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『東欧グルーヴ』本の著者が推薦する、ソ連東欧の音楽書籍

こんにちは、『東欧グルーヴ・ディスクガイド』の著者です。手にとってくださった方、ありがとうございます!

本を読んで東欧やソ連の音楽に興味を持った方、あるいは自分の興味に合った本がどれなのか確認したい方にために、
今回はオススメの書籍を紹介したいと思います!

私が選んだ、その本を代表する1曲も紹介しているので、ぜひ参考にしてください!!

拙著を未読の方はこちらの紹介記事もどうぞ。


山中明『ソ連ファンク』

ディスクユニオンの有名バイヤーであり、新宿ロックレコードストアの店長も務める山中明氏による名著。ソ連の国営レーベル、メロディヤ社がリリースしたファンキーなレコードを網羅しています。

章は
・ジャズ
・ロック/ポップス/ソウル
・サイケ/プログレ
・ディスコ/テクノ

の4つにわかれており、どこをとっても知らないジャケットばかり。

さらには、規制をかいくぐって密かに制作された「肋骨レコード」の世界など特殊なレコードも詳細に紹介されていて、興味をそそられること間違いなしな一冊です。

レコードの製造工場や、品番の解説、そしてレア度など、レコードバイヤーの目線で書かれた圧倒的な情報量にも驚かされます。
私にとってもバイブル的存在の一冊です。

☞この1曲
モルドヴァのグループによるファンクネス溢れる楽曲です。とにかく必聴!

蒲生昌明『ソ連歌謡』

冷戦時代、リアルタイムでモスクワ放送からソ連のポップスを聴き、ソ連や東欧諸国を旅したという蒲生昌明氏による本。
長年ソ連の音楽を愛好し、現地に何度も赴いた著者の圧倒的知識量で解説された必読の書籍です。

戦中・戦後からはじまるソ連歌謡史や、ソ連版グループサウンズであるVIAの紹介など、特異な音楽文化について知るには最高の入門書にもなっています。

ソ連は様々な人種で構成される多民族国家ですが、歌手の出身地やバックボーンが詳細に解説されているため、予備知識なしで聴くより理解を深めることができます。
YouTubeで聴きやすくなるオススメ検索ワードも載っていて、ロシア語が読めない方にも優しい仕様。ソ連の音楽について深く知りたいという方や、歴史が好きな方にもオススメの一冊です。

☞この1曲
著書の蒲生さん推薦のVIA、サマツヴェートゥイのヒット曲『私の住所はソヴィエト連邦』。この曲の背景には鉄道建設に関する政策があったという…。著者の豊富な知識で解説されるエピソードにも注目。

岡島豊樹『東欧ジャズ・レコード旅のしおり』『ソ連メロディヤ・ジャズ盤の宇宙』

ジャズ喫茶イントロに勤務し、 「ジャズ批評」誌の編集も手掛けた岡島豊樹氏によるジャズに特化した2冊です。ジャズの専門家による書籍なだけあり、ソ連東欧のクセのあるジャズレコードを体系化し、分かりやすく紹介しています。

前衛的で実験的なジャズ、伝統音楽に根差したジャズについても深く考察し、西側のジャズと比較しながら解説していて非常に勉強になります。レコード紹介にとどまらず、各国のジャズ史を細かく記していて読み応えがあります。

東欧はヤン・ハマー(チェコ)、アッティラ・ゾラ―(ハンガリー)ら有名ミュージシャンを輩出したジャズ大国。ソ連東欧音楽で一番おいしい部分がジャズであると言ってもよいかもしれません。それをたっぷり紹介したこの2冊、読んでみたくありませんか?

☞この1曲
アゼルバイジャンの伝統音楽とジャズを融合させたピアニスト、ヴァギフ・ムスタファ・ザデに率いられ、4人のヴォーカリストを擁したグループ、セヴィルによる一曲です。

四方宏明『共産テクノ』

2016年に発売された『共産テクノ ソ連編』のヒットは、ここで紹介しているソ連東欧の音楽ガイドが多く刊行されるきっかけにもなりました。
インパクトのある表紙と共に世に出されたこの本の衝撃は忘れられません。

