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残照(シナリオ)~東北の福島市を舞台に青春/純愛/ノスタルジーをテーマとして鉄道(東北新幹線)のロードムービー仕立てで仕上げてみました🎬


〇福島 南東北大学(仮称) 学生寮 

   天気の良い穏やかな冬の午後。
   学生寮の周辺に何人もの老人が集まり寮の建物を懐かしそうに眺めて
   いる。
   (学生時代の寮生である)木村直樹と田中伸一が玄関に出て来る。二
   人ともテニスウエアを着てラケットを抱え、これからクラブ活動の練
   習へ行くところ。
   玄関に並んで腰掛け、靴紐を結び始める直樹の目に老人の一団が映
   る。
   直樹が不思議そうに眺めながら伸一に尋ねる。

直樹「(老人達の素性がわからず)何だう?(あの老人達は…)」
伸一「ああ、あれか…何でも随分と昔の卒寮生の同窓会って話だぜ」

   再び、老人達の面々。

直樹「そっか…そりゃ、さぞかし懐かしいんだろうな …」

   直樹が改めて老人達の姿を目で追う。
   穏やかに談笑している老人達の面々。 

伸一「それもそうだけど、なんか侘しさも相当なもんだろ?あの歳になって 
   青春真っ只中の頃のことを思い出すなんつーのは」
直樹「そうかもな…。自分もいずれはあの歳になって今の自分を懐かしむな
   んて夢にも思わんもんな」
伸一「(おどけた感じで)勉強に、恋に、遊びに、今は精一杯だってか!」直樹「(笑いながら)全くだ!」

   シューズを履き終えて、老人達を一瞥しながら、そのまま練習場へ向
   けて走って行ってしまう二人。  
   老人達の面々。

〇東京駅 東北新幹線ホーム(夕刻)  

新幹線東京駅

けたたましく鳴り響く発車ベルの音。     
全速力でホームの階段を駆け登る直樹。   
ベルが鳴り止むのと同時に発車間際の列車に飛び乗る。     
ドアが閉まり、ゆるやかにホームをすべり出す新幹線。   
ドアにもたれ、胸をなでおろす。      
少し落着いてから客室内へと移動する。   
車内は空いており中程の席に座る。

直樹「フーッ…ったく嫌な次長だよな…」  
額の汗をぬぐいながらつぶやく。

〇(回想はじめ)銀行・支店内

   無表情に机に向かい黙々と仕事をしている数名の行員。
   直樹が腕時計を見ながら、しきりに時間を気にしている。
   隣の席の同僚が怪訝そうにその様子を見て語りかける。

支店内

同僚「どうした?」
直樹「えっ?」
同僚「何そわそわしてんだ?さっきから」
直樹「?」
同僚「(腕時計を指差しながら)約束か?」
直樹「…まあ」
同僚「こう週末毎に休日出勤じゃあ約束もままならないよな」
直樹「今週は明日の日曜も出勤だしな」

   腕時計が午後四時前をさしている。 
   引き出しからこっそり、一枚の往復葉書の控えを取り出し内容を確認
   する。

   第八十六回 南東北大学 暁寮 同窓会のお知らせ
   日時:12月20日(土)午後六時
   場所:於飯坂温泉 山楽屋旅館


   葉書をカバンにしまうと、上着をまといカバンとコートをかかえ立ち
   上がる。
   おずおずと次長席へ歩み寄る。  
   頭をかかえて書類をながめている次長。

直樹「次長」恐る恐る次長に声をかける。
   
   次長が怪訝そうに顔を上げる。

直樹「…お話ししてありますが…」
次長「?(きょとんとした表情)」
直樹「今日はこれで失礼したいのですが…」
次長「何だっけ?」
直樹「ええ… 先日お願い致しました通り、これから福島での学生時代の同窓 
   会に行かせて頂こうと思うのですが…」
次長「何!… 本当に行くの…」
直樹「…」
次長「あれから何も言ってこないから諦めたと思ってたよ」嫌味っぽく続け 
   る。
直樹「…」
次長「仕事の方、大丈夫なの?高橋さんの案件まだ通ってないし、光栄産業  
   の件も週明けには決めなきゃならないだろう。田島工業の社長にはも
   う話し通してるのか?」まくしたてる次長。
直樹「はい、手配済みです。それに明日の休出勤も出られるように、今夜の
   最終の新幹線で帰ってくるつもりですので…」
次長「この時間に福島くんだりまで行って今日中に帰ってくるなんて、ただ
   疲れに行くようなもんだろう。叉の機会にしたら?」
直樹「いえ…その機会がなかなかなかとれませんので今回は是非行って来た
   いんです」
次長「…(憮然)」
直樹「…(困惑)」
次長「この後もう一度、全体会議で数字の詰めをやろうと思っていたの
   に…」依然、嫌味がましく続ける次長。
直樹「…」沈黙する直樹。
次長「今月の目標数字、再構築して週明けには必ず出してくれよ」

   不機嫌に語り、机上の書類に目を戻す。

直樹「はい…」蚊の鳴くような声で答える。

   一礼してそのまま通用口へ向かう。
   通用口から出てくる直樹。
   憂鬱な表情が見る見るほころぶ。
   小走りに通りまで出ると、大げさな身振りでタクシーを拾い、乗り込
   む。

直樹「東京駅まで、大々至急!」

   運転手に大声で行く先を告げる。
   夕暮れの街並みに消えて行くタクシー

(回想終わり)


