【文献レビュー】特定高齢者に対する運動及び栄養指導の包括的支援による介護予防効果の検証

今回は、2011年6月に公表された論文のレビューをさせていただきます(私の研究範囲を主に抜き出しているため、必要部分を書いているとは限りません)。この論文は、日本公衆衛生学会誌第58巻第6号の420-432頁に掲載されています。
<URL>https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/58/6/58_420/_pdf

文献の詳細
・フォルダ名:5.1-1000
・ファイル名:5_fukasaku_0004


緒言

2000年施行 「介護保険制度」
・「明るく活力のある超高齢社会」の実現を目指す。
・高齢者の自立支援を目的として運用されている。
→いくつかの問題や課題が存在する。
 ・要介護認定利用者の増加やサービスの増加は著しい。
 ・軽度要介護者の介護度が重症化し、身体・精神機能の改善に結びついていない。

2006年改正 「介護保険制度」
・高齢者の心身機能・活動能力・社会参加などの生活レベル低下予防による活動性の維持・要介護状態の防止などを目的とする。
・「予防重視型社会システム」の構築に向けた転換を図る。[1]
・特定高齢者(生活機能低下のリスクが高い高齢者)施策として、介護予防事業(地域支援事業)として創設。この施策においては「運動器の機能向上」「栄養改善」「口腔機能の向上」等のサービスを実施している。
→「栄養改善」は、日常生活の「食べること」を通じて、低栄養の予防により生活機能を維持することを意図している[2]。また、高齢者の低栄養状態は、免疫力低下による感染症の誘発[3]、ADLやQOLの低下を引き起こし[4]、死亡リスクも増大する[5]。

従来の栄養問題の取り組み
・中年期集団と同様に生活習慣病や疾病の重症化予防が主な目的とされてきた。
・過剰な栄養状態への対応、食事を制限する指導になりがち。

・70歳以上の高齢期集団では、血清コレステロール値の高さと総死亡リスクが負の相関にあり、低脂血症がんや感染症などの死亡リスクになる[6.7]。
・地域高齢者の食品摂取の多様性が高いほど高次生活機能の低下予防に貢献する[8]。
 →多様な食品摂取の必要性が求められる[9]。
・栄養改善を実施した介護予防事業では、介入効果が得られている[10]。
・「運動器の機能向上」においても、身体機能の維持・向上に有効な結果を示した。
 ・高齢者が要介護状態になること
 ・要介護状態が重度化すること
→を防ぐ効果があるとされている[11]。

高齢者が健康を維持するうえで関心を抱く項目に運動と栄養を挙げている[12]。
→高齢者の免疫力を高める。
→生活機能の低下予防。
 →運動を継続しておこなうための体力の維持とともに低栄養状態を予防し食事の質と量を良好にすることが重要である。

しかし、実際には、介護予防事業サービスの提供システムは、その多くはサービス別に実施され、高齢者の体力と栄養を総合的に検証したプログラムは見受けられない[13.14]。

目的

特定高齢者を対象にした介護予防教室において、運動に加え、食品摂取の多様性を意識づける栄養指導を導入した「栄養介入群(運動+栄養群)」と「対象群(運動のみ群)」の比較検討を行い、運動と栄養指導による包括的なプログラムの提供が生活機能や体力などの介護予防効果に繋がるかを明らかにすること。

研究方法

対象者

2006年6月~2009年3月に茨城県で開催された介護予防教室に参加した特定高齢者を対象とした介入研究である。本研究の対象者は、要介護認定非該当者であり、厚生労働省が示す特定高齢者の選定に用いる「基本チェックリスト」のうち、該当したもので、主治医の同意を得られたものとした。

介護予防教室の概要

介入群の両者ともに運動プログラムは国が作成した「運動器の機能向上マニュアル[11]」をもとに実践した。

1.栄養介入群(運動+栄養群)の教室内容

運動に加えて、栄養指導を取り入れた「運動及び栄養指導による包括的なプログラム」のもと、週1回、1回あたり90分、全12回(約3か月間)を1期として1年間に2回開催された。

1回の教室は、血圧測定、服薬の確認、関節痛の有無等の体調確認、運動指導、栄養指導で構成されている。運動指導内容は、下肢の筋力運動を中心につま先上げ、かかと上げ、足踏み、椅子からの立ち上がり、移動歩行、レクリエーションを取り入れた内容で構成されている。栄養指導の内容は、東京都が推奨する「低栄養を予防し廊下を遅らせるための食生活指針[15]」を参考に、栄養士により実施した。

