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「10years ago...→Now STORY#1」

「私、あなたのこと嫌いだから!」

このフレーズの夢を見たのは久しぶりだった。
現役選手を再度始めた時に勤めていた特別支援学校の同僚の惠子先生。自分たちの分教室の10人いる教師の一人で、同い年だって知ったのは1ヶ月経った歓送迎会の時だった。
週三回の朝5時からのトレーニング。
7:00にシャワーを浴びて出勤8:00から朝礼がある。
授業は10:00から隣にある国立病院にある分教室に重度の障がいのある生徒と活動をする。
11:00に終わり、
12:45からランチタイム(休憩)。
14:00からまた授業に行く。
15:00に終わり
16:00ごろから各委員会の会議がある。
俺は総務委員会にいて、雑務を中心に行なっていた。
17:00が定時でそのままラグビーのトレーニングに向かう。
というルーティンだった。
そのランチタイムで堂々と職員室で寝ていた。
それを見ていた惠子は「なんなの?」と思っていたらしい。

6月から行われる全国の研究授業に俺と惠子と主となる木村先生で、決起会と言う名の飲み会を行なった。
その席の最中、酔っ払った惠子が唐突に、
「私、あなたのこと嫌いだから!」
『?なんで?』
「塚越さん、平気で職員室で寝てるし、仕事舐めてるから!」
理解ある職場と聞いてプレーしながら勤めていれると思った。
しかし、よく思ってくれる人ばかりでないということがわかった。
言い訳をしたが一気に覚めてしまい、
非は間違いなく俺にあるのは自覚したと同時に、惠
子とは距離を置こうと思った。

 次の日から顔を合わしても定型的な挨拶と仕事以外では話すことはしなかった。
隣の病院の教室にも極力早めに行って準備して、生徒がいる病室で待機していた。
昼の時間も誰もいない場所を見つけて昼寝をするか、他学部と交流をして眠気を飛ばすようにしていた。
そんなことを1週間していたら、姉御肌タイプの湊先生が
「塚越くん、惠子ちゃんとなんかあったの?」
と言われる。
特に仕事以外のことは接しないようにしていることが、その女性の先生には感じたらしく聞いてきた。
「特には何もないですよ。」
「ならいいけど、なんかそっけない気がして。」
「ならいいけ、なんかそっけない気がして。」
そりゃそうだ。
面と向かって酒の席と言えど『嫌い』と言われれば距離を置こうと思うのが普通だし、相手だってそうだろう。
「冷たくしないであげてね。」
と、言われてもそれはむずかしい…

6月の梅雨入り前に校外学習が組まれ、担当の生徒を4班ほどに分けて4回に分けて行われる。
生徒1人につき必ず担当教員ともう1人付かなくてはいかず、部長が基本振り分けるのだが咲子の生徒に俺がバディーで付くことになった。
約1ヶ月間何も特に話していなくて恵子の連絡先も知らなかった。
朝礼が終わり、病棟に迎えにいく。
病棟の目の前にある庭に集合して朝会をする。
そこで、恵子の担当の静子さんと待っていた。
恵子は保護者の方の受け入れで外していた。
間も無くしてお母さんと恵子に合流した。
母親に静子さんを任せている時に
「何かあったときのために連絡先を交換しませんか?」
と、恵子から言われ
「あ、そうですね。090-4…です」
淡々と答えた。

校外学習が始まり、基本的には車椅子を俺が押し、恵子と母親がその脇にいるという感じで進行して行った。
遠野にある水光苑という河童が出る公園に路線バスを貸し切り40分かけて向かった。
そこに何があるのか俺は調べてはおらず、スケジュールだけ知っていた。
特に恵子とは話をすることはなく次に何が起こるかを確認している程度。
恵子が担当していた静子さんは、俺が赴任して対面した時に目が合ったりよく言葉を発することが多くなった、と周りの先生方が言っていた。
その日は雨が降っていたが着くと雨が弱まった。
庭園を散策して、静子さんと母親との交流をサポートしていた。
母親が車椅子を押すことになり、俺と恵子は目の前にあっためちゃくちゃ大きい木でできたシーソーを見て、シーソーと分からず、
「これなんだろうね?」
と言うと、彼女は対面に座り、
「シーソー!」
と言い勢いよく地面を蹴った。
ふわっと浮いてまた下りて、また蹴って…静子さん親子をそっちのけで楽しんでいた。
しばらくして笑いながら、
「終わりーー!」
って言われ蹴るのをやめた。
なんか恵子の笑顔を初めて見た。

その後昼食を取り学校へ戻った。

その日は、雨が再び降ってきた中でのトレーニングが終わり、ビショビショの状態でロッカーの前に腰掛けた。
シャワールームは大混雑だった。
携帯を取った。
今日の校外学習が無事に終われた報告がてら、話してみようかなと思いメールを作成していた。
そしたら、恵子からショートメールが届いた。
[今日はありがとうございました。無事に終われてよかったです。今日も練習でしたか?]
定型的な謝礼のメール内容だったが、練習のことが入っていたので、打っていたメッセージに付け足した。
[お疲れ様でした。何事もなく静子さんもお母さんも楽しんでくれてよかったです。先生も楽しそうでよかったです。トレーニングはさっき終わってシャワーを浴びるところでした。]
メールを送って、間も無くして
[車ですよね?よかったら海に連れてってくれませんか?私、お酒飲んでるので運転できないので迎えにきてください。今日のお礼もしたいので。]
1ヶ月前は、『あなたのこと嫌い』と言った人とは思えないメッセージだったが、色々と悩んでいたので気晴らしに付き合うことにした。
[10分でシャワー浴びて向かうので、目印になる場所だけ教えてください。また、出るときに電話します。]