〇新幹線

   窓辺に頬杖をつきながら、ぼんやりと
   車窓を眺めている直樹。

直樹「毎日毎日…何やってんだか…俺は…」

   吐き捨てるようにつぶやく。

   車窓の風景が続く。

直樹「(大学時代の)皆はどうしるかな?」

〇(学生時代の回想はじまり)

   美しい福島の自然。
   躍動的なテニス部の活動場面。
   楽しそうな寮生活の日常の数コマ。
   最後にかつての恋人、純子との思い出が蘇る。

〇阿武隈川 河川敷(初夏の夕暮れ)

   投げるのに適当な石を探している直樹。  
   傍らに腰掛けている純子。

純子「来年はもう、卒業だね」
直樹「うん」石を探しながら頷く。
純子「就職、どうするの?」
直樹「まだわからないよ(石を拾いながら)」
純子「何かあるでしょ」
直樹「…何か…大きな事をやりたい…」

   拾った石をながめながらぼそぼそと語る。

純子「大きな事って?」
直樹「(投球フォームで)具体的に思いつか ないけど… 」
純子「卒業は目の前だよ」
直樹「…」石を川へ投げ込む。
純子「じゃー子供の頃何になりたかった?」
直樹「新幹線の車掌さん」振り返り、にっこり笑いながら答える。
純子「何それ…男の子だったら普通、宇宙飛行士とか野球選手とか夢見るも  
   のじゃないの?」
直樹「電車が大好きでさ、本当になりたかった」
   
   純子のところへ近づきながら答える。

純子「おかしいけど…直樹らしい。ちょっと人と違うよね」
直樹「きみは?」直樹が傍らに腰を下ろして尋ねる。
純子「決まってるじゃない」
直樹「なに?」
純子「素敵なお嫁さん」
直樹「それこそ!」呆れた表情。
純子「何よ?」
直樹「単純!(苦笑)」
純子「そうかな」
直樹「…何かさ…」
純子「え?」
直樹「何か… 人生なんて無限に続くような気がするし…」
純子「…」
直樹「やりたいこと山ほどある気がするし」
純子「うん」
直樹「何でもできそうな気もするし…」
純子「…」
直樹「…やっぱりわからないや…」
純子「フフフ…」思わず笑う。
   すがすがしい夕暮れの風に吹かれながら川向こうを眺める二人。

直樹N「あの頃は本当に、人生は無限に続くように思えていたし、やりたい
    ことは何でも出来るような気がしていた」

(回想終わり)

〇新幹線・車内

   車内アナウンスが入る。

車内アナウンス「まもなく宇都宮、宇都宮に到着です。お降りのお客様はお 
        忘れ物、落とし物ございませんよう、お支度下さい」

   宇都宮駅ホームに到着する新幹線。                      
   数人の乗客の乗り降り後に出発する。発車後、暫く車窓を眺めている
   直樹。

直樹「ふーっ」

   大きな溜息をつくと、カバンから仕事の資料を取り出し、それをテー
   プルの上や隣の席にひろげて作業し始める。

直樹「全く…余裕ないよな…」

   溜息交じりにつぶやき、昨今の職場生活に思いを馳せる。

〇(回想はじまり)銀行支店

   支店内の時計が夜十時をさしている。  
   黙々と残業している行員達。

次長「木村君」直樹を呼びつける。
直樹「はい」
次長「ちょっと」
直樹「はい」次長のもとへ歩み寄り対面の椅子に座る。
次長「田島工業は担保評価が甘いな。これでは追加融資無理だぞ」口火を切
   る。
直樹「しかし…これは事前に次長とも相談させて頂いて大丈夫だとのことだ
   ったので先方にはOKだしてしまっているんですよ」
次長「そうかもしれんが…本店の審査部でそう言ってきたんだ」
直樹「社長はもう期待してるんですが… 」
次長「本決済前に期待させるからだ」
直樹「…」黙るしかない直樹。
次長「とにかく検討しなおしてくれ」
直樹「…はあ」不満気に自分の席に戻る。
   
   隣の同僚がいつもながらの強引な態度に辟易するなという風にめくば
   せする
   苦笑する直樹。

次長「高木君!例の融資案件だが…」

   別の職員が次長に呼ばれる。

〇ラーメン店・店内(深夜)

   残業後に直樹が同僚3人とラーメンや餃子を食べながらビールを飲ん
   でいる
   店内の時計が十一時過ぎをさしている

直樹「まったく次長には参るよな…」
同僚A「いろいろ言うのは簡単だけど、お客の矢面に立たされるのは俺達だ
    もんな」
同僚B「俺なんか五回も稟議出し直しだぜ」
同僚C「後からなんのかんの言ってくるなら最初に言えっつうの」
同僚A「しかし毎日毎日残業残業、その上に休日出勤の連続で、何してんの 
    かね俺達」
同僚B「ホント何のために生きてんだか」
直樹「…」
同僚C「まともじゃないよな」
同僚A「逃れたいよ!こんな生活から」
直樹「おっと、もう十二時になる。終電なくなるぞ」腕時計を見ながら帰宅
   を促し、その場がお開きとなる。

〇帰宅途上・通勤電車

   目を閉じて立っている直樹。 
   他にも、つり革にぶら下がったり、ドアにもたれかかったり、座席で
   居眠りをしている疲労困憊のサラリーマンの顔、顔、顔。
   駅に着き改札口を抜け帰宅を急ぐ直樹

〇コンビニエンスストア

   途中コンビニエンスストアに寄りパンとか牛乳とかを買い、レジへ向
   かう。
   若い学生風のカップルがブックコーナーで楽しそうに談笑している。   
   直樹「…」羨ましそうにその様子を伺う。

