小説「中目黒の街角で」 第30話
家を出て品川駅に着くまでの間、不思議なほど罪悪感はなかった。結婚している身で他の男性と旅行に行くと言うのに私は羽が生えたような自由を感じていた。
「おはよう」
駅で待っていた山崎君はいつもの優しい笑顔で迎えてくれた。
「大人の遠足だね」と言うと笑って荷物を持ってくれた。彼のそんな小さな優しさがとても好きだった。
「着いたらどこいこうか?」
「いっぱい行きたいところがあるの。京都なんて修学旅行以来だから」
「一日で回りきれるかな?」
「できるだけいろんなとこ行きたい」