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英詩:トマス・ハーディ 『鼓手ホッジ』

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作. トマス・ハーディ
訳. 出雲 幽
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鼓手ホッジ

鼓手のホッジを放り込む、棺もなしに
横にする—彼を見つけた時のまま。
彼のお墓の目印は小さな丘の頂きで
それは平ら草っぱ突き上がり。
異国の星座は西にゆく
彼の盛り土飛び越え幾夜にも。

若き鼓打ちホッジは知らなんだ—
ふるさとウェセックスから直行してきたもんで—
ででっ広いカルーってのが何か、
アフリカのサバナってのが何か、埃っぽい土壌が何かってのを、
そんで夜空の眺めにかかるのが
薄暗がりに知らねえ星ってのはなぜなのさ。

けどよホッジは着々と
余所の土地の端くれに。
北国出身つましい育ちの彼のこと、
彼の肉つき脳みそは南の木々のいい肥やし。
知らねえ星々見下ろす奇妙に
彼のさだめが尽きるまで。

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Drummer Hodge

They throw in Drummer Hodge, to rest
Uncoffined — just as found:
His landmark is a kopje-crest
That breaks the veldt around:
And foreign constellations west
Each night above his mound.

Young Hodge the drummer never knew —
Fresh from his Wessex home —
The meaning of the broad Karoo,
The Bush, the dusty loam,
And why uprose to nightly view
Strange stars amid the gloam.

Yet portion of that unknown plain
Will Hodge for ever be;
His homely Northern breast and brain
Grow up some Southern tree,
And strange-eyed constellations reign
His stars eternally.

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Karoo カルー・・・現在の南アフリカ共和国にある広大な台地。カルー低木と呼ばれる低木が生育。

The Second Boer War 第二次ボーア戦争 (1899〜1902)・・・この詩の背景となった戦争。金鉱資源の争奪を目的にして大英帝国がボーア人による共和国(オランダ人入植者が現在の南アフリカに立てた独立国家)と争った戦争。  

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見知らぬ遠い外国の土地で戦死するとはどういうことなのだろう。誰しもに見慣れた故郷の風景があって、憧れを馳せて眺めた夜の星座があって、やがて死んだらここに納まるのだろうと無意識に考えた先祖たちの眠るお墓があって…..。それがもしも戦争によって断ち切られてしまったら…..。
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この詩では埋葬とは名ばかりの処置によってアフリカの端っこに置き去りにされたホッジの遺骸の描写と、彼が育ったであろう故郷や彼の人となりの断片的な情報との対比を通して、よその土地に兵士を送り込み、若い青年の命を間引いていく戦争の残酷さを際立たせて表現している。

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『イギリス兵はボーア戦争において緒戦のスピオン・コップの戦いで負傷者が多かった』H.M. パジェット

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