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積ん読note

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あとで読もうと思ったnoteたちの保管庫。積ん読は崩してもお気に入りは再度積んでおくかも。
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2019年8月の記事一覧

優しい夏の休日

『愛情と欲情って何が違うの?』 突然そう聞かれて、奈都(なつ)は飲んでいたアイスコーヒーを危うく取り落としそうになった。いきなり何を言い出すんだ、この男は。 クーラーの効いた部屋で、恋愛映画を見ていた。コンクリートジャングルの照り返しに蒸し焼きにされるのは耐えられそうにない。私たちは北国の産まれだから、未だに関東の夏に慣れない。 わざわざ店頭に赴かなくても、指先一つで映画が見れる時代になった。しかも、月額料金を払えば多数の映画やドラマが見放題。わざわざ汗だくになって外に

僕は酒井くんのことが分からない

 人並み程度には恥の多い人生を送ってきたから、思い出したくない記憶というのが沢山ある。  そして――きっと、これは誰でもそうだろうと思うのだけれど――困ったことに、そういう思い出ほど、ことあるごとに思い出してしまう。その度に、胸を刺されるような痛みと、申し訳なさと、それから、どうしようもなさみたいな感情を覚える。  中でも、ここ最近、やたらと思い出すのは中学生の頃おなじクラスだった酒井くんのことだ。    僕が通っていたのは、ベッドタウンの中にある公立中学校だった。

限界夢女がiPadだけで文庫同人誌を出した話

1.はじめに ドーモ、限界夢女の小日向デス。  2018年2月末からずーっと某神を喰うアクションゲームのソーマさん夢小説を書いていて、気づけば30万字ぐらいになっていました。  これ本出せるじゃね? となり、生まれて初めて同人誌というものを作りました。それが此方。ジャーン。  文庫本サイズ。本文約20万字。厚さ2cm。この本、自立します。  生まれて初めて作った本にしてはかなり良い出来では? と大満足しており、やり方を忘れない意味も込めてこの記事を書いています。  Twi

【試し読み】地獄楽 うたかたの夢

ジャンプ+で大人気連載中、累計発行部数130万部突破の大ヒット忍法浪漫活劇コミック『地獄楽』が待望の初ノベライズ!! 予約はこちら 9月4日の発売に先駆けて、試し読みを公開! あらすじ画眉丸と佐切が神仙郷上陸前に遭遇した敵とは!? 弔兵衛&桐馬兄弟はいかにして盗賊の首領となったのか!? 神仙郷上陸直後、杠はいかにして牧耶を殺害したのか!? 道場時代、典坐が士遠を師と仰ぐようになった理由とは!? 人気キャラクターの過去や、知られざる物語を満載の一冊!  それではお楽しみ

「2010年代、世界で最もSFを愛した作家」伴名練1万字メッセージ

8月20日に短篇集『なめらかな世界と、その敵』を上梓するSF作家・伴名練さん。発売後に公開予定だった「あとがきにかえて」ですが、届いた原稿の内容がまったく「あとがき」ではなく(本書のネタバレになっておらず)、それでいて一刻も早く世に広げたい熱量だったため、緊急公開します。何はともあれ、読んでください。(編集部) ※本原稿は書籍ではなく、SFマガジン10月号(8/24発売)に掲載されます。 伴名練『なめらかな世界と、その敵』 装画:赤坂アカ ーーーーーーーーーー あとがき

Agust D "ディス"の根底にあったもの

BTS(防弾少年団)のラッパー、SUGAことミン・ユンギの、Agust D名義のミックス・テープ『Agust D』が公開されてちょうど3年が経つ。 「仕事を奪われる兄さんたちの妬み、嫉妬の騒音」「俺よりラップ下手なんだから転職しろ」と、BTSのCypher(ラッパーのRM、SUGA、J-HOPEが参加し、ヒップホップならではの"ディス"ラインを畳みかけ、ゴリゴリのハングリー精神を見せつける)シリーズに輪をかけて攻撃的なディス。サビには「俺のtongue technology

「良いフィードバック」をするために覚えておいてほしいこと。

「フィードバックって難しい」配慮のないフィードバックをもらって傷ついたり、混乱したり..,。 逆にフィードバックの伝え方を失敗したり、言いたいことが言えなかったり... そんな経験のある人は多いのではないでしょうか?(特にデザインレビューのような定性的なフィードバックであればなおさら) 「良いフィードバックとはなにか?」を今一度考えるために、絶対に一度見てほしい動画があります。(約3分) 下記の動画はinVisionのクリエイターによる「優れたフィードバックを与える」