〇コンビニエンスストア(学生時代の回想) 

   真冬の夕刻、部活の帰り道でコンビニエンスストアの前を通りかか
   る。

直樹「何か飲む?」
純子「(嬉しそうに)温かーい缶コーヒー」
直樹「オッケー、じゃあ寄っていこう」

直樹は缶コーヒーの売り場へ行く。 
 
   純子は雑誌を読み始める。  
   缶コーヒーを手に直樹がやってくる。

直樹「ほれ!」暖かい缶コーヒーを渡す。
純子「ねえ、見て見て。行きたいねー」

   温泉特集の旅行雑誌を見せる。

直樹「いいなあ。バイト代入ったら行こか」
純子「うん、うん。行こう、行こう、絶対行こうね!」嬉しそうにはしゃい 
   で答える。

〇暗い道

   カップルを気にしながら店を出る直樹。
   暗い通りを歩き自宅マンションに着く。
   エレベーターに乗ると気だるそうに壁にもたれかかる。

〇直樹の自宅(深夜) 

   鍵を回しドアを開ける。  
   暗闇。
   スイッチを入れて明かりを灯すと雑然とした室内がそこにある。  
   寝室に直行すると即、そのままベッドに倒れこんでしまう。  
   掛時計が午前一時過ぎをさしている。

直樹「つ.か.れ.た…」

   つぶやきながらそのまま眠ってしまう  

〇直樹の自宅(朝)

   鳥の鳴き声。  
   背広姿のまま寝てしまっている。  
   突然ガバッと起き上がり時計を見る。  
   七時半を過ぎている。

直樹「やっばっ!」

   大声で奇声をあげる。
   大急ぎでワイシャツだけ着替え、背広を着直して家を飛び出す。

直樹N「今さっき寝たかなーと思う間もなくすぐに朝が来る。これが毎日毎
    日のくり返しなんだ。こんな生活を続けていたらいつか本当に死ん
    でしまうんじゃないかと思う」
   

(回想終わり)


〇新幹線・車内

※※※

(フラッシュ)

雪の中を疾走する新幹線

   小雪が舞う暗闇を突き進む新幹線。

※※※

   作業しかけた書類を広げたまま座席で寝込んでしまっている直樹。   
   イントロに続き車内アナウンスが入る

車内アナウンス「お待たせ致しました。間もなく福島に到着致します。奥羽
        線、山形方面はお乗り換えです」

   眼を覚まして大急ぎで書類を片付け、降りる準備を始める直樹。
   コートを着てカバンを手に、出口へと向かう。

〇福島駅(夜)

   ドアが開き列車から降りると、全速力で階段を駆け降り改札へ向か
   う。  
   改札を出るとタクシー乗り場で客待ちする先頭のタクシーに飛び乗
   る。

直樹「飯坂温泉まで急いで貰えますか」
運転手「はい」
   
   夜の通りを軽快に走るタクシー。  
   外は相変わらず雪が舞っている。  
   トンネルを抜け、川を渡り、真っ暗闇の田園地帯を走り抜けるとやが
   て温泉街に到着。

運転手「どちらの旅館ですか?」
直樹「えっと…『山楽屋』っていう旅館なんだけど…」
運転手「ああ、分かります」

〇旅館

   支払いを済ませてタクシーを降りる。
   腕時計を見ると既に七時を過ぎている

直樹「うわー、もう全然時間が無いや!」
   
   誰も居ない旅館のフロント。

直樹「すみません」大声で叫んでみる。
  
   奥から仲居さんが出てくる。

直樹「暁寮の同窓会に来たんだけど…」
仲居「はいはい、いらっしゃいませ。皆さんだいぶ前から始められてます
   よ」

   仲居さんに案内されて宴会場へ向かう。

〇宴会場

   襖が開くと皆が一斉に直樹に注目する。 
   すでに酔いが回っている顔、顔、顔。
   「ウオー!直樹が来たぞー」「おせーぞー」「何やってたんだー」 
   等々と叫び声が飛び交う。

直樹「ごめん、ごめん、今日も仕事でオフィスを抜けるのに随分手間取っち
   まって…」
山本「まあいいから、こっちきて飲め」
   
   腰を降ろし、皆と合流する直樹。

山本「ほれほれ、飲め、飲め」

   つがれたビールを一気に飲み干す。

直樹「どうだ、みんな元気だったか?」
山本「ボチボチだ、おめえは忙しそうだな」
直樹「全くな。学生時代が懐かしいよ」
高田「今日は飲み明かそうな!」
直樹「それが…明日も仕事でさ…最終の新幹線で帰らなくちゃならないん
   だ…」
山本「何、バカ言ってんの。冗談だろ?」
直樹「殺人的に忙しくてさ…」
高田「大変なもんだな、お前のところは」
大橋「全くまともじゃねえな」
   
   大橋が話しに割り込んでくる。

直樹「過労死寸前だよ」
山本「死んじまえ、死んじまえ、思い残すこと何も無いだろ?」
直樹「何言ってんだよ。いま死んだら俺の人生一体何だったんだか(おどけ
   て)」

