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天風の剣

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右目が金色、左目が黒色という不思議な瞳を持つ青年キアランは、自身の出生の秘密と進むべき道を知るために旅に出た。幼かった自分と一緒に預けられたという「天風の剣」のみを携えて――。 …
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2023年10月の記事一覧

【創作長編小説】天風の剣 第75話

【創作長編小説】天風の剣 第75話

第七章 襲撃
― 第75話 白の空間 ―

 白い空間を走る。ここは、魔の者シルガーの作った空間である。
 キアランの愛馬、フェリックスは、アマリアとキアランを乗せ、その特殊な純白の空間を走り続けた。
 
「アマリアッ!」

 急に、前を行くシルガーが叫んだ。

「は、はいっ!」

 突然シルガーに大声で名前を叫ばれたアマリアは、びくっと細い肩を震わせ、そしてすぐさま背筋を伸ばした。

「お前、落

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【創作長編小説】天風の剣 第76話

【創作長編小説】天風の剣 第76話

第七章 襲撃
― 第76話 光にすがるように ―

 キアランは、しばらく空を見上げ続けていた。
 雲は形を変えながら流れていく。
 金の瞳は、なにも感じ取ることができないでいた。
 キアランは、低い声で呟く。

「……行こう」

「え!?」

 再びフェリックスの手綱を握るキアランの姿に、アマリアは驚きを覚えたようだった。
 キアランは、自分に言い聞かせるように話す。 

「……あいつはきっと、

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【創作長編小説】天風の剣 第77話

【創作長編小説】天風の剣 第77話

第七章 襲撃
― 第77話 謎の少年 ―

「誰だっ!」

 キアランは、ベッドから飛び降りた。
 侵入者は、黒髪の少年だった。褐色の肌に、鮮やかな青の瞳が光る。

 いつの間に、この部屋に……?

 少年から魔の者の気配が、感じられない。雰囲気や見た目の印象も、普通の活発な少年、といった感じで目立った特徴はなかった。
 しかし、この部屋は三階に位置していた。そして、窓の鍵もかかっていた。どうやっ

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【創作長編小説】天風の剣 第78話

【創作長編小説】天風の剣 第78話

第七章 襲撃
― 第78話 彫像たち ―

 門柱の上で天風の剣を高く掲げ、少年が笑う。月の光を浴びるその姿は、趣向の凝らされた門に新たな命を吹き込む美しい彫像のようでもあった。

「ふふ……! 僕を捕まえてごらん……!」

「待て……!」

 少年は楽しそうに笑ったあと、ひらりと身をひるがえしつつ門の向こう側へと飛び降り、屋敷へ向かって走り出した。

「くそ……!」

 ガシャン!

 キアラン

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【創作長編小説】天風の剣 第79話

【創作長編小説】天風の剣 第79話

第七章 襲撃
― 第79話 甲冑の騎士 ―

 天風の剣を構えた甲冑の騎士――。
 月の光を浴び、銀の光を放つその兜は、人を守る防具として作られたはずなのに、その中は暗い闇が広がるだけで、守るべきものもなにもないただの空洞だった。
 中身がなく動かないはずの甲冑が勝手に動き回っている、それは見た人に恐怖を呼び起こす不気味な構図であり、人を守るための道具が人を攻撃する脅威と変化してしまっている、皮肉

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【創作長編小説】天風の剣 第80話

【創作長編小説】天風の剣 第80話

第七章 襲撃
― 第80話 双子の従者 ―

「四天王の従者――」

 キアランは目の前の少年と少女――花紺青と常盤――を、驚きを持って見つめた。

「お前たちの……、目的は……?」

 天風の剣を持ったキアランだが、花紺青は悲しそうな笑顔を見せるだけで、ふたたび天風の剣に手を出す気配はない。常盤も、ただ微笑みを浮かべるだけだ。
 もしかして、とキアランは思う。キアランは、心に浮かんだ自分の考えを

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【創作長編小説】天風の剣 第81話

【創作長編小説】天風の剣 第81話

第七章 襲撃
― 第81話 野草スープ ―

 つむじ風のように、走る。
 
 ガッ! ガッ! ガッ!

 天風の剣が、火花を散らす。
 風を切り、襲いかかる腕をキアランは飛びのきかわす。
 天風の剣を弾く、非常に頑丈で鋭い爪。
 しかしそれは――、細い腕だった。
 躍動するのは小さな体。しかし、見た目とは違い、他の魔の者に比べてもその破壊力は決して引けを取らない。
 勢いよく風を生むふたつの影。

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【創作長編小説】天風の剣 第82話

【創作長編小説】天風の剣 第82話

第七章 襲撃
― 第82話 吊り橋での再会 ―

 切り立った崖と崖を、簡素な吊り橋が繋いでいる。

「ここが近道なのか? フェリックス」

 フェリックスはキアランの質問に答えるように、たてがみを揺らしながら一声いななく。それから、狭い吊り橋を臆することなく渡り始めた。今にも降り出しそうな曇天の空の下、フェリックスの蹄の音がテンポよく響く。

「そうみたいですね。道としては少し心もとないですが」

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【創作長編小説】天風の剣 第83話

【創作長編小説】天風の剣 第83話

第七章 襲撃
― 第83話 剣の重み ―

 四天王オニキスは、笑う。

「まあ、いい……。まとめて皆、始末してやろう……」

 オニキスの周りに、黒いもやが集まり始めた。

「キアラン! これに乗って……!」

 キアランが振り返ると、花紺青の前に、吊り橋の板のひとつが浮かんでいた。
 そして花紺青が、さっ、と腕を振ると、その板は宙を飛びキアランの目の前で止まった。

「わかった! ありがとう、

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【創作長編小説】天風の剣 第84話

【創作長編小説】天風の剣 第84話

第七章 襲撃
― 第84話 重く暗い空、近付く地響き ―

 雨が降り出していた。
 そこは開けた草原で、生えている木もまばら、雨を遮るものがない。
 そんな場所に、ぽつんと半円球の透明な、ドームのようなものがあった。
 それは人工の建造物ではなく、高次の存在であるカナフが空中に巡らした、バリアーのようなエネルギーだった。

「できれば、操られている動物たちが襲ってくる前に、群れの核となる魔の者を

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