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三谷幸喜のショウ・マスト・ゴー・オンを観に行く

2022 12/30(金)

コロナ禍になってからというもの、演劇公演は大変であるとつくづく思う。
俺のいる芸人の世界だったら、コロナ陽性になった場合は、急遽、代演ということで別の芸人に出番が回ってくるが、それは同じネタをやらなくてもよいからである。
一方、演劇の場合だと代演するには、作品のセリフをすべて覚えなければならない。
そうなると当日の変更は不可能に近く、前日も、いや、三日前でさえも危うい。陽性者が出てしまったら、その回を中止にするのが通常の選択だろう。
だが、そんな通常の選択をしなかった演劇がある。
2022年11月7日から12月27日まで、福岡、京都、東京でロングラン公演をした、三谷幸喜さんの「ショウ・マスト・ゴー・オン」である。
ショウ・マスト・ゴー・オン、とはステージの世界ではよく聞くフレーズで、「ショーが始まったら、何があっても幕が下りるまでは続けなければいけない」という意味である。
今回のこの芝居、ストーリーは、ある演劇公演の舞台裏のドタバタを描いたものなのだが、実際の公演でも、役者の怪我や体調不良で何度も中止になりかけながら、作者である三谷幸喜さんが、計、四種類の役を代演したのだ。
まさに、ショウ・マスト・ゴー・オンを地で行く異例の公演となった。
そんな、演劇史の記憶に残っていくであろう貴重な舞台を、俺は先月の11月30日、東京の世田谷パブリックシアターにて、当日券で鑑賞して来た。
この3年間、あらゆる舞台イベントが、直前で中止になりチケット払い戻しのニュースを見ていたので、俺は前売り券を買わず、当日券狙いで行ったら、幸運にもチケットが手に入ったのだ。
俺はこの芝居をどうしても観たかった。
というのも、今から30年近く前に、テレビの舞台中継で三谷幸喜の劇団・東京サンシャインボーイズの「ショウ・マスト・ゴー・オン~幕を下ろすな」を観た時のショックが忘れられないからだ。
その面白さに衝撃を受けて演劇がやりたくなった俺は、退屈な高校の授業中に、ノートに、いつ発表するとも分からない脚本を書き始めた。
のちに21歳の時に俺が劇団を結成したのは、この作品に出会ったのが大きなきっかけとなっている。
そんな思い入れのある演劇を、まさか30年たってからライブで観れるチャンスが来るとは夢にも思わなかった。
客席に座った俺は、まだ始まっていない演劇の舞台セットを観ただけで、ワクワクが止まらない。
この11月30日の時点で、三谷幸喜さんは違う役を二度、代演しているが、俺が観る今日は、オリジナルバージョンだ。主演は、鈴木京香。
30年前の主演は、西村雅彦だったから、西村雅彦の役を鈴木京香が演じるという、それだけでかなり楽しみだ。
ちなみに、西村雅彦は30年前から禿げていたから、今、同じ役をやっても違和感はないと思う。
そして、幕が開いて、ショウ・マスト・ゴー・オンは始まった。
鈴木京香は、美しく演技がうまく魅力的だ。
その他の役者さんも全員素晴らしい。
特に、初演から出ていた小林隆さんは、この演劇世界の中で水のように存在していた。
物語の終盤、最後のトラブルをみんなで乗り越えるシーンでは、舞台照明の色が変わり、役者のエネルギーが一体となって客席に振動が伝わって来た。
俺は、その振動を感じ、そして笑いながら、いつの間にか涙が出てきた。
それは30年前にテレビで観た興奮が、今、目の前にあるというのもそうなのだが、ライブで観る演劇の面白さに、心の底から感動したのだ。
帰り道、同じ舞台を観た沢山のお客さんと会場を出る時、みな、口々に「面白かった~」と笑顔で駅に向かって行った。
ロングラン公演は、あと1か月ほどあった。
予定では、俺には3回、リピートできるチャンスがある。
必ず、あと1回は観に行こう。そうスケジュール帳に書いていたが、その後、俺の空いている日は、すべて公演中止になった。
そして、なんと千秋楽の辺りには、鈴木京香がコロナ陽性になり、三谷幸喜が代演をした。
その公演は、ネット配信でも購入出来た為、俺はライブでは叶わなかったが、二度目、いや、最初に観たのを合わせたら、三度目のショウ・マスト・ゴー・オンを鑑賞した。
主役が、西村雅彦→鈴木京香→三谷幸喜。
レアすぎるバージョンだったが、作者自身が出ることによって、この作品の本質的な面白さも見えて楽しかった。
ライブも配信も含めて、今年、最高のステージが観れた。
来年は「笑の大学」も再演するようだ。
あの作品は19歳の時にライブで観たから、新バージョンが楽しみである。
もし、また、中止になったら、あの作品だったら、三谷幸喜は作家の役を代演するのだろうか。
そうならないように、エンターテインメント業界にとって、2023年は素晴らしい年でありますように。
 

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