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日本からの小さな大使が、海外の学校で学んだこと

私は海外の学校に通う前日、両親から教えられたことがある。

1つ目は"Where is washroom?"という例文。
2つ目は「自分は日本の小さな大使であると常に意識ながら行動すること」だ。
前者はトイレに行けないと1番まずいから。後者は海外で過ごす上で日本人としての自覚を持たせるために伝えられたそうだ。

日本をよく知らない海外の人にとっては、あなたたちの言動すべてが日本のイメージに直結する。
だから、あなたたちは自分を小さな大使だと思って生活しなさい。日々の行動に気をつけて、海外の人に日本や日本人の悪いイメージを与えないように気をつけなさい。
あなたたちが日本の悪い見本になってしまったら、後から来た別の日本人が海外で嫌な思いしてしまうのだから。

そのようなことを何度も繰り返し言われたことを覚えている。
海外で生活した数年間で、両親の言葉は私を作る土台になった。


さて。
そんな小さな大使が、学校に入学してから卒業するまでの数年間、学んだ価値観や修正された思い込みについて、ここで書き記してみたい。



***



まず、どこの国でも、良い人も悪い人もいるということだ。

中国や韓国についてのニュースを見て、ずっといい印象を持てなかった。
報道が100%真実を伝えている訳ではないと大きくなって知ったが、それでも隣国やその国民に対する不信感は長い間拭えずにいた。
私が日本に住んでいた頃は中国人や韓国人とは関わりがなかったが、海外で彼らと接して、私が思っていたような人たちではないと気がついた。

私が仲良くなったのは、彼らも含めたアジア人が多かった。やはり生まれ育った国の文化が似通っていると、距離が近くなるのだろう。
どの国でも日本人よりずっと控えめで大人しい子もいれば、当たりのキツイ気の強い子もいた。出身なんて相手の一部でしかなく、あまり当てにならない。
海外で出会った私の親友は中国人と韓国人の女の子だ。今でもたまに連絡を取るが、あの頃と変わらぬ友情がある。

ニュースを完全に信じていた訳ではないが、多少影響されていた部分はあっただろう。
あのまま日本にずっといたら、差別的な思考になっていたかもしれない。環境が変わったことで、思い込みがいい方向に改善されたのだ。


次に、海外では自身の障害を周りに隠さないこともあるだろう。

日本人は見えない障害であれば、仲良くなるまで隠す傾向にある。理由としては相手に気を遣わせてしまうからではないだろうか。
だが、海外では初対面の人に対しても、知り合ってまず最初に伝えることが多い。「私は〜〜が悪いからよろしくね」といった具合だ。

始めは驚いたが、後にその方が人間関係が上手く行くのだと察した。
先に相手のことを把握して関係を築く方が、言う方も言われた方もお互い気が楽になる。隠し続けるせいで起こりうるトラブルも回避できるだろう。
コミュニケーションを円滑にするためには、伝え方を1つ変えることも大切なことなのかもしれないと思い直すようになった。


また、料理や家事を男女ともにしていることも挙げられる。

海外のサマースクールで開催していた、小学生〜中学生向けのクッキング教室に妹が参加することになった。
私や母は女子が大半だろうと予想していたが、予想に反して男子も多く、教室は男女の参加者が半々だったのだ。

今は少しずつ変わっているのかもしれないが、まだ日本では「料理は女性がするもの」という考えが根強い。私と母がクッキング教室も女子ばかりだろうと思い込んでいたのはそのためだ。
海外での家庭の様子を見てみると、大半の夫婦が料理や家事、育児などを協力して行っている。
私が通っていた学校では、子どもの送り迎えのために毎日15時に帰宅するという男性の先生もいたぐらいだ。

つまり、海外では「女子がするもの」という考え方はほとんどない、と言えるのではないか。


私の考えも遅れていたんだな、とこれら海外の経験が思わぬところで勉強になった。
きっと、思い込みや既存の価値観を壊したり、アップデートするには、自分とは異なる人々と関わり合うことが必要なんだろう。



***



とはいえ、海外に行ったから日本が嫌いになったとかではなく、寧ろそのおかげでますます日本が好きになったと言わせて欲しい。

日本は海外に比べて圧倒的に治安がいい。私は海外で数回だけど、東洋人差別に遭って怖い思いをした。海外に移住して初日に、見知らぬ現地の女性に唾を吐きかけられた。日本に帰って小学生が1人で電車通学しているのを見たときは、日本の安全さを改めて実感した。

デザインは妥協するとして、海外では小柄な私の体型に合う服がほとんどないから困った。特にズボンは丈が長いから裾を折るしかなかった。日本では好きなデザインで私の体型に合った服が変えるので、とても助かっている。

日本の製品や食材が、海外だと数倍の値段でしか手に入らない。帰国直後の私たちには、スーパーがまるで食品の遊園地に見えた。ありとあらゆる美味しい食材が何でも安く手に入ることの有難みを知った。百均の商品ですら、日本のものは品質がいいのだから驚きだ。海外の安い製品はすぐに壊れる。

美容院がないのも地味に大変だった。日本人の美容師さんなんてほとんどいなくて、あったとしてもアジア系の美容院。そんなだから自分の思い通りの髪型にならないか、人によっては一時帰国まで髪を切らない場合が多い。私は母にずっと髪を切ってもらっていた。

他にも、私は海外に行ったから気がつけた日本の良さがあった。
もちろん、逆の考えの人を否定するつもりは一切ない。
ただ、私には日本の生活が合っているのだろう。一生海外に住みたいとは思わない。骨を埋めるのなら日本の地がいい。



海外で学んだことは、価値観以外では他にも話しきれないほどある。

インド人の発音は聞き取りにくいことが多いとか。
ロシア人の若い女の子は、同じ人間だと思いたくないほど、とてつもなくきれいだとか。
海外の人はみんな背が高いと思っていたけど、意外と必ずしもそうではないとか。
若い頃からタバコだけでなく、マリファナをやっている子も多いとか。
日本に興味ある人は、7割が漫画・アニメなどのポップカルチャー関連が理由だとか。

さっきと話がそれてしまったが。まあそんな、くだらないようなことばかりだ。


だけどそんなくだらないことも、海外生活で新しく学んだことも、ぜんぶぜんぶひっくるめて、今の私を形作っている。



さようなら、私の第2の故郷。

またいつか、会う日まで。




*文中に入り切らなかったおまけ*


ちなみに私が大使として海外の人に伝えられたことは、ほぼないかもしれない。私が与えたものよりも、経験から得たものの方が圧倒的に大きい。
日本について聞かれても、日本人とはいえ詳しく勉強したことない私が多くを答えられるはずもなかったので。

更には自分の英語に自信がなかったからあまり喋らなくて、「日本人は大人しいけど独り言が多い」というイメージを与えてしまった可能性がある。
冒頭のことがあるので悪い印象は与えないよう努力したが、詳細に至っては後から来た日本人に改善を任せたいと思う。


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