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アンフィニッシュト

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サンデー毎日で連載中の新作『アンフィニッシュト』を1話からnoteでも無料掲載中! 毎週月曜・木曜日に定期更新しています。
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アンフィニッシュト 54-1

アンフィニッシュト 54-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「これで、すべてがつながりました」
 引き時を覚った寺島が立ち上がる。
「これから君は、どうするつもりだ」
「堀越一族を告発します。力を貸して下さい」
 三橋のアタッシュケースの中には、資金の出所を示す通

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アンフィニッシュト 53-2

アンフィニッシュト 53-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「何でしょう」
「最近、死んだと思っていた人が現れませんでしたか」
 藤堂の顔色が変わる。
「あなた、何者——」
 その言葉で、答えは聞いたも同じだった。
「やはり、そうでしたか」
「ちょっと待って。私は

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アンフィニッシュト 51-2

アンフィニッシュト 51-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 そのことがあってから琢磨は出歩くこともなくなり、ホテルを転々と変えて姿をくらますことにした。むろん行き先は横山には告げなかった。そのため生活の中心は東京の雑踏へと移っていく。
 誰が琢磨を狙ったのか、琢

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アンフィニッシュト 50-2

アンフィニッシュト 50-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

——警視庁に連れていかれるのだな。
 近藤たちは琢磨と話をするのを禁じられているのか、「喉が渇いたか」「煙草を吸うか」といった質問をしただけで、それ以外のことを一切聞いてこなかった。
 琢磨も缶コーラと煙

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アンフィニッシュト 50-1

アンフィニッシュト 50-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 寺島はノートを置いて立ち上がった。
 ——過去に押収した乱数表だ!
 北朝鮮に渡ったさど号ハイジャック犯たちは、日本に戻ると裁判を受けさせられ、懲役刑に処される。そのため、「さど号の妻たち」と呼ばれる自

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アンフィニッシュト 54-2

アンフィニッシュト 54-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「それでいい」
 野崎が二人に目を向けると、三橋が笑って言う。
「どうやら、坊やも何かにけりをつけたようだな」
「そういうことだ。それであんたらはどうする」
「当面、日本は騒がしいことになりそうだ。辺野古

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アンフィニッシュト 49-2

アンフィニッシュト 49-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。



「おかしいな」
 寺島は何度も首をひねった。
 赤城に会っても事件解決の糸口を摑めなかったので、寺島は中野の親族に会おうとした。だが、いくら調べても戸籍がないのだ。
 昔のことなので、役所が紛失した

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アンフィニッシュト 49-1

アンフィニッシュト 49-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「妹さんは、北朝鮮に渡航できたとお思いですか」
「おそらく無理でしょう。奴らの誘いに掛かった者は連れていかれたらしいですが、自ら飛び込もうとする者は、スパイの疑いがあるので、入国は極めて困難と聞いています

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アンフィニッシュト 53-1

アンフィニッシュト 53-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

——随分と寂しい街だな。
 それが寺島の辺野古に対する第一印象だった。
 市街地にもかかわらず、歩いている人はほとんどいない。今は廃屋となった店舗に掲げられた英語の看板も色あせ、大半の店はシャッターを下ろ

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アンフィニッシュト 48-2

アンフィニッシュト 48-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

 第五章 虚構の果て



赤城壮一郎に会うのは容易なことではなかった。赤木は信者三十万人を擁する「神光教」の教祖に収まっており、マスコミの取材や信者以外の面会を、すべて断っているからだ。
非公式の事情

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アンフィニッシュト 48-1

アンフィニッシュト 48-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

次の瞬間、「バリバリバリ」という音がした。
「伏せろ。機銃掃射だ!」
 岡田の声で、琢磨が反射的に身を伏せる。
 岡田は蛇行を繰り返すことで銃弾を避け、何とか相手との距離を取ろうとしている。だが、北朝鮮の

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アンフィニッシュト 52-2

アンフィニッシュト 52-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

赤城の顔は、死を覚悟した人間とは思えないほど、晴れ晴れとしていた。
 ——誰かに操られることが、それほど嫌だったのだな。
 寺島にも、赤城の気持ちが分かるような気がした。
「最後に一つだけ教えて下さい」

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アンフィニッシュト 47-2

アンフィニッシュト 47-2

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「岡田君――」
「分かっている」
 岡田も事務所内の動きを見つめている。
 突然、電話を持った男が、周囲にいる者に何事かを指示した。事務所内の人の動きが慌ただしくなる。
「ばれたかな」
 岡田が唇を嚙む。

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アンフィニッシュト 47-1

アンフィニッシュト 47-1

サンデー毎日(毎日新聞出版)にて2017年秋まで連載していたミステリー小説を毎週火・木にnoteにて復刻連載中。
1960年代後半の学生運動が活発だった日本を舞台に伊東潤が描くミステリー小説。

「国家権力を守るために、俺は戦ってきたわけじゃない」
「おいおい、あんたも俺も、奴らにとっては虫けら同然なんだぜ。虫けらが何を言ったって、誰も聞いてはくれないよ」
「俺たちは、政府にとって虫けらなのか」

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