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地元の学校を手本にしようとしないでほしい件 -Ep.3: テクノロジー編-

このシリーズは教育面でイメージの良い私の地元の学校制度の課題を指摘するものである。


子供達の将来の夢

2019のソニー生命の調査によると日本の中学生の将来の夢は男子のエンジニアとかIT系が5位と比較的多く、女子はイラストレータやデザイナーなどのクリエイティブな職業が特徴的だ。

一方でドイツの14~30歳 は2018年のAppinio GmbHという市場調査会社による調査では以下のような結果となった。

男子

 1. 警察官 (19%)

 2. パイロット (10%)

 3. 消防士 (6%)

 4. サッカー選手 (6%)

 5. 宇宙飛行士 (4%)

 6. 医師 (3%)

 7. 車掌 (2%)

 8. 教員 (2%)

 9. 獣医 (2%)

10. 調理師 (2%)

女子

 1. 獣医 (22%)

 2. 教員 (9%)

 3. 医師 (8%)

 4. 警察官 (6%)

 5. お姫様 (4%) ←?!

 6. 歌手 (3%)

 7. 役者 (3%)

 8. 保育士等 (3%)

 9. 看護師 (2%)

10. 宇宙飛行士 (2%)

2018のPISA調査でのドイツの15歳にきいた将来の夢は以下の通りだ:  

男子

 1. IT専門家 (6,7%)

 2. 工業技術者 (5,2%)

 3. 車の技術者 (5,1%)

 4. 警察官 (4,5%)

 5. 教員 (3,8%)

女子

 1. 教員 (10,4%)

 2. 医師 (10%)

 3. 保育士等 (6,4%)

 4. 心理学者 (4,5%)

これらの結果は日本人から見ると「公務員/会社員みたいな現実路線だね」って思割れるかもしれないが、これらはどれも(日本で言うところの女子のお花屋さん的な)結構"古典的な"人気職業である。こうやって改めて比べるとドイツ人的心理の持ち主としてはどことなく「今時?なんか保守的だ…」と感じる。

Mathematics+IT+Natural science+Technology ="MINT"

ドイツの若者は“MINT”(数学、IT、自然科学、技術)に対してに無関心であることが地味に社会問題化している。
日本ではドイツは車や医療機器など技術大国のイメージがあるが誰もが高等教育からサラリーマンを目指すようになった現代、何気にドイツは技術者不足に陥っている。

PISAの調査結果によると学生、特に女子、は興味もなければ、重要とも捉えていない傾向にあり、上記の子供達の将来の夢を見ても比較的それは明確かと思う。
そもそもドイツは保守的な社会で、新しい技術が出てきても「安全じゃないんでしょ?」「いずれは使えなくなるんでしょ?」と関心を示さないどころか危機感を感じる傾向はかなりある。
また、過去の投稿でも書いたが、学校の仕組み上、自分が「なれそうな」職業しか将来の夢として答えられない(現実的にならざるを得ない)という点は留意しなければいけないかもしれない。大卒コースに乗らなければ日本の子供たちが夢見るようなゲームクリエイターやIT技術者にはなれないのだ。

世の中の変化のトレンド

近年になってただ勉強すること以上に「考える力」を求めるTransversal Competence(問題解決能力、批判的思考など)がより重要視されるようになってきた。 特にフィンランドでは積極的に授業で取り入れられているという。
※参考:「フィンランドの算数科カリキュラムに関する一考察 ―Transversal  Competence に注目して―」

授業に積極的に取り入れる北欧のような国々も出てきていることから、ドイツでも「ITを科目として導入すべきだ」という意見が挙がるようになった。しかし学校にはタブレット、ノートPCはおろかWiFiもない。PISAの調査によるとドイツの学校でのテクノロジーの使用率は42か国中36位と下から数えた方が早い。よって技術者向きの思考が育たないカリキュラムしか提供できない現状がある。ドイツの学校の設備の悪さについては前回の投稿で書いた。
また教員対する教育(Fortbildung)もないので、彼ら/彼女らは今風の教育を知らない/古典的な教育しか知らない。そもそも教育を時代に合わせて変えていく土壌がないのである。

