Japanese Film Project
韓国リサーチvol.01(韓国映画・ジェンダー平等センター"ドゥン・ドゥン")
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新型コロナウイルス感染症やコロナワクチンについては、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
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韓国リサーチvol.01(韓国映画・ジェンダー平等センター"ドゥン・ドゥン")

Japanese Film Project

"韓国映画・ジェンダー平等センター "(The Center for Gender Equality in Korean Film)のイ・ハギョンさんと、コン・ヨジンさんに、韓国映画界における性暴力防止やジェンダー格差解消の取り組みについて、お話を伺いました。  ※韓国映画・ジェンダー平等センター公式サイト
通訳:ファン・ギュンミン(映画研究者・明治学院大学言語文化研究所 研究員)

イ・ハギョンさん(相談窓口・支援員/勤務歴2年)
コン・ヨジンさん(予防教育委員・多様性教育/勤務歴1年)

▼韓国映画・ジェンダー平等センターとは?

Q:団体設立経緯を教えてください。

最初は ”女性映画人会”があったんです。2016年に、”文化芸術界内の性暴力”というハッシュタグ運動がSNS上でありました。それを受けて、実際に文化芸術業界でどういう性暴力があったのか、その実態を調べる必要があった。
その後、映画業界の中でも「ジェンダー格差を無くす動きが必要だ」「性暴力を解決しなければならない」という認識が確かに芽生えた。そういった流れの中で、男女平等と性加害の撲滅に取り組むセンターを設立しなければいけない、という認識が高まったんだと思います。その後、2018年に女性映画人を中心に韓国映画・ジェンダー平等センターが発足したというのが設立経緯です。

センターの公式サイト

遡ると2015年前後に、韓国社会全体で「フェミニズム・リブート(※Feminism Reboot)」という高まりもあって、性暴力に対する一般の認識も高まっていた時期なんです。そういった流れも関係していると思います。

※「Feminism Reboot」とは
ソン・ヒジョン(文化評論家)は、 1990年代に盛り上がったフェミニズム運動の勢いが、2000年代以降、弱まっていたが、2010年に入ってから、再び複雑な様相に展開されたことに注目し、その現象について2015年に「フェミニズムがリブートされた」と指摘している。

出典:ファン・ギュンミン、「進化するヒロインたち:韓国ドラマにおける女性像の変遷」、『エトセトラ』 VOL.5、エトセトラブックス、二〇二一年

▼5つの取り組み

センターの取り組みは、大きく5つに分けられます。1つずつ紹介していきます。
1)相談および申告の受付
2)セクハラ、性暴力被害者の支援
3)性暴力予防教育の支援
4)ジェンダー平等に関する研究および実態調査
5)認識改善のためのジェンダー平等のキャンペーンと連帯

1)相談および申告の受付
被害者からの相談を電話と対面の両方で対応しています。

2)セクハラ、性暴力被害者の支援
被害者に対する支援も行っていて、主に2つに分かれています。法律的な支援、もう一つは医療的な支援です。

法律的な支援は、「1)弁護士を雇う費用 2)実際に裁判を行うときの費用 3)証拠を録音する費用」などを金銭的にサポートしています。医療支援は、精神科と産婦人科などを受診する際にかかる費用が支援されます。

3)性暴力予防教育の支援
性暴力を防ぐための教育活動です。映画業界内の人を対象に、制作現場スタッフに限らず、映画祭関係者、製作者、制作プロダクション、アカデミック分野の人々を対象としています。

セミナーで教える講師もセンター内で養成しています。講師は主に映画業界の出身者ですが、ジェンダーや性暴力に関する知識を身につけてもらう必要がある。ですので、講師たちのために、毎年、教科書も作成しています。例えば、新しくできたジェンダーの概念や、映画業界で実際に起こった事例などを更新する必要がある。毎年ワークショップを通じて、講師たちの教える内容も日々アップデートしています。

4)ジェンダー平等に関する研究および実態調査
韓国の映画制作におけるジェンダー比率を調査研究し、セクハラ防止やジェンダー格差解消に向けた意識を高める環境づくりを目指しています。

2017, 2019年と、計2回調査を実施しました。2019年の調査では、業界内の人々を対象に、対面とオンラインでのインタビュー調査を実施しました。調査対象者は834人、調査期間は5ヶ月。調査内容は性暴力の被害に関して。本人の被害だけではなく、自分が目撃した他人の被害も調査対象としています。映画人たちが、その点をどう認識しているのか、#MeToo運動以降にどういう変化があったと感じるのかを、聞き取り調査しました。

