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07,水びだしの本の部屋

何かに、迷った。
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シリーズもの7曲目です。
不穏でちょっと神聖な雰囲気も醸し出すような始まり方をする曲です。灯りの少ないジメっとしたとても本の保管には適していると思えない書庫で本を読み漁っているイメージで書きました。こういう捻くれたイメージで曲を書くのが仕事のストレスを発散させる一番の方法…。
以下この曲の物語。
「新たな情報を求めて施設の中を彷徨っていると、鉄とガラスの扉ばかりの廊下の奥に一つだけ木製の扉を見つけた。細かく模様が彫りこまれたその扉は、まるで色の無い一枚の絵画のようだった。金色の繊細な細工の施されたノブに手を添えて扉を開けると奥から水の匂いと黴臭さが溢れる。
扉の先は暗くてよく見えない。恐る恐る部屋に足を入れるとぽちゃりと湿った音が木霊した。思わず足を引き靴裏を確認する。足裏は確かに濡れていた。屈んで部屋の床に手を入れると手首まで水に浸かった。先の見えない水びだしの部屋。不気味で純粋に危険を感じるが、好奇心に抗えず私は部屋に改めて足を踏み入れた。
壁に手を添え、恐る恐る足を進めると部屋の奥に灯りを見つけた。そこには丸テーブルと椅子が置かれ、照らし出すように電球が天井から吊るされている。テーブルの上には分厚い橙色の本が置かれていた。本の表紙には何も書かれておらず、一見すると何の本かわからない。椅子に腰かけ、本を開くと中にはぎっしりと手書きで文字が書き込まれていた。
それは日記だった。日付とともにタイトルが2ページ毎に書かれ、日々の思いが綴られている。それは少年の物語。夢見がちな少年が、宝物の杖と共に日々を過ごしていくそんな日記。日記は進むにつれ文章量が増え、感情表現が豊かになっていく。とても幸せな日々を過ごしていたことが手に取るようにわかった。本の中程、半年ほど進んだあたりから内容に変化が現れる。今まで書かれていた日付は無くなり、タイトルも簡素なものになった。ただ、内容はより感情的になり、文字も形が崩れて所々読めない。ある夜杖が世界を壊して、全てを瓶の中に閉じ込めた、何十ページにもわたって書かれた文章を要約すると、きっとそんな内容だ。
これが誰が書いた日記なのかは分かった。杖を手にして世界を閉じ込めた、もとい世界を作り変えた存在。これは、きっと神様の日記だ。あの研究者が言っていた内容を思い返すといくつも一致する記述があった。だとすると、この本は私が求めていた情報の塊そのもののはず。どうやら、神様は彼女のいう通りとても純粋な心の持ち主のようだ。
私は本を抱えると、水びだしの部屋を後にした。」

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