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僕が出会った風景、そして人々(番外編③)

発掘現場の仕事

次の日、現場に行くと、新しい仕事が僕を待ち受けていた。遺物上げだ。

笑い仮面こと、主任調査員のK氏によると、現在、発掘調査は縄文時代の生活面に到達しているそうで、これ以後発見される遺物はすべて、最後にそれが廃棄された地点をほぼ保った状態であるという。当時の僕にとってはまったくちんぷんかんぷん、意味不明であったが、言われるまま作業した。

仕事の内容を簡単に説明するなら、今までに発見した遺物に名前をつけて、出土地点の位置を測定した後、一つずつ丁寧にビニール袋に入れて事務所に持ち帰るということだ。

遺物出土状況2

上の写真は最近のもので、光波測量により、1点ずつ位置情報を記録する。僕が発掘調査に従事していた頃の遺物上げは、下の写真のように、水糸で遣り方注①)を組み、メジャーを用いて計る方法が一般的だった。

遣り方3

当時は発掘調査の知識もなく、縄文時代がいつからいつまで続き、どんな文化だったかなどまったく知らなかったし、それほど興味もなかった。ただひたすら、バイト代を稼ぐために作業をしていたんだと思う。

この頃、僕はこんなことを考えていた。

「生きる目的と生活の手段が同じであれば、こんな幸せなことはない」と・・・。

素晴らしい小説を書くこと。これが僕の生きる目的だったので、上の式は、簡単には成立しそうになかった。

そんな苦悩をかかえつつ、僕は日々の労働に汗を流していた。

愛すべき発掘現場の人々

さてここで、遺跡発掘現場の作業員について少しお話ししてみたい。

僕が最初に入った現場では、トップの主任調査員が市役所の職員で、その下に調査員が数名いた。彼らはみな若く、考古学を専攻する大学生だった。

では、一般の作業員はというと、これがまた千差万別。僕のような売れない作家(?)や、売れない画家、売れない役者、売れないミュージシャン、売れない写真家、その他売れない人たちがひしめいていた。いや、正確には、「今は・・・」という単語がそれぞれの頭についたのだが・・・。

困ったことに、それぞれが自分に対して強烈な自信を持っているため、何をするにも「オレ(アタシ)は天才だ」という雰囲気を醸し出してしまうのだ。
 しかも同時に、「いわば今は勇者の雌伏期間、発掘現場でのオレ(アタシ)はあくまで仮の姿」的な雰囲気も常に発散しているので、こんなに扱いづらい人種もそうそういなかったと思う。

もっとも、僕はそうではなく、常に自分に自信がなかったので、いつも「どうしてみんな、あんなに自信満々なんだろう?」と不思議に思っていた。

このように、行政によるお堅い仕事ではあったが、あまりに個性的な人間が集まり過ぎたため、現場では、常に筆舌に尽くしがたいほど、面白い出来事が続出したのだった。

次回からは、そんなエピソードを少しずつご紹介していこう・・・。

(期待してね。)

注① 遣り方やりかた:現場に水糸のメッシュをかけて、水平の地点情報を記録する方法。それと並行してレベルと呼ばれる機械を使い、それぞれの遺物の標高値も記録した。

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