その他にも、映画関係の業界団体における"組織文化"についても調査を実施しました。大学の研究チームと協力し調査する場合もあります。

※2018年に公表された調査で、70%以上の女性映画スタッフが性暴力やハラスメント被害にあったと回答

5)認識改善のためのジェンダー平等のキャンペーンと連帯
他団体とも連帯しながら、ジェンダー格差解消のキャンペーンを実施。SNSやWebサイトを通じて、ジェンダーギャップ解消に関するコンテンツを提供しています。

入口はジェンダー格差や性被害ではありますが、性暴力を撲滅するということを超えて、“多様性を求めるということ”、つまりは“インクルージョンの意識を高めていく必要がある”と私たちは考えています。

去年は主に“女性の物語について”研究していて、ハリウッド女優のGeena Davisが運営している研究所(Geena Davis Institute on Gender in Media)と一緒に、普及活動(ラーニング活動)を実施していました。今年からは性別に限らず、難民、移民、障害を持った人たち、性的マイノリティーなど、対象を拡張しています。

▼相談窓口のあり方

Q,:年間の相談件数は?どういった相談が多いのか?

ハギョン:近年は、年間44件ほどの相談が寄せられます。性暴力やセクハラ被害だけではなく、二次被害に関するサポートもしている。例えば、映画制作現場や飲み会、映画祭の中で起きるセクハラなど。

センターが立ち上がった時期は、#MeToo運動が精力的だったこともあり、多くの性被害が明るみになった。しかし同時に、それが二次被害を引き起こしてしまった。現在は、ほとんどのケースでは機密情報が守られているので、二次被害が減少したというレポートもあります。とはいえ、未だに性的なハラスメントや暴力に関する報告がわたしたちに寄せられるのが現状です。

Q:金銭的な支援以外に、相談窓口が担える役割はあるのでしょうか?

ハギョン:事件解決の為の法的または医療的支援は必要です。ですが、それと同じくらい、被害者とのコミュニケーションそのものがすごく重要だと思うんです。法律的に事件解決を目指すというのは、すごく時間がかかる。1ヶ月や2ヶ月ではなく、長い時は2〜3年裁判が続く場合が多くあります。

その過程で被害者がとても疲弊してしまう場合が多い。被害者の話を受け止めるプロセス、その全てが被害者とのコミュニケーションになるわけなんです。つまり、被害者が問題を解決する過程を共にする、被害者のそばにいるということに意味があるのだと思います。

Q:昨今の日本でも性加害の問題が取り上げられ、相談窓口の必要性が議論されています。ドゥンドゥンさんも相談窓口を設けていますが、誰が窓口を担った方が良いと思いますか?
例えば、「映画界の人が担った方がいい」、「映画界とは関係ない外部の人が担うべきだ」、「専門家が良い」など、様々な考え方がありますが。

ハギョン:映画人ではなく、相談を専門的に担う相談員が窓口対応するのが良いと思います。

被害者が同じ映画界にいる第三者に相談する状況では、利害の対立、つまり障害になりうる。そして、時折、その窓口の担当者が、二次加害を起こしてしまう場合もあります。ですから、専門家による相談窓口が必要だと思います。

他方で、映画界特有の構造や特徴を知ることは、映画界の外にいる相談員には難しいのが実情です。専門の相談員だけでは、問題解決が困難になる場合もありますので、映画界の協力も必要不可欠だと思います。

▼運営資金とKOFICの存在

Q:多角的に活動していますが、活動資金はどこから得ているのでしょうか?

ヨジン:KOFIC(韓国の映画振興委員会)から公的な支援を受けていて、“女性映画人会”からも活動資金をいただいています。被害者を支援する外部の団体とも連携しています。事務局で働いている専属スタッフは4名です。
※KOFIC公式サイトはこちらから(韓国語のみ)
※KOFIC英語サイトはこちらから

Q:日本にはKOFICのように、映画制作現場の環境改善に対し資金提供してくれる機関が少ないので羨ましいです。ちなみに、私たちJFPは持ち出しと、助成金でやっています。助成金は2/3助成がほとんどですし、申請が通らないことも多い。あとは、クラウドファンディングで各所へ頭下げてお金を集めるしかない。愚痴はさておき、KOFICは、映画界の環境整備のため、他にどんな活動を担っていますか?

ヨジン:映画スタッフや監督のジェンダー格差に関する統計データも、KOFIC(韓国映画振興委員会)が毎年出しています。例えば2009〜2018年に公開された韓国映画の中で、女性監督の女性比率は15%にとどまっています。2020年の女性監督比率は21.5%です。

Q:その数値は上昇していますか?皆さんの活動は効果があったと感じますか?

ヨジン:2018年から2020年までのデータを見ると、映画業界の女性スタッフが増えたのは事実です。そして、女性に関する物語、女性を描いた映画も増えました。

その時期はコロナ禍で商業映画の公開がキャンセルされる傾向があって、そのギャップを埋めたのが、低予算映画とインディペンデント映画なんです。インディペンデント映画には女性スタッフが多く参加している傾向がありますから、全般的に女性のスタッフが増えたのかもしれません。

Q:予防教育についても、KOFICからの支援はありますか?

