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【エッセイ】緑の芝と青い空。黄金色の太陽とビール。天国に一番近いところ、それがサッカースタジアム。

 この間の週末にJリーグの最終節を観に行ってきました。


 僕は子供の頃から鹿島アントラーズが好きなんですけど、今回観に行ったのは地元のチームで特に熱心に応援しているチームではありませんでした。

 それでもやはりスタジアムで観るのは心躍りますね。

 サッカーをスタジアムで観るというのは、音楽で言えばライブやコンサートに行くのと同じです。その場の空気感、人々の熱狂や息遣い、目に見える全てのものを楽しむことです。五感で捉えた情報を統合して、総合的に楽しめるのが生観戦の醍醐味です。

 テレビ観戦とスタジアム観戦、それはまるでエッチな動画を見ているのと、実際にエッチなことをすることくらい違いがあります。どちらが優れている、という話ではないんです。どちらも良さがある。一人だって素晴らしい。そういうことです。


 スタジアム観戦は本当に久しぶりのことでした。独身の頃は鹿島スタジアムによく行って、ゴール裏で声を張り上げたり、ホームスタンド側に座ってビールを飲みながら応援したりしてました。

 それも結婚して子供が生まれてからは、一人で出掛けるのは申し訳なくてスタジアムから足が遠のいていました。

 それが今回、地元チームがホーム最終戦ということで子供は無料で観れるという粋な計らいをしてくれたことで、家族を誘ってスタジアムに行くことができました。

 正直、熱心に応援しているわけでもないし、知っている選手も少ないし、楽しめるかどうかという不安も少なからずありました。
 それに、そんな気持ちで観戦することが真剣に闘っている両チームの選手やサポーターの皆さんに申し訳ないんじゃないか、という後ろめたさも感じていました。


 実際に観戦してみて、どうだったか。答えは、どちらもまったくの杞憂でした。

 子供たちはキッズイベントやスタジアムグルメを楽しみ、入場時に配られたホームチームのチームカラーである緑色のウェアを着て喜んでいました。
 僕と妻はスタジアムグルメとビール、選手たちの熱い闘いを楽しみながら、選手たちに拍手や手拍子で応援の気持ちを送りました。


 今回座ったのはバックスタンド側。13時キックオフで、空の頂を通り過ぎた冬の太陽が優しく暖かな光で包んでくれていました。
 鮮やかな緑の芝が日の光を受けて煌めき、顔を上げれば真っ青な空が広がり、本当に美しい光景です。

 焼き鳥を片手に持ちながらビールを飲んで、その光景を目に焼き付けました。
 とても気持ちよくて、天国があるとすれば、こんな風に暖かくて広くてゆったりとしているんだろうと思います。それぐらい気持ちよくて昇天しそうでした。ハーフタイム中はビールの酔いで本当に昇天しかけたけど。


 試合をしている2チーム、どちらかのサポーターではない僕は勝敗を気にせずにのんびりとした気持ちで、純粋にスタジアムの雰囲気とサッカーの試合を楽しみながら観ていました。

 そんな立場だからこそ気付いたこと、見えた光景がありました。おそらく、これが鹿島アントラーズの試合だったら気付けなかったと思います。どうしたってアントラーズのプレイに熱狂して、ゴールに一喜一憂することになるので。それはそれでスポーツを応援する醍醐味ではあります。

 その気付いたこととは、純粋に考えれば勝敗なんてないんだ、ということです。
 こんなことを言ったら一生懸命に勝利を目指して闘っている選手やサポーターに怒られるかもしれません。
 それにスポーツ競技という勝敗をつけることを目的とした行為に対して、なにを言ってるんだと思われるかもしれない。

 でも、声がかれるまで懸命に声を出し、足をつるまで走り回り、体をぶつけてボールを奪い合う選手たちの全力な姿。どんな時でも休むことなく応援を続け、コロナの影響で声を出せない代わりに必死に手を叩いて気持ちを伝えるサポーターの姿。
 そのすべてが美しく、素晴らしく、とても価値のあることに僕には思えました。

 その美しさや価値において、勝敗なんて関係ありません。試合終了のホイッスルとともにピッチに膝をついて泣き崩れる負けたチームの選手たちは、本当に美しかったし輝いていました。

 もちろん試合の勝敗はつきます。一年を通してみれば、リーグ戦における順位もつきます。それは競技である以上は当然のことです。
 僕は別にそこを否定したいわけではないし、プロスポーツである以上は勝利を目指して闘うべきだと思うし、そこにおいて大事なのは勝敗という結果ということもわかっています。

 それでも、やっぱり思うのです。勝敗を超えた部分、懸命に闘うひたむきさの中にこそ美しさと価値がある。

 リーグ優勝をした今シーズンの川崎フロンターレの喜びの中にも美しさはあるし、かつてシルバーコレクターと呼ばれていた川崎フロンターレの敗戦の涙の中にも美しさはある。だから僕は、負けて涙を流していた中村憲剛の姿も、念願の初優勝を遂げて号泣する中村憲剛の姿も脳裏に焼き付いていて大好きです。


 これは人生も同じな気がします。人生にだって純粋に考えれば勝敗なんてないんです。

 勝ち組負け組なんて言葉は、資本主義経済の価値観の中で金持ちが作り出した幻想です。
 でも、そんな勝ち組と言われている人たちだって、資本主義経済に踊らされて金の奴隷にされた敗者であり、幸福はそんなところにはありません。

 資本主義経済の価値観の外に出て、自分自身の幸せを掴むことが大事であり、そのためには今を懸命に生きる。ひたむきに世界と闘い、自分の人生を作り上げていく。

 今の社会システムを支配している価値観ではなく、自分自身の価値観の中で生きる。

 そこに勝ち負けなんてありません。あるのは苦難と幸福です。


 サッカーを観て、その美しさに触れて、ひたむきに生きようと改めて思った週末でした。
 大事なのは、一生懸命、ひたむきに今を生きること。


 それでは、また。

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