想像力の欠如が人を怒らせる……「ケーキの切れない非行少年たち」感想

 「ケーキの切れない非行少年たち」が話題になっていまして、この新書は児童精神科医の著者が、何度も非行少年たちへのカウンセリングを繰り返し、彼らがどのように思考し非行へ至ったかを解説した一冊です。  そして、こちらが表題である非行少年がケーキを三等分と五等分した図。ケーキ五等分と言えば……「五等分の花嫁」のおまけマンガですね。  三等分はともかく、五等分の方法を一瞬で思い浮かばない方も少なくないでしょう。しかし、非行少年が描いた図は明らかに平等性が欠けており、恐らく等分を理

"クソコード"は人格攻撃ではないのか

これは仮説というか自分がこうだという話なのだが、自分のアイデンティティを侵食されると怒りが湧く。たとえば、自分が非常に大事にしている価値観に対して、同僚から「君のその価値観は間違っている」と言われたり、あるいは、作品とか、経歴とか、家族とか、そういう自分自身と非常に密になっていて同一視されるようなものをけなされたら、腹が立つということだ。 プログラマーにとって、ソースコードというのは一つの作品だ。仮に経験が浅い開発者であっても、あるいは経験が浅いからこそ、1行1行に時間をか

FGOでラクシュミー・バーイーが登場して驚いた件。英国統治時代のインドとインド独立についてざっくりまとめ。

なますて。天竺奇譚です。 まずはじめに。 かなり長くて雑なまとめですまない。 ちなみにこの長ったらしいメモというかまとめは、主にFGOというゲームに登場するラクシュミー・バーイーにからめた話だけど、ラクシュミー・バーイー本人やゲームについてはほとんど語ってない。ラクシュミー・バーイーが登場した歴史背景と、彼女の存在がインドに与えた影響についてざっくりとまとめたものなので。そこはすまない。 あと、ほんと雑なまとめなので、英国と東インド会社を同一に語ってたりとか、用語とか

イメージ人類学/ハンス・ベルティンク

僕らはきっと実際の物事を見ているより、イメージを見ている方が多い。 そう思うのは、単にスマホやPC、テレビの画面に映し出された静止画や動画に目を向けている時間が長いからというだけではない。街にさまざまなグラフィック広告があふれかえっているというからというのでもない。 そもそも、実際目の前に人間やその他さまざまな物事があっても、果たして僕らは本当にそれらの実在のものに目を向けているのだろうか?と思うからだ。 もちろん、僕らは世界を見てはいる。 けれど、意識にのぼってくる視覚

クリスチャン・ボルタンスキー回顧展 Lifetime @国立新美術館

この感じ、知ってる。 国立新美術館で開催中のクリスチャン・ボルタンスキー回顧展「Lifetime」の展示でのメイン一室ともいえる撮影不可の大きな展示空間での作品を観ながら、そう感じた。 それはフランスの大聖堂の地下にあるクリプトの雰囲気そっくりだった。 地下礼拝堂でもあり、地下墓所でもあるクリプト。あのすこし恐怖感を感じるクリプト内部に入ったときの雰囲気に、ボルタンスキーのメイン展示空間の雰囲気はそっくりだと感じた。 そこは死体なき死のイメージの安置所だった。 死体な

小説の鬼門、中だるみや説明シーンをどう乗り越えるか?

小説を書く人の悩みポイントというのは、驚くほど似通っている。 それはアマチュアでも、プロでも大きくは変わらない。 クライマックスや最初から書きたいというシーンはスラスラっと筆が動く。 あるいは、書き出しは得意という作家もいて、序盤もラクに書ける。 ところが、一度書きたいシーンを書き終えて、次の盛り上がるシーンにいたるまでの途中、ここが難しい。 とたんに筆が鈍り、そして描写もなんだかダラダラっとして、魅力に欠けてしまう。 そんな悩みを持っている人が多い。 なかには盛り上が

¥500

不可解なライブ、帰りはアイスを買って食べた

思えば、最初から不可解だった。 満員の丸ノ内線で頭を抱えていた。「なぜライブビューイングに向かっているのか」念仏を唱えるかのように頭の中で何度も何度も繰り返した。ふと前を向くと、汗をかいたサラリーマンがクーラーの効いた車内でバグったように寛いでいる。不快だ。 ぼくが目指していたTOHOシネマズ日比谷は、バカでかいコンクリートダンジョンの中にあった。なんの装備もしないまま、バカでかいコンクリートダンジョンへと足を踏み入れる。所持品といえばラスボスの部屋の鍵ぐらいだろうか。そ