うつ病は「心の風邪」ではない
私は障害者の集合職場で働いている。
私は統合失調症の陰性症状で人生の半分以上を抑うつ的に過ごした
一時期流行った「うつ病=心の風邪」という言説には意義を唱えたい。
「心の風邪」という歪んだ表現
風邪はウィルス性であることが多く、医者に行けば大概カロナール、カルボシステイン、ムコダインあたりを処方されるが、これらは全て「症状を抑える/軽減する薬」であって、風邪の原因となっているウィルスに直接作用するものではない。風邪は根本的な治療方法がなく、安静にすることで自然治癒力に頼りウィルスが死滅するのを待つしかないのだ。だから熱が出る。
逆にいうとうつ病を「心の風邪」としてしまうと、「安静にしておけばそのうち治る」という間違った知識が広がってしまう。
そして「心の風邪」というからには個人のメンタルの問題であると見られてしまう。これはある意味本当なのだが、ある意味間違っている。
うつ病を患って尚働いていた私の元同僚は上司から「お前のメンタルが弱いから良くないんだ」と言われたらしく、ある昼休み憤っていた:
「うつ病はメンタルがお豆腐だからなるんじゃないんですよ!!うつ病はメンタルがお豆腐になる病気なんですよ!!」
うつ病は脳病である
「メンタル」という言葉は厄介である。
あなたは「心はどこにありますか?」「メンタルとは体のどこですか?」と聞かれた時、あなたはどこを指すだろうか?胸の辺りだろうか、それとも頭のあたりだろうか。
見出しでお察しの通り、胸の辺りを指した方は不正解だ。精神疾患は心疾患ではない。
私は専門家ではないので詳細は語れないが、うつ病は脳機能の異常である。
統合失調症の場合は自覚できればそれが脳病であることが(私の場合は)実感できるのだが、うつは認知の歪みが出始めてしまうとそうはいかないかもしれない。
脳内神経伝達物質というものがある。有名どころがアドレナリンがたくさん出て興奮状態になるとか、その辺りだ。うつ病で問題になるのは主にセロトニンで、他の神経伝達物質であるドパミンやノルアドレナリンなどをまたコントロールしている。「幸福感、快楽」「恐怖、不安」をそれぞれ司どる物質が、セロトニンによる情報伝達がうまくいかなくなる結果、コントロール不能になることで抑うつ的になっていく。大体そんな感じ。詳細は専門家の説明を読んでほしい。
私の飲んでいる抗うつ剤はシナプスのトランスポーターによるセロトニンの再取り込みを阻害するSSRIと呼ばれる種類の薬で、さらにセロトニン受容体の調節に働きかける作用を併せ持つものである。
うつ病の治療には覚悟がいる
精神科医は患者の主観に頼って診察をすることしかできない。もちろん検査ができるところは検査してもらえると思うが、患者の語るエピソードが主な基準となる。
過去に酷い目にあったとか、身近に悲しい最期を遂げた人がいるとか、希死念慮があるとか、こういった話はなかなか自らできるものではない。
私は幸い「過去にあったこと、ずっと死にたいと思ってること、全部話す。絶対に今の状況から抜け出す」と覚悟を決めて診察に行ったので、順調に治療が進み、現在は障害者雇用という形ではあるもののなんとか働けてはいる。
一方、うつ状態で、何をするにもしんどくて、精神科に駆け込むのがやっとという人も多いだろう。自分の過去をまとめる、いわゆる自分史を書く作業はとても労力がいる。
私の経験上、カウンセラーや精神科医は「死にたいと思ったことはありますか?」と聞いてはくれない。自分から話さない限り「希死念慮がある」とは判断されない。初診でとは言わなくとも、どこかの段階で「先生、まだ話していないことがあるんです」と覚悟を決めて自分の辛い部分を打ち明ける必要が出てくる。
自分で「治そう」と思わない限り治らない病
「覚悟」という言い方をしたが、正直そんな大層なものではなくて、「今の状況をなんとかしよう」という思いが必要なのである。
先生に「お変わりありませんか?」と聞かれて、なんだか話を切り出しづらかったり、ただ説明が面倒という理由で「はい」と返事をして、「じゃあいつものお薬出しておきますね」と言われて診察を5分も経たずに終了する人は少なくないのではないだろうか。
しかし状況を改善するにもエネルギーが必要で、そのエネルギーがない限り苦しい状況を打破するのは難しい。何事にも気力が必要というのは本当に困ったもので、無い気力を絞り出さないと適切な治療に辿り着けないのが本当に厄介だ。
どんなに周りが「医者に行きなよ」と働きかけても、医者に行くこと自体にトラウマがあったり、「行ったところで意味がないんだ」と認知が歪んでしまうことで医療に繋がらないケースもあるだろう。
もしうつ病が本当に「心の風邪」なら、前述の通り、そういった人々もとっくに寛解しているはずだ。
「風邪」ほど軽かったらどんなに良かったか。そう感じる人も多いのではないか。
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