とにかくありえない角度からパンチが飛んでくるような感覚で驚いたが、チームに合流してからスランプに陥っていて、ラグビーと仕事だけしかない状況から解放されたかったのは事実だった。
急いで、シャワーを浴びて浴槽に浸からず、アイシングバスにも入らず当時乗っていたSUBARUのレガシィーに乗り込み、これから出ると電話をかける。
「ひとまずサンデー(地元マーケット)と県道沿いの細い道をサンデーに向かって来てください。安全運転で。」
「わかりました」
形式的なぎこちない感じはまだ、溶けるわけもなく。

県道とサンデーの間の細い道に入り、徐行しながらサンデーに向かって車を進めて行く。
買い物袋を持った細身の女性が立っていた。
『ブォーン、ボッボッボッボボ…』
とレガシーのエンジン音が少し大きく聴こえた。

 彼女はニコッとして後部座席に乗り込もうとする。
『えっ?』
「ちょっ、後ろは…」
そう。
片付け下手な俺は後ろにトレーニンググッズやらなんやらが散乱していた。
「お疲れ様でしたー。きったなー」
「いやいや、後ろに乗るなんて思わないじゃん!そのスポーツバッグ後ろに投げていいから。」
彼女は遠慮なしに投げる。
ってか、なぜ?
「なんで、後部座席?」
「知ってる人に見かけられたら嫌だから〜!」
なるほど。恵子には長く付き合っている彼氏がいると聞いたことがあった。本人からではない。
同い年の男女が夜な夜な出かけていたら、清純な彼女のイメージは崩れるだろう。
「で、どこの海に行く?前に校外学習で行った海岸しかわからないけど。」
「そこでいー。私酔っ払ってるから(笑)」
その後今日の話をしながら、その海岸に向かった。
20分ほど車で行った。

海は、全部を綺麗にしてくれる。
身も心も。住んで3ヶ月経とうとしていたが、行こうともしなかった。
それくらい生活に慣れるのに追われていたのだと思う。
何より、なぜ俺を彼女は誘ったのか。だ。

謎は謎のまま今いるこの場所を楽しもうと思った。
  
暗闇の中に浮かぶ星がくっきりはっきり見える。
雨上がりの雲一つない空に心を落ち着かせる波音があった。

防波堤に腰を掛け大の字で天を仰ぎながら寝てみた。
彼女も
「う~~~っ」
て伸びながら大の字で隣に寝そべっていた。
特に会話をするわけでもなく、ただただ星を見て、波の音を聞いていた。

『ヒューーーーーーーー』

という、エフェクト音が聞こえてきそうな夜空の端から端に流れていく太くて大きい流れ星が目の前を通っていったのを見た瞬間、
「「見た!?」」
2人の声がこだまする。
そして向かいあっていた。
顔と顔の距離が近いことに気づかなかった。
目と目が合っているのがわかった。
そのままお互いの唇に吸い寄せられるように交わした。
恵子は目を開けていた。

 「ぷはーーー」

と恵子は言った。
キスがなかったかのように話を続ける。
「今の流れ星は、すごいねー!」
と、大はしゃぎで笑う。
俺もキスがなかったように興奮しているふりをして、
「あんなのというか、流れ星自体あまり観たことないのにあんなの観たら、やばいね!」
こんなに感動したのとケラケラと心の底から笑ったのなんてどれくらいぶりだろうか。

 少しして。

「俺のこと嫌いって言ったの覚えてる?」
「覚えてるよ。だって、職員室で堂々と寝てるし、仕事も飲み込み悪いし。」
「でも、なんで今日海へ行こうなんで誘ったんだよ?」
「なんでだろーねー話がしたかったんかな。私もフツフツすることあるから。」
と、恵子は言ってダムが決壊したかのごとく、いつもニコニコ接している恵子とは違い、同僚の先生方の愚痴がこれでもかも出てきた。

「あースッキリした!」
「なんで、キスしたの?」
と、聴くと、
「塚越さんからしてきたんでしょ!」
「いやいや、そうかも?しれないけど抵抗はできたでしょ?」
「私もしたかったんでしょ?それだけのことよーあー酔ったー」
よくわからないが…と思った次の瞬間、
「また、来ようね。」



「じゃー明日も来よう。」

2人の違和感のある恋愛が始まった。

to be next story...

(あとがき)
今回は、過去の別の女性とのストーリーになっていますが、
やはりキスはしちゃうみたいです。
こんなに嫌いと言われているのに受け入れてしまう?のはなぜなんでしょうか!?

引き続きよろしくお願い致します!

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