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アンフィニッシュト

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サンデー毎日で連載中の新作『アンフィニッシュト』を1話からnoteでも無料掲載中! 毎週月曜・木曜日に定期更新しています。
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2018年1月の記事一覧

アンフィニッシュト 43-1

アンフィニッシュト 43-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 石山の部屋を辞した後、鑑識に向かった寺島は、一千枚近い写真の中から目当てのものを見つけ出した。
 その写真は、簡宿の隣の駐車場を写したものらしく、現場から火災風で飛ばされたとおぼしき「Disk Lord

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アンフィニッシュト 42-2

アンフィニッシュト 42-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

第四章 天国からの脱出



平成二十八年(2016)の正月が明けた。
国内では沖縄県知事が、宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移転先とされていた名護市辺野古沿岸部の埋め立て承認の取り消しを正式決定し、政

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アンフィニッシュト 42-1

アンフィニッシュト 42-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 庭にある車回しには、すでにユーチョルがいて、兵士に何か指示している。
 琢磨が駆け付けると、ほぼ同時に、田丸をはじめとしたメンバーも駆け寄ってきた。
「ユーチョルさん、いったいどういうことだ!」
 田丸

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アンフィニッシュト 41-2

アンフィニッシュト 41-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

騒動が一段落したところで、田丸が立ち上がった。
「柴本の言う通りだ。主体思想は唯一絶対のものであり、無条件に従うべきものだ」
「あんたは間違っている!」
 背後から中田に羽交い絞めにされながら、吉本が喚(

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アンフィニッシュト 41-1

アンフィニッシュト 41-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「よせ!」と言って中田が吉本を引きはがそうとするが、吉本は放さない。
「今は、ユーチョルさんたちに任せるしかないじゃないか!」
 田丸がうめくように言う。
 ――その通りだ。俺たちは北朝鮮政府に生殺与奪権

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アンフィニッシュト 40-2

アンフィニッシュト 40-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 ――こいつの気持ちがどう変わったのかは分からない。だが、何かが吹っ切れたのは確かだ。
 柴本の横顔を見つつ、琢磨はベッドに腰掛けて煙草を吸い始めた。
 煙草はうまくはないが、心を落ち着かせてくれる。次ら

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アンフィニッシュト 40-1

アンフィニッシュト 40-1

「ああ、助けて!」
「落ちつけ」
 琢磨が柴本を引き寄せる。
「いいか、このまま這いずってちゃ間に合わない。ゆっくりと立ち上がれ」
 琢磨が手本を示すように立ち上がると、柴本も震える手をついて、それに倣った。
「少し離れるぞ。その距離を保って一歩ずつ進むんだ。ゆっくりとな」
 琢磨は柴本から三メートルほど離れると、背後に気を付けながら、河畔に向かって歩き始めた。少し遅れて柴本が続く。
 ――大丈夫

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