【文献レビュー】介護予防と介護保険

 今回は、2003年に公表された論文のレビューをさせていただきます(私の研究範囲を主に抜き出しているため、必要部分は書いているとは限りません)。この論文は、理学療法科学研究第18巻4号の175-181頁に掲載されています。
<URL>_pdf (jst.go.jp)

文献の詳細
・フォルダ名:5.1-1000
・ファイル名:5_obuchi_0003


はじめに

介護保険制度の意義

・介護を必要とする人々が安心して自分らしい生活を送るための安全策。
・社会福祉施策の理念を大きく変化させた意義も大きい。

この3年間の推移をみると、2000年には218万人でスタートした要介護認定者が2002年では332万人と全体で52%の増加がみられた。認定者の増加は、介護保険制度が国民に定着したことを示すものであり、のびは当初の予想を大きく超えるものであり、結果的に全国の8割の自治体で介護保険料を引き上げざるを得ない状況となっている。中でも、要支援、要介護1の比較的軽度の介護を必要とする者の増加は著しく、2000年と2002年を比較すると1.7倍もの急激な増加を示している。
→今後の安定した介護保険制度の運営のためには、介護を必要としないための積極的な施策が課題となった。

図1 介護保険の推移

介護保険制度は、身体機能や精神機能が低ければ低いほど高い給付金が支払われる制度であり、古典的な心理学の結論を外挿するとすれば、身体・精神機能を維持、向上することについては、抑制する作用はあっても促進する作用は期待できない。

高齢者が安心して健康長寿を全うするために、さらなる介護にならないための取り組みが急務とされる。本調査では、従来の保健福祉施策の推移を概観し、介護にならないための施策、さらにそれに対する理学療法士の役割について考えてみる。


保健福祉施策の推移

家族形態の変化や高齢人口の増加に伴い、前後すぐに制定された施設入所を中心とする社会福祉施策では、そぐわない状況となった。

→1989年「高齢者保健福祉推進十ヵ年戦略(ゴールドプラン)」が制定
・地域社会における障害高齢者に目が向けられるようになった。

→1991年「福祉関連8法」の改正が行われた。
・福祉と保健の統合
・在宅福祉を積極的に進めること

→1994年「新・高齢者保健福祉推進十ヵ年戦略(新ゴールドプラン)が制定
・地域での障害をもった高齢者がいかに生活するかに支店が置かれる。
・地域での保健福祉施策の充実が図られた。

→1997年「介護保険法」が制定
・在宅での介護を必要とする高齢者の増加を踏まえ、介護の問題を家庭の問題から社会の問題として捉えるとともに、介護を必要とする高齢者が自らの選択により保健福祉サービスを受けることができるようになる。

→1999年「ゴールドプラン21」が制定
・介護を受けることがないための、元気高齢者づくりが新たに課題となり、介護予防、生きがい活動の支援、社会参加・就業の支援等が盛り込まれるに至っている。

これまでの障がい者や要介護者に対する支援から、支援を必要としないための予防的取り組みが課題となる。

予防には、健康な時からの心がけ(一次予防)、危険性が高くなってからの対処(二次予防)、すでに支援が必要な状態となってから重度化しないためのリハビリテーション(三次予防)があるが、中でも、二次予防、一次予防の体制は十分ではなく、三次予防の現場にいる理学療法士はその役割を拡大し、二次予防さらには一次予防においても貢献する必要があるだろう。

介護予防・地域支え合い事業

このような生活に支援を必要としない予防的な取り組みの必要から、介護保険制度と同時に、介護予防・生活支援事業(現:介護予防・地域支え合い事業)が制度化された。

この介護予防・生活支援事業は、平成11年に厚生労働省の全国老人福祉担当課長および介護保険担当課長会議資料にその趣旨が説明されている。予防の目的には3つあるとされている。
①    介護保険制度に盛り込まれなかった福祉サービスの継続
②    要介護状態において自立と判定されたものに対する支援
③    要介護状態にならないようにするための予防と介護度を重症化させない

実施主体は自治体にあり、介護予防・生活支援事業は地域に密着したサービスとするために国は包括メニューを示し宇、その中から自治体の実情に合わせて選択する方法をとる。財政面は、国1/2、都道府県1/4、市町村1/4負担とし、平成12年300億、平成13.14年度500億円が計上されている。
→国、都道府県、市町村あわせて約1000億円が、この事業のために用意されている。

介護予防・生活支援事業は、複数の活動を含めている。
・高齢者などの生活支援事業
・介護予防・生きがい活動支援事業
・老人クラブ活動
→高齢者の健康づくりのための総合的な事業である。(表1)

表1 介護予防・生活支援事業

しかし、介護保険制度という大きな社会福祉施策の改革の渦中にあった自治体においては、介護保険制度の円滑な運用に主観が置かれ、要介護状態を予防し高齢者の健康づくりを進めるといった積極的な施策というよりは、目的①に掲げた、介護保険に含まれなかったj中来の福祉サービス継続に使われてきたのが現状。(図2.3)

図2 介護予防生活支援事業
図3 介護予防生きがい支援事業

介護予防とは

介護予防とは
高齢者保健福祉計画の趣旨の中で、高齢者ができる限り要介護状態に陥ることなく、健康で生き生きした生活が送れるように支援することと定義されたもの。この定義は、きわめて概念的なものであり、ここからはどのような対象に対して、どのような支援をするのか、その方向性すらつかむことはできない。介護予防が本来の目的である介護状態に陥らないことを目指す。実効性の伴う事業とするためには、対象の明確化、介入方法の明確化、介入方法が妥当であるかどうか判断するための系統的な評価が必要といえよう。こうした視点の欠如した自治体事業は、要介護に陥らないように予防するための事業であるとはいないだろう。

以下の表が事業内容である。また、「高齢者筋力向上トレーニング事業」および「足指・爪のケアに関する事業」は、平成15年度から追加された。

表2 介護予防事業メニュー

高齢者筋力向上トレーニング事業

高齢者筋力向上トレーニング事業は、介護予防事業メニューの一つであるが、平成15年より介護予防の新規メニューに加えられたものであり、これにかかわる専門スタッフとして理学療法士が明確に位置づけられている。

この事業は、高齢者向けのトレーニング機器を使用して、筋力をつけ、柔軟性を養い、バランス能力を高めるための包括的トレーニングをおこない、運動機能の向上を図ることになり要介護状態になることを目的に、専門スタッフにより、対象者のアセスメント、個別運動プログラムの作成をおこない、高齢者向けのトレーニング機器を用いた包括的なトレーニングを実施するものである。

おわりに:介護予防に対する理学療法士の役割

介護予防は運動介入を必要とするものが多く、理学療法士の運動療法に関する専門性が発揮される分野である。最も運動と遠いと思われる知的機能に関わる痴呆予防であっても、痴呆の前駆症状の改善・維持のためには、有酸素運動を中心とした介入が効果的であることから、この分野においても理学療法士の役割は大きい。また、対象者にとってみれば、要海保状態をよく知る専門家が、介護にならないための活動を支援することは実感を伴って理解しやすい。理学療法士のこの分野におけるアドバンテージは非常に高いと言わざるを得ない。

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