   一同大笑いする。

大橋「直樹はまだ一人か?」
直樹「ああ、なかなか縁がなくてな」
高田「一人が絶対いいって!結婚すると自由なんてねえぞ。今日だって一泊
   だけ家空けるのでもカミさんとすったもんだよ」
山本「夫婦のグチこぼしてどうすんだよ」
大橋「そうそう、ただのおやじだよ」
高田「しかし、俺達ももう若くねえなー」
直樹「ホントあっという間に歳くっちまう」
山本「この間まで学生だった気するけどな」
高田「昼間に大学見に行って来たぞ」
山本「おう、どうだった?」
高田「なんか時代の流れな。皆チャラチャラしちまって…今の若いのは覇気
   ねえしな」
大橋「『今の若いの』だなんてそれこそ完全におやじじゃねーか」
田中「全くだー」
高田「でも、寮はあの時のままだったなあ」
山本「きったねえ寮だったけど、あれはあれでよかったよなー」
直樹「ああ、人生で最高に盛り上がってた時だったんだよな(しみじみ
   と)」   

※ ※ ※

(フラッシュ)

雪の夜の温泉街

旅館の外では雪が激しくなっている。

T「二時間後」

※ ※ ※

   宴会場では皆完全に出来上がっている
   おもむろに腕時計を見る直樹。
   時刻は九時半になろうとしている。

直樹「おおっ!、ああ、もうこんな時間?」

   かなり酔っている直樹。

直樹「ごーめん… 帰るわ!」
山本「うそだべ、ホントに帰るってか?」
大橋「明日の朝帰っても同じだべー」
直樹「そうもいかねんだハー」
田中「しゃーねーなー」
山本「おーい、直樹が帰るんだとよー!」
A「なにー、今来たばかりだべー」
B「まだ、なんも話さねうちにー」
直樹「ごめーん、またなー」
D「このー、仕事中毒がー!」
直樹「ごめん!ごーめーん!」
大橋「そんじゃあ、万歳三唱といくかー!」
E「おう、そうすべー、そうすべー」
F「やろう、やろう」
大橋「それでは我々の出世頭であるゥ直樹のォ前途明るからんことを願って
   ぇ万歳!」
全員「万歳!」
大橋「万歳!」
全員「万歳!」
大橋「万歳!」
全員「万歳!」
直樹「あっりがとうなぁ、また会おうなー」
   
   皆から「またなー」「元気でな」「おたっしゃでー」等の声が飛んで
   来る。

〇帰路

   外は吹雪になっている。  
   呼び寄せたタクシーに乗り込む直樹。

直樹「福島駅まで…」
運転手「はい」

   直樹はそのまま眠ってしまう。

運転手「いやーかなり降ってきましたねー」

   眠っている直樹に気づかない運転手。

直樹「…」
運転手「運転も危なっかしくていけないや」
直樹「…」

   ルームミラーで寝込んでしまっている直樹に気づく運転手。
   幻想的で美しい車窓の雪景色。

〇福島駅

運転手「お客さん、着きましたよ」
直樹「…(眠っている)」
運転手「三千八百五十円です」
直樹「…うん…(目をこすりながら)」

   ポケットをまさぐり財布を取り出す。  
   無造作に五千円札を運転手に握らせてふらふらと車から降りて駅に向
   かう。

運転手「お客さんおつり、おつり!(運転席の窓を開け、身を乗り出して叫
    ぶ)」

   気づかずに行ってしまう直樹。
   朦朧とした足どりで駅構内へ入るが、立っていられずベンチへ座りこ
   む。  
   改札口の前に掲示板が置かれている。

   『本日、大雪のため列車が大幅に遅れております』

構内アナウンス「お客様に申し上げます。大雪のため列車が遅延しており、
        東京行き最終やまびこ288号は大幅に遅れての到着となり
        ます」

   直樹はアナウンスを耳にすると、そのままベンチに倒れ込んで寝入っ
   てしまう。
   夢の中で学生時代の回想が展開する。

〇学生時代の回想(夢)

   コンパの後、大勢が福島駅に集まり盛り上がっている。

大橋「つぎ行くぞー!つぎー!」
A「おう」
B「俺はねぶいぞー」
大橋「まだまだこれからだべ!」
田中「だぞ。いくべ、いくべ」
C「つぎはどこだー?」
高田「金ねえから直樹んところ行くべ。ここから一番近いべ?」
D「そりゃいいや!そうすべー」
直樹「だめだー。おめーら、うるせいからまた大家に文句いわれるベー」
E「大丈夫、おとなしくしてっから」
F「そうだ、大丈夫だ!」。
直樹「しょうがねーな。よし、じゃいくか」
大橋「お許しが出たから行くぞー!」
全員「オーッ」

〇現実のシーン(解説)

   駅のベンチで寝込んでいる直樹。
   夢と現実の狭間の中でカバンを抱え込むようにして立ち上がり、夢の
   中の動きに合わせてフラフラと歩き始める。
   夢のシーンに戻るが、現象的には直樹一人が夢の中の一員として暗闇
   を学生時代に住んでいたアパートに向かって一人で歩いて行く。

〇夢・暗い道(回想)

A「危ねーから、ちゃんと歩けこのー」
大橋「うっせい、がたがた言ってんでねー」
田中「さみーなー」
高田「冬は寒いに決まってるべ!」
B「もっと飲みてえー」

   酔った勢いで大騒ぎで歩く一同。
   凍てつく冬の美しい満天の星空。  
   やがて皆で肩を寄せ合って、流行りの歌を大合唱しながら歩き始め
   る。
   最高に盛り上がって歓声が沸く。  

* * *

(フラッシュ)

突然、車の強力なヘッドライト。

ヘッドライト

* * *  

   続いてけたたましいクラックションと共に車が通りすぎて行く。

夢・暗い道(回想)終わり


〇アパート(深夜)

