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COPULES冬のサボテン

家に届いた手紙の封を切ると、そこにはこう書いてあった。

拝啓
 突然、秋に突入したように思われる今日この頃ですが、お変わりございませんか。ー
ー二十四年前に先輩であり、同法であり、人生と演劇の道しるべでもあった朱源実のために書き下ろした「冬のサボテン」という作品を、監修いたします。

朱源実とは、在日韓国人二世として生まれ、舞台役者として生きた今は亡き私の父のことだ。

私が小さい頃から、母に耳にタコができるくらい「義信はすごい、義信はすごい」と言っていたのが脳裏をよぎる。

正直、父をすごいと思ったことがない。働き者だったとは思うけど、正直言って舞台役者としては鳴かず飛ばずだったと思うし、酒飲みだったし、すぐキレるし、おばあちゃんがお父さんの為に入ってた保険金勝手に契約切っちゃうし、ガンになった時も別で入ってた保険金不備あって入らなかったし。苦笑

母曰く、「お金はなかったけど、愛はあった」っていう言葉がせめてもの救いな訳で。

だから、父がなくなってもう8年が経っても、演劇界の重鎮である鄭義信さんが父の事や、家族である私たちにもこうやって気遣ってくれるのが、不思議というか。というか、不思議でしかなくて。きっと家族には見せていなかった朱源実がそこにはいたのかなとも思っていて。父と鄭義信さんには、きっと絆や歴史があって。
だって手紙には「朱源実の為に書き下ろした」って書いてあるし。
それって冷静に考えてみたら凄くないか…?

そんなことを思いながらも、私は久しぶりに下北沢まで足を運んだわけで。

ちなみに冬のサボテンは、ゲイの若い男性達の物語なんだけれど、24年前に初演されたとは思えないというか、現代でも全く色あせる事のない作品。韓国でもロングランヒットした戯曲。

父の役がどの役かとか、調べもせずに観に行ったんだけど。
もうすぐわかった。苦笑
岩男海史さん演じる花ちゃん役は、父そのもので。
花ちゃんは花ちゃんなんだけど。
岩男海史さんが父に見えて仕方なかった。
(私より年下なのに)

翌朝、母からLINEが来ていたので、電話した。
感想を伝えると、「お父さん、本当はゲイだったのかもね?笑」と言っていた。私はそうは思わない。父はドがつくほどマザコンだったし(幼い頃は父が酔うとおばあちゃんに何度も電話させられた)、母のおっぱいが大好きだった(あと朝からチュッチュしてた)。

生前は父が出演している舞台に全く興味がなかったけれど、父が出演していた時代の「冬のサボテン」を見てみたいな、と思った。
24年前ということは、私が7歳の頃か。
幼い頃、夜の舞台を何度か観に行った記憶はあるけれど、壁が全部真っ黒で、暗くて、狭くて、スモークがたかれれてて、早く帰って家で寝たいという記憶しかない。

ずっと「普通の家庭」に憧れてた。でもうちは「普通」じゃなかった。
私のいう「普通」は親がサラリーマンで、収入が安定してて、、みたいな。
ずっとずっと「なんでうちは普通じゃないんだろう?」と思っていた。
「普通」じゃないことを肯定できずにいた。
今は、肯定というか、受け入れられている気がする。
(もう31歳だしね。)
私は、義信さんをはじめ、父を愛してくれた人たちのおかげで自分の人生を受け入れられているのかもしれない。

アヴァンギャルド×コンプレックスの皆さま、鄭義信さん。素敵な舞台を本当にありがとうございました。

再演、ありますように。
楽しみにしています。

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