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カヤバ珈琲 『大正3年の名建築とセンスの交差点』 (百名店)

藝大の裏手。

木造の家屋の昔ながらの急斜度の階段を上がると、二階の畳のお座敷が目の前に広がる

青と赤の座布団の上にゆっくり膝を下ろすと、ガタガタと窓が軋む音がする。

体にも小刻みな振動が伝わってきて、誰もが最初は驚くかもしれない。大正時代の造りの建物は、道路沿いに面しており、一瞬「地震?」と思うかもしれないが、トラックやバスが通るたびに道路から伝わる振動であることにすぐに気が付くだろう

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そんな振動さえも愛おしくなるのは、カヤバ珈琲さんが大正時代から続く名建築を大切に守ってきてくれていることがひしひしと伝わるから。

Since 1938 story

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1938年。

この数字は初代カヤバ珈琲が生まれた年。カヤバ珈琲は見た目から何となく古そうな古民家カフェかな?と思う方が多いと思うが、なんと戦前の大正時代から続いている喫茶店である。

移り変わりの激しい今の時代にまで残り続けているという事実だけで、この建築、空間、場所、サービス___全てに歴史の重みとたくさんの人の愛情がしっかり染み付いていることに気が付かされる

現在の形態は10年前に二代目のオーナーから引き継いで改築された部分もある。

二階の座敷は、2部屋を仕切っていた中央廊下の襖を取り払い、大きな一室に。とはいえ、昔の柱ということで造りがしっかりしているので、釘を打つようなリノベーションは行っていない。漆の塗り直しなど、小さな、繊細な手入れが入念に行き届いている。

『おばあちゃん家みたいな感じにしたくて』と取材を引き受けてくださったマネージャーさんが語ってくれた。

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左端の円卓は一番人気のお席。

道路側にも面しているので外の様子も楽しみつつ、円卓の小テーブルをくるくると回したくなる

藝大の前身である東京美術学校の開校が1888年、廃校は1952年なので、その時代にこの喫茶店を訪れた人もいたかもしれない。もちろん、今では藝大生の憩いの場であり、学食ではなく「ちょっとゆったり一息つきたいね」なんて思う時は他の学科の生徒たちと集うこともある

やはり先代の頃の藝大生もお気に入りの喫茶店だったようで、懐かしんでお店を訪れる人も少なくないという。

こまめな手入れで1938年から2021年まで受け継がれている。その歴史は何にも変えがたいカヤバ珈琲の一番の魅力だろう

一階はガラリと雰囲気が変わり、レトロでやや座高の低い座席。日中は外光が植物に透けて入ってくる。

____『朝は陽の光、昼は活気、夜はしっとり目な雰囲気に一日の中でも表情を変えるのがとても素敵なんです』


(私は今まで偶然二階席にしか座ったことがなかったのでこの日は一階席も堪能させていただきました♥ 木漏れ日がチラチラと揺れるのをみているだけで癒されました)

Menu


『カヤバのたまごサンドを食べたら他のを食べられなくなった』

たまごサンドに懐疑的であった知人にカヤバ珈琲のたまごサンドをおすすめしたところ、そう感動の言葉を送ってくれた

✔︎たまごサンド 1000円

スープとサラダ付き。
スタッフの方も「結局これが一番好きかもしれない」と満面の笑みを浮かべていた。『サワードウブレッド』というパンを使用しており、食パンとはまた一味違う風合いになっている。

『サワードウブレッド』はイースト菌を混ぜた一般的なパンに対し、自然発酵させた酵母を使用しているパン。多くの栄養素が含まれているので身体に気を使っている方にはとっても優しい食事メニュー。イチオシです!

✔︎クロックムッシュ 1400円

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こちらはきのこたっぷりのクリーミーな味わいのサンド。

玉ねぎの甘味ととろけたチーズが優しい味に。かなりボリュームもあるので、しっかり腹持ちもあるメニュー。

リニューアル時に変更したメニューはやや価格帯をあげたが、その分ボリューム感と高い質、満足感で時間をかけて味わえるようにと練られたメニューばかり。

✔︎ルシアン 600円

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珈琲とココアを半分ずつ混ぜたルシアン。こちらは昔から変わらずにあるメニューの一つ。

珈琲に苦手意識のある方はルシアンから試してみてもいいかもしれない

✔︎本日のケーキ 700円

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この日はさつまいものケーキ♡ 
秋だなあと実感… 🍠

蜂蜜がたっぷりかかっていて、浅煎りのフルーティーなカヤバの珈琲にピッタリかと໒꒱

✔︎コーヒー 500円

「カヤバ珈琲」という店名からご想像の通り、なんといってもやはり売りはコーヒー。

「どんなコーヒーですか?」とお伺いしたところ、

___『浅煎りのノルディックローストのコーヒーです』

とのこと。

・浅煎りって酸味があるイメージ…?
・ノルディックロースト?