   シンシンと降る雪。
   学生時代に住んでいたアパートの前の通りに一人ポツンと立っている
   直樹。  

直樹「…夢…か?」

   腕時計を見ると深夜十二時前である。

直樹「…」今日はもう帰れないという困惑。

   傍らの自動販売機に気付く。
   コインを投入し熱い缶珈琲を買う。  
   飲みながらアパートの塀に近づく。  
   あかりが灯っている一階の角部屋をぼんやりと眺める。

〇アパート(学生時代の回想)

   夏っぽく、半袖のTシャツにGパン姿で自転車に乗り、アパートに帰
   って来る直樹。 
   隣の部屋に住む友人の隆を外で待っている純子。

直樹「あれっ?純子さん?」
純子「あっ、木村さん!こんにちは!」
直樹「こんにちは…隆…居ないの?」
純子「うん、そうなの、どこ行ったのかな。最近全然連絡とれないんです」
直樹「いや…そういえば僕もバイト続きでここしばらく会ってないや」
純子「…」
直樹「よかったら僕の部屋で待ってる?」
純子「本当ですか。ありがとうございます」

 ドアをあけて純子を部屋へ招き入れる。

直樹「どうぞっ!」
純子「おじゃましまーす」
直樹「汚いけど(窓を全開にあける)」
純子「(室内を見渡し)ウワー、奇麗!」
直樹「何も無いだけだよ」
純子「ううん、隆さんの部屋なんていつも部屋全体がゴミ箱みたいなんだも
   の」
直樹「男の部屋なんてそんなもんだよ」
純子「そうなのかなー」
直樹「そうそう…純子さんの部屋なんていかにも女の子の部屋っていう感じ
   で可愛くて奇麗なんだろうな?」
純子「幻滅させて大変申し訳ないんですが、この部屋の方が遙かに奇麗」
直樹「まさかー」

   二人で大笑いする。

純子「木村さんの彼女は奇麗な人なんでしょうね、面食いそうですもの」
直樹「彼女がいたら休みの日のこんな時間に一人で家に帰って来ないでしょ
   う」
純子「ウッソだー、木村さん優しいしモテそうですよー」
直樹「全然優しくなんかないし、それに優しいだけじゃあダメみたいよ(笑
   い)」
純子「エエーッ、もったいなーい。それじゃー今度、私の友達紹介させてく
   ださいよ」
直樹「ありがとう、でも…何か苦手でさ、そういうの…隆みたいに盛り上げ
   られないし気の利いたことも言えないし…」
純子「そんな事言ってたら何時までたっても彼女できないですよ?」
直樹「まあね…フフフ」

   隣の部屋のドアが開く音。

直樹「あっ、帰ってきたみたいだな」
純子「ほんとだ」

   先に外に出て隆の部屋を見に行く直樹

〇隆の部屋

   隆の部屋のドアをあける直樹。

直樹「隆、純子さんが…」

   言いかけて、部屋の中に隆と女の子がいるのを知りマズイと思う。  
   激しく手招きして隆を呼び寄せる。

隆「どうした?」
直樹「(声を押し殺して)『どうした』じゃねえよ」
隆「?」
直樹「純子さんずっと待ってんだぞ」
隆「えっ!」
直樹「『えっ』じゃねえよ。その子…」
隆「?」
直樹「…どうにかしろよ…」
隆「どっ、どうにか…って…言ったって…」

   突然隆が直樹の背後を見上げ狼狽する。  
   振り返る直樹。  
   張り詰めた表情の純子が立っている。

隆「…」
直樹「…」

   二人とも何か言おうとするが言葉がみつからず、純子は走り出して行
   ってしまう。

直樹「純子さん!」

   追いかける直樹。  
   かまわずどんどん行ってしまう純子。  
   諦めてアパートに戻る直樹。
   自分の部屋に入ると隣から隆と女の子の笑い声が聞こえて来る。
   やり切れない表情の直樹。
   テーブルの上に置き忘れられた純子のバッグ。

〇直樹のアパート(クリスマス)

   突然のクリスマスソング。
   クリスマスを象徴する街の光景。
   台所で料理に忙しそうな純子。

直樹N「結局そんなことがきっかけで、僕は彼女と付き合うようになった。
    隆は何時からか全く見かけなくなった。噂では女の子のアパートで
    暮らしているらしい」
 

   居間から台所へ入ってくる直樹。

直樹「何か手伝うよ」
純子「大丈夫だからテレビでも見てて」
直樹「手伝うってば」
純子「ほんとに大丈夫だから、ねっ」
直樹「…」つまらないので肩を揉んだりしてちょっかいをだす。
純子「ほらほら、邪魔だからどいてどいて」

   冗談ぽく軽くたしなめる。  
   居間へ戻るが、やがていいことを思い付いたという感じで立ち上が
   る。

直樹「ちょっとコンビニ行ってくるね」
純子「うん、いってらっしゃい」

   全速力で走る直樹。  
   一軒の商店に駆け込む。
   キャンドルを買って大急ぎで帰る。 
 
直樹「ただいま」
純子「おかえり、もうできるよ」
直樹「うーす」

   大慌てでアチコチにキャンドルを置いて目立たぬように火をつけてい
   く。
   火をつけ終えて満足気な表情の直樹。  

直樹「できたあー?」
純子「できたできた、ごめんね遅くなって」
直樹「じゃー運ぼうか」
純子「うん、お願い」

   料理を運ぶ二人。
   純子は明るい照明の下でのローソクの灯りに気づいていない。  
   全部運び終わり二人ともコタツに座る  
   ワインを開け乾杯する。
   それぞれ一口ずつ飲む。