ヨジン:KOFICが支援する映画では、クランクイン前に性暴力に対する予防教育(ハラスメント講習)が義務付けられています。

ですが、講習後に、講師が現場に行って問題ないかチェックするところまでまだ実施できていません。あくまで、映画撮影前の予防教育レクチャーのみ。コロナ以前は対面でレクチャーを実施していましたが、コロナ禍ではオンラインで実施しています。

Q:KOFICが支援していない映画は、どうなるのでしょう?

ヨジン:性暴力対策を実施している団体は、私たち以外にもあります。ですので、私たち以外の団体や弁護士から、性暴力の講習を受けている作品もあると思いますが、そのような講習を受けている作品数の統計がある訳ではないので、全てを把握することはできません。
そもそも韓国の場合は、映画業界に限らず、職場内での性暴力予防教育が義務付けられています。それを会社別に必ず実施する必要がある。ですので、弁護士などの協力を受けながらそういう性暴力予防教育を行う民間会社もあると思います。

▼法的、政治的に戦いつつ、業界全体で

Q:今までの話を聞いて、明らかに日本より韓国の方が進んでいると思いました。とはいえ、韓国映画界にもまだ課題はあるとは思いますが、その点をどうお考えですか?

ヨジン:私は個人的に映画がとても好きです。私が好きな映画産業の中で、持続可能な、肯定的な変化を生み出したいという思いがあって、ここで仕事をしています。

性暴力を予防する教育も必要ですが、多様性教育、インクルージョン教育に私は注目しています。より多様な人を受け入れる社会になるために、センターで出来ることをやっていきたい。より多様な映画が製作されること、これからの韓国社会の発展の為にも、そういった多様性に注視していくべきだと考えています。

ハギョン:私も同じ考えです。韓国映画界が、ジェンダー差別や性暴力だけではなく、障害を持っている方々や性的マイノリティー、その他の課題にもフォーカスしていくことを願ってます。

Q:昨今の日本では、映画界の性加害や労働環境が問題視され始めました。おそらく、韓国から5〜6年遅れている。お二人の経験から、何かアドバイスを伺えないでしょうか?

ヨジン:私は韓国が日本より進んでいるとは思いません。なぜなら、日本の場合、インティマシーコーディネーターがいますよね。各国がそれぞれの方法で努力しているのだと思います。なので、海外の映画業界で力を合わせて、お互いの政策を参考にするのもいいかなと思います。

あと、私たち民間団体がどんなに努力をしても、法的な制度が整備され、制度化されないと解決できない問題も多い。中間支援団体として、一般の方々からの支持を得るのも重要ですが、他方で政治的、法的に制度を整備していくことが、最も重要だと私は考えています。

ハギョン:アドバイスと言われても、難しいんですが(笑)。韓国の場合は、性暴力の事件があったときに、女性映画人が中心になって、一つの声を出していました。#MeToo運動の流れの中で、映画界で起きた事件をただ看過するだけでなく、実際どういう被害があったのか、様々な団体と一緒に力を合わせて調査したんです。

その後、他の映画関連団体と協力し合って、「映画界セクハラ防止のための生活規則10」という規則のようなものを、共同で発表しました。つまり、一つの団体の声だけではなく、映画業界全体で一緒に声を上げていくことも重要だと思っています。
※以下、「映画界セクハラ防止のための生活規則10」

1)業務とは無関係なルックスの評価はしません 2)性的な投稿や冗談を言いません 3)相手の同意なしに撮影をしません 4)固定された性的役割と年齢を強調する言葉は発しません
5)お酒は飲みたい人だけで適切な水準で飲みます 6)不要な身体接触をしません 7)同僚のプライバシーに関する噂を広げません 8)業務に関する話は、出来るだけ開かれた空間で行います 9)同僚にプライベートな出会いを強要しません 10)セクハラ事件の対処方法を事前に理解し、周囲に被害者がいる場合、積極的に声を上げます


取材:歌川達人・近藤香南子・清水裕  /  記事作成:歌川達人
通訳:ファン・ギュンミン(映画研究者・明治学院大学言語文化研究所 研究員)

※本プロジェクトは、トヨタ財団 2021年度研究助成プログラム「日本映画業界におけるジェンダーギャップ・労働環境の実態調査」(代表:歌川達人)の助成を受けて実施されています。


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JFPは、日本映画業界の「ジェンダーギャップ・労働環境・若手人材不足」を検証し、課題解決するために「調査および提言」を行う非営利型の一般社団法人です。 https://jfproject.org/