コーヒーが苦手な方は「酸味」が苦手、という理由の人は多いが、同じ浅煎りでも苦手に思うような酸味はなく、むしろ「紅茶」のような軽さがカヤバのコーヒー。

ノルディックローストは、コーヒーはフルーツであるという理念のもとで作られた手法で、コーヒーに豊かな果実感を与えてくれる


____『浅煎りが苦手という方にも飲んでいただいて好きになってもらえたんです』

「そういう方がいらっしゃると何よりも嬉しいですよね」

そう問いかけると目を輝かせて大きく頷いて『もちろんです!』と答えてくださった。

____『0.1g単位で調整しているのでぜひ一度飲んで欲しいです』

そう語ってくれるマネージャーさんの顔には、確固たる積み上げの上に出来上がったコーヒーに対する誇りと自信が漲っていた


「メニューを考案する際に大切にしていることは何ですか?」と伺うと

____『カヤバらしさがきちんと残るもので、誰が来ても頼みたいものがあるようなメニュー作りをしています』

と話してくださった。場所柄もあり、通勤前に日常的にきてくださる方もいれば、観光の一環として来られる方もいる。


年齢層も、国籍も幅広い喫茶店だからこそ、どんな方が来ても「仕方なくこれ、」と思うのではなく前のめりで「これ!」と思えるものを提供する、

そんなスタッフさんの姿勢が、地元の人や訪れる人たちにとって、お店をさらに愛すべき存在として認識させるのかもしれない。

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(ちなみにカヤバのおしぼりはとっても可愛くころんとして出てくるので楽しみに来店してみてください)

センスの交差点

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交差点の角に位置するカヤバ珈琲

細い道と大きな通りが交差する。人や車の行き交いが激しい場所にありながら、店内は静かにゆったりとくつろげる空間。

「藝大生が昔から愛した店」

つまり音楽や美術を専門的に学びたいと自身の道を歩んできた学生が、こぞって愛す場所にはきちんと意味があると、藝大生である自分だからこそ思う部分が大きい。

藝大生には繊細で敏感な人が多い。奇抜な人が多いと思われがちであるし、一般的にみたら少し違う観点や視線を持っている人が多いと感じることがあるが、

これはつまり「その人しか感じられない感覚に反応しているだけ」であって

それが作品や演奏に現れるのではないかと感じている。


小さなこだわりや見落としがちな出来事に目が留まる、そんな感覚を持つ人たちが長年親しむカヤバはそうした人たちのセンスに通じるものを持ち合わせてくれているのではないだろうか?


「どういうお店作りを心がけていらっしゃいますか?」

____『新しいものを提供したいというところです。本当にいろんな方が来られるので、普段だったら交わることのないセンスがここで味わえる、そんなお店にしたくて』


センスが交わる場所__まさに交差点の角にふさわしい喫茶店。

これから先もずっと、地元に愛され、観光客にも愛され、学生にも、年配の方にも愛される喫茶店となるだろう。

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「コロナで変わったことはありますか?」

____『緊急時代宣言を受けて短期間お店を閉めたとき、改めてこのお店を丁寧に見れるようになったんです。』

実はそれまでは「観光スポット」「映えスポット」のようになっていて、回転も早く、外も狭い道路に行列になってしまっていた


____『変わることも時には大事にして、メニューの改良だったり、どうしたらゆったりできるか、特別な空間になるか、考え直せたことがある意味とても良かったんです。』


年齢層は少し上がったものの、一人一人が自分の時間を過ごせる場所にもなった

新型コロナというものに対して悲観的にならず、前向きな捉え方でお店に向き合っているからこそだと感じた。


ちなみに背の高い方は屈んで入らないといけない低めの入口もまた昔ながらで、趣があって私は好きな入口

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席の予約もネットでできるので、混雑を避けたい方は事前予約をしていくと良いかと◎

朝8時からやっているので、朝活などされている方はぜひ訪れてみて欲しい

新しいセンスに触れて、心地よい一日が始められるのではないだろうか

店舗情報: カヤバ珈琲                        営業時間▶︎ 月-金 8:00-18:00 土・日 8:00-19:00            アクセス▶︎ 東京都台東区谷中6丁目1-29 日暮里駅/根津駅より徒歩約10分

公式インスタグラム


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