直樹「おいしい!」
純子「おいしいね!」
直樹「ちょっと待ってね」

   直樹が立ち上がり電気を消す。  
   キャンドルが暗闇に美しく映える。  
   初めてそのことに気付く純子。

純子「ウワー!綺麗!ステキ!」
直樹「でしょ!」
純子「うん、ホントにステキ!」

   嬉しそうにはしゃぐ純子。  
   その反応に満足気な直樹。

直樹N「翌年の春、僕は大学を卒業して就職して東京に戻った。社会人生活
    を楽観的に見ていたが、当初から仕事に忙殺され、難しい人間関係
    の中で慣れない仕事に四苦八苦するばかりの毎日に疲弊し、自分の
    事だけに精一杯で何も考えられなかった」

〇新人の銀行員時代の回想・銀行支店内

   店頭の預金係。
   大勢の女性職員の中で新人としてぎこちなく端末の入力等やっている
   直樹。

事務長「木村君」
直樹「はあ」事務長の前に直立不動で立つ。
事務長「これは何だね、間違ってるだろう」
直樹「すみません」
事務長「何回言えばわかるかね。ちゃんと精査してから回すんだよ」
直樹「わかりました、すみません」
事務長「…」不機嫌な表情。

   まわりの女性職員はまたかという表情で知らないふりをしている。    
   バツ悪く席へもどり作業を続ける直樹。  
   ふと顔を上げてロビーを見て驚く。  
   一般の客にまぎれて座ってこちらを見つめている純子。

〇喫茶店

   直樹と純子が向かい合って座っている

直樹「驚いたな…」
純子「…」
直樹「どうしたの、いきなり来て」
純子「…」
直樹「何かあったの」
純子「…だって、電話したってでないし…」
直樹「…」
純子「手紙出したって返事くれないし…」
直樹「…」
純子「どうしたんだろうて思うじゃない…」
直樹「…ごめん…忙しくって…」
純子「忙しくたって最初は電話だって、手紙だって欠かさずに直ぐくれたの
   に…」
直樹「…」
純子「誰か他に好きな人ができたの?…東京には奇麗な人沢山いるもんね」
直樹「そんなわけないだろう!ほんとに忙しいんだ。もう気が変になるくら
   い」
純子「…」
直樹「わかってくれてると思ってたのに」
純子「…」
直樹「事前に何の連絡もなくいきなり来て、こっちにも都合があるし…こん
   なとこ見られたら何言われるかわからないし…」
純子「…」
直樹「仕事の合間に抜け出すなんてこと新人の身には大変なことなんだか
   ら」
純子「…ほんとに変わったね。むかしは…そんな言い方しなかった…」
直樹「…」
純子「帰るね …ごめんね、いきなり来て」
直樹「…」
純子「でも良かった…来てみて。もう…分かったから…」
直樹「…」
純子「忙しいのわかるけどあんまり無理しないでね…さようなら」

   振り返りもせず店を出て行ってしまう  
   ポツンと後に取り残された直樹。

直樹N「そんなつまらない一瞬で、二人の関係はあっけなく終わってしまっ
    た。忙しさにかまけて彼女に連絡を入れたのはそれからしばらく経
    ってからだった」

  
   自宅で電話をかける直樹。

電話音声『おかけになった電話番号は現在使われておりません』  

(回想終わり)


〇アパート(深夜)

   アパートの窓が開く音。
   その物音に我に返る直樹。
   学生時代に直樹が住んでいた角部屋である。
   洗濯物を取り込もうとする手が出てくる。つづいて女性の顔が見え
   る。

直樹「!(驚きの表情)」

   目を見開いて感嘆の声を上げてしまう。

直樹「えっ!」

   その声に驚いて直樹を伺い見る女性。  
   純子である。    
   放心状態で見つめあう二人。  
   純子は窓を閉めて部屋に引っ込む。  
   我に返る直樹だが、当惑してそのまま閉まった窓をじっと見つめ続け
   ている
   アパートの裏側から人影が見える。
   純子が手を後ろに組み、うつむいたまま直樹のもとへ近づいて来る。  
   おどおどしながらそれを見守る直樹。
   依然うつむいて直樹の前に立つ純子。

直樹「あ…あのっ(声をかけようとする)」
突然、顔を上げる純子。
純子「こんばんわ!(満面に笑み)」
直樹「こっ、こんばんわ…(不意を突かれ動転しながら)」
純子「寒いね(手をこすりながら)」
直樹「…(軽くうなずく)」
純子「何でここにいるの?」
直樹「…」
純子「まっ、いっか!」
直樹「…」
純子「直樹!(大声で)」直樹に抱きつく。

