「パズルどろぼう」。
それは、子どものいるおうちで起こります。
夜、みんなが寝静まったとき、部屋の隅っこからそれはあらわれます。
「パズルどろぼう」です。
小さな住人は、カーテンの隙間や、ソファーの下や、時々は冷蔵庫の裏から、ひょこひょこと出てくるのです。
体と手足があって、目がふたつあります。
あまり力はなさそう。
でも、すばやくて、すぐに隙間に隠れることができます。
彼らは、夜な夜な部屋にあらわれ、あるものを探し、盗んでいきます。
それは、パズルです。
ジグソーパズルのピースをひとつ、自分の家に持ち帰ってしまいます。
だから、片付けずにバラバラに放っておいたパズルのピースがよくひとつなくなってしまうのは、パズルどろぼうの仕業なのです。
彼らは落ちているパズルから、お気に入りの形をひとつ選ぶと、大事に抱えて、満足そうに自分の住処へ帰っていきます。
パズルを持ち帰って、何をしているかって?
そりゃあ、いろいろですが。
一番多いのは「たべること」です。
パズルどろぼうは、パズルを持ち帰ると、住処の一角にある横長の棚に、それらを一枚ずつ並べておきます。
種類も大きさもてんでバラバラなパズルが並ぶ、彼らの住処。
そこには、平たいオーブンがあります。
パズルどろぼうは、そこに今日のパズルを一枚選んで入れると、よーくよーく焼くのです。
こんがり焼けたパズルは、それはそれはおいしいのです。
クッキーのようにサクサクで、味はパズルによって違います。
ウワサでは、海の絵柄はしょっぱくて、花の絵柄は甘いとか。
ほんとかどうか、知りませんがね。
ジグソーパズルの、あの独特の形のものが一番おいしいという者もいれば、パズルの端っこの尖ったところが焼くと美味い、なんていう者もいます。
彼らは、毎日そうやってパズルをすこしずつ焼いて食べます。
もし、部屋のどこかでこうばしい匂いがしてきたら、それはパズルどろぼうがオーブンで焼いている匂いなのかもしれません。
ほら、今日もタロウくんがパズルをしています。
タロウくんはパズルが得意。
車のパズルも、新幹線のパズルも、あっという間に完成させられます。
「もう寝る時間だよー」
お父さんに呼ばれたタロウくんは、パズルを片付けずに、階段を上がっていってしまいました。
電気が消されて、暗くなったリビングに置かれたまんまのパズルたち。
もしかすると、夜中にパズルどろぼうがあらわれて、一枚ピースを持っていっちゃうかもしれませんね。
え?
それは困る?
どうしたらいいかって?
それなら簡単。
寝る前に、ちゃんとパズルを片付けておく。
それだけです。
パズルどろぼうは、ご飯になりそうなパズルがなければ、引っ越していくからだいじょうぶ。
またどこか、べつの場所に住みついて、夜な夜なパズルを集めるんでしょう。
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