社会福祉士及び介護福祉士法)

引用:日本社会福祉士会 倫理綱領(2020)https://www.jacsw.or.jp/citizens/rinrikoryo/documents/rinrikoryo_kodokihan21.3.20.pdf

受験勉強以来、久しぶりにその定義を見直したが、改めて、日本の福祉職は、対人支援業務の専門職なのだと気づいた。福祉的ニーズのある人たちが日常生活を送る場で、多岐にわたる直接的な支援をしていく職業人の姿である。そして、この姿が、日本の「福祉職」の社会的なイメージなのかもしれない。

一方で、日本社会福祉士会が、社会福祉士としての行動、価値観の拠り所にしているのが、国際ソーシャルワーク連盟が規定している「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」である。この定義に触れると、また異なる「社会福祉士」の姿が見えてくる。

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義:
ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパワメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワークの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。
この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい。(IFSW;2014.7.)

引用:日本社会福祉士会 倫理綱領(2020)https://www.jacsw.or.jp/citizens/rinrikoryo/documents/rinrikoryo_kodokihan21.3.20.pdf

日本の法律に定義された「社会福祉士」との違いを感じていただけるだろうか?

グローバル定義に映し出された「社会福祉士」の姿は、よりマクロの視点からとらえられた定義であった。障害の「社会モデル」とも、似ているかもしれない。つまり、グローバル定義によれば、社会の中に眠る様々な「障害」(例:人権を無視した社会システムや、多様性を前提につくられていない職場環境等)に対して、福祉職としての専門知識と実践を基礎に、人や社会に働きかけていくこと(ソーシャルアクション)を福祉職に求めているのだろう。

「社会福祉士」とは?ー私なりの定義に挑戦ー

このような違いを踏まえた上で、私なりに「社会福祉士」の定義を考えてみると、

社会に散らばる「これっておかしいよね?」に正面から立ち向かい、人・組織・社会に対して働きかける人たち

と言えるのではないかと思った。そして、「福祉職」の原動力は、いつも「目の前の人を支えたい」、「現状を少しでも良い方向にもっていきたい」といった一人ひとりの「想い」の塊なのだと思う。そして、その想いの原点には、社会の中に散らばる「これっておかしいよね?」という現実がある。グローバル定義の言葉を借りるならば、社会正義、人権や多様性が尊重されていない現実とも言える。

つまり、社会福祉士としての最大の武器は、

福祉職として抱く、
目の前の人のより良い暮らしを願う「こころ」や、
より良い社会の実現に向けた「想い」

であり、その武器をもって社会を変えていこうとする専門職なのだと思う。しかし、福祉職が一人ひとり、個で活動していても、社会を変えていく大きな力にはなりえない。だからこそ、社会福祉士をはじめ、日本の福祉専門職が、それぞれの立場から発信し緩く繋がっていくことも、今後は大事になっていくと思う。
まさに、「想い」の総量で社会を変えていく集団だ。そして、その「想い」のエネルギーを「語り」によって可視化し、社会を変えていきたいと立ち上がったのがMotivator構想である。

Motivator構想とは?

Motivator構想は、2023年4月にnoteの記事で最初に投稿したのが始まりである。その際、私が、Motivator構想に込めた願いは、

知的障害のある人(モチベーター)による「語り」(セルフ・アドボカシー)が、組織の中に「対話」と「共感」を生み出し、インクルーシブな職場づくりに貢献する

であった。私が、豪州で経験した知的障害のある人のセルフ・アドボカシー活動を日本でも実現したいという想いと、知的障害のある人の語りから、その想いに触れてもらう機会をつくることで、知的障害を知らない人たちが、わずかでも行動を変えていくきっかけになるのではないかと思ったのだ。そして、この旗のもと、1年間の私自身の思考と活動を振り返ると、アップデートされたことが大きく3つある。(ご参考:各項目詳細は、リンクされた関連記事に記述。)

① Motivatorとは、誰を指すのか?
→知的障害のある人に限らず、「障害」をこえていく人、すべてである。
(参考note:野望のアップデート:「活動家」と「Motivator」の違い

② Motivatorの「語り」によって、「対話」と「共感」が生まれる世界観とは?
→Motivatorの「想い」が、「語り」によって周囲に伝播し、それによって人と人とのつながりが広がる世界観。
(参考note:月間インクルーシブトークー公開対話のアップデートー

③ インクルーシブな職場作りとは、どのような職場か?
→「想い」の伝播という人と人との響きあいによって生まれる「協振する職場づくり」であり、社会づくりでもある。
(参考note:「きれいごと」の大衆化 ―「共生社会」から「協振社会」への道しるべー

つまり、Motivator構想は、“障害”を超えていく人(モチベーター)の「語り」と「想い」の総量によって、結果として、人と人とが協振し、社会に根付く「障害」の記憶を書き換えていこうとする活動なのだ。

そして、社会に根付く「障害」の記憶を書き換えていく、とは、

障害のある人は、サポートが必要な人で、職場の中にいると大変な人?
障害のある人は、「障害者雇用枠」でしか働けない?
障害のある人は、仕事が出来ない人?

こんなネガティブな「障害」への社会の記憶をひっくり返し、ポジティブなドミノ倒しを社会に起こしていくことだ。そして、書き変えていくのは、社会に散らばる「障害(=これっておかしいよね?)」に正面から立ち向かい、自分なりに働きかけを続ける「想い」をもった人たち、すべてである。福祉専門職はもちろん、当事者の皆さん、ご家族、企業内でDEIや障害者雇用に関わる人たちも含めて、役割も立場も超えて「想い」をもって活動し「語る」人たちである。その「想い」と「語り」、「行動」の総量によって、「障害」への社会の記憶を書き換えていくのだ。

Motivator構想の全体像

Motivator100:構想の目的地

そして、その総量を分かりやすく社会に伝えるために、私は、Motivator構想の目的地にMotivator100の実現を設定している。福祉専門職一人の想いでは、社会の「これっておかしいよね?」を変えていくことが難しいように、一人の「想い」だけでは、社会に根付く「障害」の記憶を変えていくインパクトにはならない。だからこそ、私たち一人ひとりの「想い」と「語り」、「行動」をコレクティブな力に変えて、社会に眠る「障害」に正面から立ち向かい、そのイメージを書き換えていきたいのだ。

Motivator100:「障害」への記憶を書き変える人・企業の集合体

まだMotivator構想は道半ばである。しかし、2024年から始めたオンライン公開対話をはじめ、Motivator100へと続く1つ1つの取り組みから、私自身が学び、集団の力として、「障害」への記憶を書き換えていくソーシャルアクションを日本で興していこうと思う。そして、その先には、きっと、障害だけに限らず、多様な個が協振する社会が待っていると信じている。

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