2.対象群(運動のみ群)の教室内容

介護予防事業サービスの一つである運動を主体とした「運動機能向上プログラム」のもと、週1回、1回あたり90分、全12回(約3か月間)を1期として1年間に3回開催した。運動指導は、作業療法士や保健師により、全体指導やグループ別指導を組み合わせて行った。栄養指導は、全12回の教室中1回45分のみ、栄養士が実施した。

調査方法

調査方法は、質問紙による面接聞き取り調査、身体・体力測定、採血を実施した。教室開示および終了時に同様の調査、測定をおこなった。

1.質問紙調査項目
・属性(年齢、性別、家族構成等)
・食品摂取状況(食品摂取の多様性評価票[8])
・日常生活動作(ADL:Activities of Daily Living[18])
・生活機能(老研式活動能力指標[16])
→主導的自立度(IADL:Instrumental Activities of Daily Living)
・認知機能(MMSE:Mini Mental State Examination[17])
・喫煙の有無
・飲酒習慣の有無
・運動習慣の有無

2.体力測定項目
・筋力を見る→握力、ステップテスト、5回椅子立ち上がり
・バランス能力をみる→開眼片足立ち、タンデムバランス、ファンクショナルリサーチテスト
・柔軟性をみる→長座体前屈
・歩行能力をみる→5m通常歩行
・複合的動作能力をみる→タイムアップアンドゴー(TUG)

3.血液性化学検査項目
・採血
・身体の栄養状態指標→血清アルブミン(血清ALB)、血清総コレステロール、HDLコレステロール(HDL-C)、LDLコレステロール(LDL-C)、血清カルシウム(血清Ca)

5.統計学的解析方法
・結果は平均値±標準偏差、人数(%)で表した。
・ヒストグラムによる目視により正規分布している連続変数の平均値の比較にはt検定
・正規分布していない連続変数や順序尺度の場合はMann-WhitneyのU検定
・カテゴリー変数の比較には階2乗検定
・SPSSを使用
・0.05以下を有意差ありとした。

研究結果

1.教室開始時の栄養介入群と対象群の対象者の特性

・最終解析対象者は161名(栄養介入群81名、対象群80名)であり、両群共に年齢や男女比に有意差は見られなかった。食品摂取の多様性得点、生活機能得点、血清ALB値で両群間に有意差が見られたが、その他の項目では、両群間に有意な差は見られなかった。

2.栄養介入群と対象群における食品摂取の多様性得点と生活機能の変化

・栄養介入群は対象群に比べ、教室終了時の食品摂取の多様性得点が有意に改善した。
・多様性と句点の変化量は、栄養介入群は対象群に比し、有意に高かった。

3.栄養介入群と対象群の食品摂取頻度の変化(表1.2)

・栄養介入群は、緑黄色野菜を除く、ほとんどすべての食品の摂取頻度が有意に増加したのに対し、対象群では魚介類・肉類・牛乳飲みに有意な増加が見られた。

表1 栄養介入群の食品群別の食品摂取頻度の変化(n=81)
対象群の食品群別の食品摂取頻度の変化(n=80)

4.栄養介入群と対象群の身体の栄養状態指標の変化

・栄養介入群は、血清Ca値が教室開始時に比し、教室終了時に有意に増加した。それに対し、対象群は有意に低下した。
・LDL-C値は栄養介入群が教室終了時有意に低下し、HDL-C値は対象群が有意に増加した。
・年齢・性別・BMI・教室開始時に群監査のあった栄養状態指標項目で調整し、教室前後の変化量を共分散分析により比較した結果、体重などの身体データは両群間に差は見られなかったが、HDL-C値は対象群が栄養介入群に比べ高く、血清Ca値は栄養介入群が対象群に比べて高い結果であった。

5.栄養介入群と対象群の体力の変化

・教室開始時、ステップテスト、5m通常歩行、TUGにおいて、対象群は栄養介入群より有意に高い体力を示していた。
・教室終了時、栄養介入群は、5回椅子立ち上がり、バランス能力を示すタンデムバランス、FR、長座体前屈、TUGに有意な体力の向上が見られた。一方、対象群は、5回椅子立ち上がり、長座体前屈に有意な向上が見られた。


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