『読むアートはいかがですか?』5

前回横浜美術館を取り上げさせていただいたので、そこで見たアーティストの話題を。今回は石内都さん。群馬県出身で横須賀で生まれ育ったそうです。彼女は大学の写真ではなく、染織を専攻されていました。なので写真は独学なんだそうです。しかしその、染織の知識や感性が最も生かされているのが彼女の撮影する写真の数々だと感じました。

1979年に『APARTMENT』で木村伊兵衛写真賞受賞。木村伊兵衛はLeicaを使ったモノクロームの写真が作品の特徴的な「ライカの神様」と言われている伝説的な写真家さんです。


私は写真が大好きで、自身でもよく撮りに出かけるのですが。夜空の月がなんとなく怪しげです。『誘う月』。

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横浜美術館で2017年に開催された「肌理(きめ)と写真」。寒い冬だったのを覚えています。この時はナイトツアーに参加。さまざまなお話を美術館の方にお伺いすることができました。

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彼女の写真の中にモノクロームの風景写真があるのですが、その白と黒、そしてそのどちらともいえないグレー。たったそれだけの配色なのに、なぜこんなにも目を奪われるのだろう?そこには私も写真を撮る際に最も大切な要素である「光」の存在があると思いました。その光の入り具合によって、写真の表情は全く違ったものになってきます。美しさとは、色とりどりの世界だけではないということを彼女の写真を見て感じたのでした。

写真を撮ることで被写体のなにが光るのか。今はデジタルで撮っては削除しの編集作業があるかもしれませんが、当時はもちろんフィルム写真。現像という作業があります。一度その過程を体験してみたい。

石内さんの作品は被写体のそのままを美しいととらえていて、肌に残った傷跡や歳を取ってゆるんだ肌をもそのまま撮影して作品にしています。そこにこそ、その人の生きてきた過程が映し出される。そしてそれは強さであり美しさでもあると感じるのです。

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私にももちろん傷があって、目に見える傷はやはり、当時のことを思い出します。小学校の時切った膝の傷や、事故で負った額の傷。生まれながらにして有る痣。そしてもしかしたら癒えておらず未だ在るかもしれない自分の奥深いところにしこりがある傷。

それを明るみに出すことはとても勇気がいることかもしれませんが、多分それを乗り越えられるかもしれない可能性を石内さんの作品をみて感じるところもありました。

作り手がそのままの感性を持って作品を作る。そこに私やアートを手掛けてない人との心理的な乖離はどういう部分なのだろう?と思ったのですが、何事もクリエイトするということは、感動をもたらしたいという気持ちの配分が多いはず。

それは料理や広告、企画など、全てにおける"作ること"に対しての熱量なのだろうなと思います。世の中を見て、観察して、与え続けるのってとてもエネルギーがいるけれど、そういう気持ちもとても大切ですよね。

石内さんは今、故郷群馬にお住まいだそう。なんとなく、ご縁を感じます。


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