日本でプログラミングが導入された目的はプログラマー養成ではなく、IT的(論理的)思考力をつけることと言われている。これはDX化が進む世の中についていくためにも必要な取り組みだというのが私の意見だ。実際にIT企業で働いていた時期があるが、いかに物事の設計、組み立てや事象の理解・切り分けが大事か痛感したし、それができない人の多さにも驚いた。

しかし現在の教育でそもそも抱えている弱点がある。 

 以下の動画はハラルト・レッシュというドイツの学者による「competenceではなくて、能力を身につけなくてどうする!」という論評である。

何割引とかの暗算もできない人が五万といて(実は私もです)危機的状況であるという導入から始まり、「数学なんて必要ない」という意識が蔓延していることを批判している、これは在独邦人の間でもかなり言われていることで、とにかく計算能力の差は大きい。

Competenceの重視とはつまり、「〇〇したい」、ではそのためにどうするか?どこを調べたら分かるのか?を重視するものであり、自分で問題解決する能力は身につけていないという話なのである。そもそも能力を持たない人間を学校から排出し続けているのに、そんな場合なのか?という話である。

コロナ渦で明らかになった世界との格差

コロナの登場により、学校現場は混乱に陥った。日本でリモートワークが積極的に
導入されたと同様に、授業の急激なデジタル化が求められた。

どれくらい急激だったかというと、突然学校が閉鎖され、それにより教員は生徒へ連絡する手立てを失った。個人情報保護の観点からプライベートのアドレスに連絡することは禁止されており、もっと言うと生徒のメールアドレスは学校のサーバーにあるもののみ利用可能、つまり学校は閉鎖のため使用することはできず授業はおろか、何一つ連絡を取ることができなくなってしまった。他にもスカイプ禁止条例が出たり、成績表は手書きのみ、集合写真禁止などと個人情報保護に関する法規制は全体的に厳しくなっている状況だった。

デジタルの教材もなかった。厳密に言うと学校によって格差があり、専門家がついている学校もあれば、ろくにネット回線がないところもあった。国家レベルで回線が引かれていない地域が存在しているという問題については過去の投稿で指摘した。

上記の動画ではビデオ会議を用いた授業を提案したが、禁止令が出たと言うケースも紹介されている。その頃エストニアでは教材がデジタルをすでに導入ずみで、スカンジナビアではクラウドを利用しており、カナダではAIがデジタル化を補助していた。

上の投稿で指摘した通り、出身階級が学歴と相関するということはつまり、パソコンもスマホもない、下手したらネットもない家の生徒も少なからずいると言うことで、上記の通り学内も含めて、そもそもちゃんとネットを使える環境が国内に敷かれていない側面もある

「パソコン使わないIT担当大臣」系を地で行っている国

何が起こっているかと言うと、「どうせみんな対して使わないから」と言ってインターネット環境導入せず、そして導入されていないから誰も使いたいとも思わない、結果として需要がないので予算が投入されない。そしてまた「誰も使わない」という振り出しに戻っているのである。
いや、"誰も"とは言わないのだが、少なくとも私が学生だった時代は社会的に「誰がネットなんて使うんだ?」的な雰囲気はそこそこあった。「これからはこんな時代が来るかも」というような、将来性に興味がない雰囲気が支配しているのだ。環境問題に熱心なイメージのあるドイツだが、「進歩」や本来の意味での「サステナビリティ」に関心のない社会になった結果、子供たちがその空気の煽りを受ける結果となったと思っている。

日本はかなりインフラの整った社会で、これから先新しいものが出てきても「誰も使わない、今あるもので十分」「使っていない人が取り残される」と思わずに積極的に取り入れる試みをしてほしい。さもないとかつて「途上国」と呼ばれていた国々にどんどん技術的に追い抜かれてしまう。私は日本には私の出身国のような惨めな姿にはなってほしくない。
国全体で世界基準の技術の進歩についていけていないと色々とガタが出てくる。その時はあまり意味がなさそうでもインフラ更新は怠らないようにしようね、という呼びかけである。

とはいえ、なんでも他の国と足並み合わせるのはやめた方がよくて、何をどのくらいやっとくかは慎重に選んでほしいところでもある。
これから先、絶妙ななバランス感覚が日本国民と行政には求められる。

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