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掛川ショッピングセンターをゆく(東京)

東京の東のはずれ、千葉県との県境がすぐそこという場所にひとつのショッピングセンターがあります。このあたりは公共交通機関の便が良くないため、買い物するにも一苦労。そういう意味では、地域にとっては日々の糧を入手する場所でもあり、情報交換や交流の場でもあったんだろうね。ただこのあたりも高齢化は進んでおり、建物の老朽化も相まって、まもなくその役目を終えようとしている。さあ、その最後の雄姿を心に刻もう……。


千葉県の目と鼻の先にある掛川ショッピングセンター。休業表示になっていますが、じつは魚屋さんだけが営業を続けています。



都営新宿線の篠崎駅に到着しました。ここが旅の出発点。そしてふたりの終着点。



日曜日の昼過ぎだけど、人通りはそれなり。とりあえず地上に上がります。



20分くらい歩いたかな。住宅街を進んでいくとマンションやアパートが続くなか、たまに大きなお屋敷も現れる。



立派な銭湯を発見。この時間はまだ営業前みたいね。



「酔って家」に匹敵するインパクト! 個人経営の居酒屋の店名って、よくアイディアが沸いてくるなあと感心しきりです。あとスナックもね。



となりにある水沼ショッピングセンターは――



奥のシャッターが下りていてお休みでした。ぬぅ、残念。



そうこうしているうちにやっと到着。篠崎新町商店街。目的の掛川ショッピングセンターはこのなかにある。じゃ、さっそく行ってみましょうか。



曲がり角を折れて商店街に入ったはいいものの、そこはシャッターが支配する世界。



覚悟はしていたけれど、やっぱりこうなるか。商店街の活気を維持するって、並大抵のことじゃないからね。



そしてしばらくすると見えてきました。掛川ショッピングセンター。地図では休業となっていましたが、シャッターは一部だけ開いています。



掛川食品通りの看板が掲げられている。中に入ってみると――



ほとんどシャッターなんだけれど、魚屋さんだけが営業されていました(営業中なので撮影はしませんでした……😅)



その最後のお店も閉店するとか。今日が11月6日だからなんと5日後! 55年も続いていたっていうのがスゴイね。お店は別の場所に移転してまた営業をつづけるみたい。よかった。



中は狭くて、10秒~20秒ほどで通り抜けできてしまう。振り返るといま通ってきた建物の出口近くに、積み上げられた魚屋の発泡スチロールが見える。


それにしても5日後には最後の魚屋さんも閉店、そしてショッピングセンターも完全閉鎖、か。ギリギリなんとか間に合ったという安堵感と、ホントになくなっちゃうんだなという寂寥感せきりょうかんとで、なんともいえない切なさを感じつつ、さて帰ろうかと、この場を後にしようとしたんです。しかし――


そのとき、となりに階段があるのを見つけてしまった。手前に割れたタイルが散乱しているものの、階段自体はしっかりしていていまだ現役。上に……つづいている。見たい……とてつもなく昇りたい。携帯を覗くふりをして周囲をチラチラ(だれもいない!)。あしもとに赤いコーンが3つおいてあるけど、なんだろ、ボクわかんない。帰り道はこちらかしら、と階段に足をかけ、はやる気持ちを制御する。おれはできる、おれはできる、落ち着け、自分。



ショッピングセンターのうえは居住スペースになっていました。要するにアパートだね。もちろん全員退去済みでしょう。人の気配はまったくありません。



建物の構造自体はわりとシンプルだと思うんだけれど、たまに不規則な位置に部屋が現れたりしてびっくりする。それにしても、部屋番号をドアへ直接書き込むっていうのは、それでいいのかね。たしかにわかりやすいけれど、デザイン的にね、もっとあるでしょ。この扉の右を曲がると廊下が続く――



このあいだ『サイレントヒルf』のトレーラーをみて歓喜していただけに、もうゲームの世界にしか見えない。緊張が一気に高まります。



これは夢のなか? それとも現実? 圧倒的な「リアリティのなさ」で思考を麻痺させながらも、奥の光に導かれるように一歩いっぽ進んでゆく。


音量注意!

足元に割れたタイルが散乱しており、ジャリジャリいう音がまた臨場感マシマシでいやがおうにも神経を張り詰めさせる。



階下に目をやると集合ポストが密集していた



上は崩落した天井。ややビビる。でも隣の階段はさらに上へと続いている。階段は、大丈夫らしい。床は……ものっすごく不安! でも、ここまできたら好奇心に逆らえない。注意を払いつつ階段に足をあずける。



2Fは(比較的)明るい。



ドアポストから中を拝見すると、家財道具一式がすっかり整理され撤収を待っていた。



そうかと思えば、ふつうに扉が開いている部屋もある。窓の位置と高さに注目。現在のアパートでは見ない配置ですな。



廊下の端にあった火災報知受信機ボックス。このなかでは比較的「テクノロジー」の雰囲気を感じられるモノ。この居住空間は4Fまであることが判明。



さらに3Fを通り過ぎ



一気に4Fまで昇り最上階へ到達。そこには.巨大で重厚な鉄の扉。おいおい、冗談でもやめろよ。これが閉まったら正気を失う自信がある。



扉の部屋番号もよくわからないものになっています。左前方の部屋のドア下からあかりが漏れている。これは開けちゃいけないやつだッ! 中ボスの予感!(ゲーム脳)。



最奥部へ歩みを進める



お札が貼ってある。ゴクリ……。ま、まあ、そういうこともあるやね。ハハハ。なるべく護符が視界に入らないようにして右に目をやると――



おや? 最上階からさらに上へ続く階段が。



階段を昇ると、やはりあったか。



水道と洗濯機



天気のいい日はここに物干しざおを渡し、洗濯物が並ぶんだ。小さな子をおんぶしたお母さんたちは、あたりを走り回るわんぱくな子どもたちを叱りつけながらも、ご近所さんとの井戸端会議に花を咲させる


音量注意!


それはいつのことだったか。もう思い出せない。



今日は空が青くて、空気が澄んでいて、11月とは思えないほどのポカポカした陽気。でも、もう冬も近い。


商店街の基本形というのは、まず人々が集まって暮らすようになり集落を形成する。次いでその集落の住民を相手にした店舗があたりに集積していき、自然発生的に商店街が形成される。だから、人がいなくなって集落が解散すれば、それに付随して発展した商店街もまた消えていくのは自然の流れではある。

でも、コトはそう単純ではなくて、人の生活があるということは、一人ひとりの歴史やドラマがあるということ。記憶やきろく、感情や想い出が、その土地や建物や人間関係にみついているということだからね。1Fで最後まで営業していた魚屋さんは、55年もここにいたんだ。いろいろと去来することがあると思います。おれなんかには到底想像もできない。
来週から移転先で心機一転がんばろう、もちろん理性的に考えればそれが正しいよ。向こうで受け入れてくれる新しいお客さんもいるだろうし、なにより自身の生活もある。でも、それら諸々もろもろを理解したうえでなおここを離れるというのは簡単な決断じゃなかったろうと、なんとなくそんな気がするんです。
大事にしてきたものを、いろんな理由から手放さなければならないというのは、自分の想いを捨てるのと同じだからね。


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