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『読むアートはいかがですか?』13

皆様こんにちは。まだまだ降り続く雨。なんだか私の赤い傘も少し疲れてきているような気がします。どうかあたたかく一日、お過ごしください。今日は少しでも雨のお天気を楽しめるように。赤い傘を刺す女性の写真が印象的なニューヨークが産んだ伝説の写真家、"ソールライター"をご紹介させてください。

日常の「美しさ」を切り取る天才

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私が彼の展示に足を向けたのは何年か前の渋谷のBunkamuraのミュージアムでの回顧展。その時見たこの写真がとても印象的で、一気にファンになってしまいました。

上の写真では、赤、白、黒のコントラスト、彼の目に映るファインダー越しの完璧なる構図。そこには、日常の中の「美しさ」を切り取り、芸術へと昇華させるソールライターの天性の才能が感じ取れます。

そして、その構図だけではなく”色彩”へのリスペクトを感じます。モノクロのみが美しさであるといわれていた時代、そこにカラーを持ってきたソールライターは「カラー写真のパイオニア」の異名があるのも頷けます。

彼は言います。古代の壁画にも”色”が使われていたのに、なぜモノクロのみが美しいと思うの?と。

日常を撮り続ける

ソールライターは、12歳の時に母親にカメラを渡されたと言います。私も写真を撮りますが、上手くなるためには、まず面白がって撮りまくるしかありません。そう"撮る"、撮り続けるのです。それは、彼がこの世に”さようなら”をする時まで続きました。

ファッション誌に大人気であったソールライター。晩年の隠居生活はその花舞台からも退き、金銭的にも困窮していたようですが、大好きなコーヒーを飲み、絵をかき、写真を撮る。その日常を楽しんでいたとい言います。

その日常にこそ、幸せがある気がしました。

画家を目指していたソールライター

最初彼は画家を目指していたそうです。それがある故の完璧ともいえる構図だったのですね。彼は言います。

写真を撮ることは発見であり、絵を描くことは創造

彼はパウセット=ダートとユージン・スミスに写真を撮り続けること勧められました。ここに出てくるユージン・スミスは私が好きな写真家の一人。日本に関係が大いにある彼の作品もまた、別の機会にご紹介したいと思います。

ふとした日常の瞬間に感じ取る彼の美しさの背景には、色とそのコントラストのバランス、そしてその時の空気感があると感じます。

そして、その雰囲気は見るものを魅了し、いつまでもそばに置いておきたい。そう、写真から伝わる不思議な「あたたかさ」を感じるのだと思います。温もりとは違う、その感覚。

皆さんはどうですか?私は彼の人となりが、彼が撮る写真から伝わってくる。そして、それを私たちに表現し発信できることが「才能」だと思っています。すごく、稀有なこと。

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ソールライターが残した言葉の数々

さて、ソールライターは名言をたくさん残しています。それは、彼の出版された写真集"ソールライターのすべて"からも知ることができます。

当時のBunkamuraの展示はとても良き展示に感じました。なぜなら、彼の名言とも言われる言葉の数々が会場内に散りばめられていたからです。

その中の私が好きな彼の言葉で、

“肝心なのは何を手に入れるかじゃなくて何を捨てるかなんだ”

というのがあります。

人生の時間は有限です。かと言ってカチカチに固めてしまいたくはない。そこら辺のバランスはとても難しい。なぜなら、肝心な大切なものは何か?を実はわかっていない人も多いから。いえ、私もそうなんですけどね。

彼は大切なことが何か見えていた。そして、それを続けていく、大切にしていくためには必要のない”何か”を手放す必要があると言っています。

彼の大切なもの、はなんだったのでしょう。私は思います。

マックス・コズロフ(美術史家、評論家)が、ある日私にこう言った。「あなたはいわゆる写真家ではない。写真は撮ってはいるが、自分自身の目的のために撮っているだけで、その目的はほかの写真家たちと同じものではない」彼の言葉が何を意味するのかがちゃんと理解できたかどうか分からないが、彼の言い方は好きだ。

ライター自身の大切なもの、それは、自身が好きなことをし、美しいものを自身の”目”に残し続けられる「日常」だったのではないかと思います。

最後に、こちらも素敵な文章で締めくくられているのでおすすめします。

そして、彼がこの世にサヨナラをした日。偶然ながら11月26日でした。この文章の下書きを認めた日。ちょっと運命的なものを感じつつ、来年のソールライター回顧展を楽しみにしています。

日常で見逃してしまう些細な風景を切り取ったような写真。見方次第で美しい瞬間はそこら中にあるんだよ。

どうですか?あなたもカメラを持って出かけたくなったりしたのでは。私も、早くまた自分の目のファインダーで日常の美しさを切り取りたい。

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