   要領を得ないが、熱いものが込み上げて自らも純子を抱きしめてしま
   う直樹。

純子「何、つったってんのよ、来て!」

   手を引かれて一緒に純子の部屋へ向かう直樹。
   先に部屋に入る純子。

純子「上がって」

   玄関で躊躇している直樹。

純子「(せかすように)さあ!」
直樹「(当惑しながら)お…お邪魔し…ます」
純子「何してたの?寒かったでしょう?」
直樹「いや…酔っぱらっちまってたから…」
純子「十数年ぶりに会ったら、いきなりで、深夜で、しかも酔っぱらってる
   ってか?」
直樹「ごっ…ごめん…」
純子「突然驚くじゃない…説明して」
直樹「…実は今日、暁寮の同窓会で福島に来て…最終の新幹線で帰るつもり
   で駅まで来たんだけど…吹雪で列車が止まってて…酔っぱらっちまっ
   てたから…よくわからないんだけど…気がついたらここに来てて…」
純子「じゃっ…私に会いに来てくれたわけじゃないんだ…(少しガッカリし
   て)」
直樹「まさかここに住んでるなんて夢にも思わなかったし…」
純子「…」
直樹「だけど…」
純子「…」
直樹「会えて嬉しいよ…驚き過ぎて何が何だか分からないんだけど…すごく
   嬉しい」
純子「そう!(微笑みながら)」
直樹「でも…なっ何でここに住んでるのさ」
純子「どうしてって…一応ここは思い出の場所じゃない…別れた後、何とな
   くここに来て…そしたら、たまたま部屋が空いてたからそれで何とな
   く引っ越しちゃったのよ」
直樹「…驚いたな…」
純子「(話題を変えようと)仕事は相変わらず忙しいの?」
直樹「最悪」
純子「直樹は仕事の鬼だから」
直樹「皮肉だな(笑)」
純子「それで終わったんだもん、私達」
直樹「あの後…連絡したら繋がらなくなってたし…」
純子「…」
直樹「今何してるの?」
純子「幼稚園の先生。ほら、阿武隈川沿いにある信夫幼稚園」
直樹「そっか…」
純子「楽しいよ、毎日」
直樹「うん」
純子「いろんな子がいてさ…おとなしい子、元気な子、優しい子、怒りんぼうな子…」

   コタツの上で整理中のアルバムをみせる純子。

直樹「(それがやりかけの仕事だということに気付き)あっ…何か…仕事、
   やりかけ?」
純子「うん、遠足の時の写真。明日の朝、特別にみんなに見せてあげること
   になってるんだ」
直樹「御免、邪魔しちまって…構わないで続けて」
純子「ううん大丈夫、それよりどうするの、これから?」
直樹「うん、今日はもう帰れないから、どっか泊まるよ。明日一番で東京に
   戻らなくちゃならないんだ…明日も休日出社なんで」
純子「やっぱり…仕事の鬼だ!」
直樹「(苦笑しながら)仕方ないよ、サラリーマンだもん」
純子「(同じく苦笑しながら)じゃっ、隣の部屋で休んで。私はこれ、仕上
   げちゃうから」

   立ち上がり、隣の部屋に行き、押し入れを開けて布団をひき始める純
   子。

直樹「(あわてて制止しながら)いいよ、いいよ、ビジネスホテルにでも泊
   まるから」
純子「(聞き入れず)いいから!」
純子「(布団をひき終えて)さあ、寝て!」
直樹「…有難う…じゃっ休ませてもらうわ」
純子「おやすみ」
直樹「おやすみ」

   襖を閉めて出て行く純子。  
   衣服を脱ぎ、布団にくるまる直樹。  
   隣の部屋で仕事を続ける純子が気になり、しばらくは襖からこぼれる
   明かりに気をとられているが、これまでの疲れがどっと一気に押し寄
   せすぐに眠りに落ちてしまう。

〇純子のアパート(朝)

   鳥の声。  
   眠っている直樹。
   カーテンの隙間からこぼれ入る朝日に目覚めると、仰向けの姿勢のま  
   ま今の状況を確認する。  
   起き上がって窓辺に近づきカーテンを開ける。  
   外は晴天で一面の銀世界。  
   恐る恐る襖を開けてみる。  
   そこに純子はいない。  
   こたつのテーブルに一枚のメモ。

   直樹へ
   あんまりぐっすり眠ってて起こすのが気の毒なのでこのまま幼稚園に
   行ってきます。
   朝食を食べていって下さい。
   会えて嬉しかった。さようなら。
                    純子


   テーブルに朝食の用意がしてある。
   午前九時前をさしている掛時計。
   用意されている朝食をとり始める(ポットから湯を注ぎコーヒーを入
   れたりしている)。
   唐突に携帯を取り出し、会社へ連絡しかける。
   脳裏を横切る殺伐とした職場の情景。

直樹「…」

   途中で携帯を置いてしまう。
   朝食を食べ終わり、コートを着こむ。
   簡単なメモ書きをする。

   突然深夜に押しかけて来てゴメン。
   元気そうでよかった。
   会えて嬉しかったよ。
   仕事、頑張れな。         直樹

   部屋を出て鍵をかけ、その鍵をメモにくるみドアの郵便受けに投函す
   る。

〇福島駅

   窓口で切符を買う。  
   改札口を通り、ホームへ向かう。  
   ホームで次の新幹線を待っている。
   ホームから見える雄大な安達太良連峰  
   その光景の美しさに圧倒される直樹。  
   頭をかすめる忙しない職場の情景。

駅アナウンス「まもなく東京行き、やまびこ242号が到着いたします」

   入線してくる新幹線。
   直樹の姿が列車の陰に隠れてしまう。  
   ゆるやかに走り始め、徐々にホームを離れる新幹線。  
   乗車したはずの直樹が依然そこに立ったままでいる。    
   思い直したように改札階へ駆け降りる  
   その表情は穏やかで、ほころんでいる

直樹「すいません忘れ物しちまったんで、戻りたいんですけど」

   改札口で駅員に頼む。

駅員「はい、どうぞ」

   改札口を空けてくれる。
   そのまま駅前の商店街へ向かう。

〇商店街

   洋服店を見つけ店内に入るとシャツやセーター、ジーパンを選び始め
   る。
   女性店員が来てアドバイスされる。

店員「これなんか着やすくて温かいですよ」
直樹「あーホントだ、色もいいよね、フフ」

   店員と直樹とのやり取りがしばらく続き、背広に代わるセンスの良い
   カジュアルな衣類一式を購入する。

直樹「これ今、着て帰ってもいいですか?」
店員「どうぞ、あちらでお着替え下さい」

   購入したシャツ、セーター及びジーパンに着替えて試着室から出てく
   る直樹。
   レジで支払いを済ませた後、脱いだ背広やワイシャツ、ネクタイを無
   造作に店で貰った手提げの紙袋に押し込み、それを手にして店を出て
   くる。

直樹「…」

   履いている革靴に眼がとまる。
   カジュアルな服装に不似合いである。
   今度は靴屋を見つけ店内に入り、店員との少しのやり取りの後、手頃
   なスニーカーを選び購入する。
   スニーカーに履き変え、革靴も紙袋に押し込んで出てくる。
   店を出ると手にしている大きな紙袋をしげしげと見つめる。
   通りにあるゴミ箱へ足早に近づき、思い切って紙袋を投げ捨ててしま
   う。
   身軽になったその足で、今度は駅前のレンタカー営業所へ向かう。

〇レンタカー営業所

直樹「一台すぐに借りれますか?」
事務員「そこに停めてあるのでよろしければ すぐにお手配できますが」

   オープンカーの真っ赤なロードスター。

直樹「ああ、それ、いいな」

   手続きを終え、車に乗り込み走り出す  

〇郊外の路上

   丘の向から、遠目に小さく見えていた真っ赤な車体がドンドン迫って
   くる。
   除々に直樹の姿がはっきりしてくる。
   やがて小さな幼稚園の建物が見える。  

〇幼稚園

   幼稚園の前で車を停めて降りる。  
   そっと園庭の様子を覗う。  
   園児とたわむれている純子が見える。  
   直樹に気づき、驚きの表情の純子。  
   照れくさそうに軽く手を上げる直樹。

直樹「やあ(無言で口だけ動かす)」

   純子も反射的に手を上げて微笑み返す  
   純子の同僚が二人のやりとりに気づき純子を手招きする.  
   その同僚と二人ひそひそと話している  
   不安そうにその様子を覗っている直樹  
   やがて同僚にせかされて押し出されるように純子が直樹のもとへやっ  
   て来る

直樹「よう…」
純子「…(半泣き)」

   二人はそのまま車へ向かう。  
   ドアを開け、助手席に純子を乗せて、 

   車は軽快に走り出す。  
   遠くの美しい山々の風景に吸い込まれるように車が消えて行く。


〇オープニングシーンの再現・学生寮

   寮の周辺に何人もの老人達が集まり寮の建物を懐かしそうに眺めてい
   るその中の一人の老人(老後の直樹)

🈤直樹N「それから彼女とは色々あったけど…結局僕らは一緒になることは 
     なく二人はそれぞれの道を選んだ」
🈤直樹N「私は、結果的に生涯を独身で通すことになった」
🈤直樹N「そしてサラリーマンとしての慌しい職業人生活を全うし、現在は
     引退後の生活をのんびり過ごしている」
🈤直樹N「思えば、私の人生はそう悪いものではなかったと思う。会社員と
     してもまずまず成功できたし、多くの素晴らしい人々との出会い
     に恵まれた」
🈤直樹N「そんな中でも、学生時代のあの頃は私にとって…人生の宝石箱
     だ。今日はそんな懐かしい仲間との久し振りの同窓会だ」

〇学生寮

≪オープニングの場面が繰り返される≫

   直樹と伸一が玄関に出て来る。
   玄関に並んで腰掛け靴紐を結び始める  
   外を見上げると直樹の目に老人達の一団が映る。

直樹「(老人達の素性がわからず)何だろう(あの老人達は…)?」
伸一「ああ、あれか…何でも、随分と昔の卒寮生の同窓会って話だぜ」

   再び、老人達の面々。

直樹「そっか…そりゃ、さぞかし懐かしいんだろうな …」

   改めて老人達の姿を順番に目で追う。  
   穏やかに談笑している老人の面々。  
   中でも端正な一人の老人(老後の直樹)。  
   感慨深そうに寮を見上げるその老人。

伸一「それもそうだけど、なんか侘しさも相当なもんだろ?あの歳になって
   青春真っ只中だった頃のことを思い起こすつーのは」
直樹「そうかもな…。自分もいずれはあの歳になって今の自分を懐かしむな
   んて夢にも思わんもんな」
伸一「(おどけた感じで)勉強に、恋に、遊びに、今は精一杯だってか!」
直樹「(笑いながら)全くだ!」

   靴を履き終えて二人は走り出す。  
   
   直樹(学生)は走りながら、今一度、老人たちの方へゆっくりと視線
   を向けて行く。
   老人(老後の直樹)も寮を見上げている視線をゆっくりと直樹(学
   生)へと向けて行く。

   両者の視線が徐々に交じり合って行く
   視線の合致に向けて音楽が高まる。
   音楽のサビの部分で視線が完全に合致
   その瞬間、効果的な画像で一瞬ストップモーション。
   やがて、少しずつ音楽のトーンが下がって行き、何事も無かったよう
   に両者の視線は離れて行ってしまう。

   
   その後カメラは二人の学生の後を追う

   二人がテニスコートに着く。

〇テニスコート

   他の仲間達と合流する二人。  
   直樹はその中の一人の女の子に親しげに話しかける。  
   純子である。  
   仲むつまじく楽しそうに語らう直樹と純子。

〇学生寮

   老人の一団。
   懐かしそうに眼を細めて寮の建物を見上げる老人(老後の直樹)。    
   美しい山々の風景。  
   晴天の青空


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