世界初の電子楽器テルミンを開発したソ連は電子音楽大国であり、テクノは国家をあげたプロジェクトでもありました。そんなソ連で作られたテクノの数々を、レコードと共に歴史を辿りながら解説した本です。
「スポーツ・テクノ」など、ソ連の特異な政治体制が生んだ個性的なジャンルや、東欧で開発された独自のシンセサイザーなど、そそられるエピソードが満載。テクノに詳しくない方でも、読み物として楽しめます。

☞この1曲
ソ連特有のジャンル、スポーツ・テクノの創始者ラジオノフ&チミハロフによる踊れるテクノ!なんとこの本には彼らのインタビューも掲載されています。中毒性バツグンのクセになるサウンドですね。

オラシオ監修『中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド 』

ここからは現在の東欧音楽シーンを知れる書籍を2冊続けて紹介します。

現在V4と呼ばれるポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーの、90年代~2010年代の音楽をまとめたディスクガイド。かつて東欧と呼ばれたこの地域も、現在は中欧に分類されることが多いですね。現行の東欧(中欧)音楽シーンを一望できる書籍は他にありません。新進気鋭のアーティストや東欧革命以前から活躍するベテランの現在も知れる一冊です。

社会主義時代、当局の規制を乗り越えて実験的な音楽を作り出した東欧。その土壌を引き継ぎ、現在も面白い音楽が次々登場していることがわかります。

監修はポーランドのジャズに精通するオラシオ氏。他にも東欧に詳しいライター陣が参加し、それぞれ個性的な選盤をしています。さらに、音楽以外の文化についても掲載したコラムもあり、現地に行きたくなること間違いなし。

☞この1曲
90年代以降のチェコで最も大きな影響力を持つ歌手、ヴァイオリン奏者イヴァ・ビトヴァー。ジャズや伝統音楽をクロスオーヴァーさせた彼女の音楽に豪華なオーケストラが加わった、芸術性の高い曲です。3分半以降の盛り上がりに注目!

平井ナタリア恵美『ヒップホップ東欧』

この本も扱う範囲はV4のポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリー。そのヒップホップシーンを紹介した、唯一無二の内容です。

著書の平井ナタリア恵美さんはポーランドの音楽を紹介するサイトMuzyka Polskaを運営し、さらに現行の東欧ポップスをプレイするDJ Paulaとしても活躍されています。

日本でほとんど紹介されていない東欧のヒップホップをまとめた特濃な内容です。嬉しいのは英語ではなくその国の言葉を使ったラップが聴けること。ポーランド語やハンガリー語による独特なフローは必聴です。さらに伝統音楽やメタルを組み合わせた個性的なトラックにも注目で、ヒップホップは現在の東欧で一番面白いシーンかもしれませんね。

麻薬やアルコール、犯罪事情についても知ることができます。

☞この1曲
ポーランドのラッパーで、ジャジーなトラックが特徴なO.S.T.R。ウッチ出身で、フリースタイルの達人とのことです。オシャレですね。著書のナタリアさんもお気に入りだそう。

井上大将軍 編『不思議音楽館』

ORANGE POWERの代表として、日本でいち早くソ連東欧のロックに注目して、さらに現地からレコードを仕入れていた井上大将軍が発行するインディロック・マガジン。毎回即完となる人気の冊子です。

紹介されているのはソ連東欧だけでなく、世界中のロックを紹介しています。マニアたちによる圧倒的な熱量と情報量で書かれたディスクレビューやロック史の紹介に圧倒されること間違いなし。さらに井上大将軍が実際に現地でレコードを仕入れるエピソードや、世界のレコードを通販していた際の裏話など、インディロック・マガジンだからこそ読める濃密な内容です。プログレやハード・ロックが好きなら絶対に読んでください!

その他の関連書籍

ティモシー・ライバック『自由・平等・ロック』
発刊は古く、かつてはソ連東欧のロックについて紹介した数少ない一冊でした。内容は良いのですが、翻訳がかなり微妙。人名を無理やり英語読み&カタカナ表記していて、読むのが辛いです。

済東鉄腸『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』
私と同い年の東欧マニア、済東鉄腸氏による超話題のエッセイ!引きこもりの著者が映画をきっかけにルーマニア語に惹かれ、Facebookを駆使してルーマニア・メタバースを形成。家を出ないまま現地の人々と交流を深めて小説家デビューするまでを綴ったノンフィクションです。

巻末ではルーマニアの映画や音楽を紹介しているため、とても良い資料にもなっています。

毛塚了一郎『音盤紀行』
レコードにまつわるショートストーリーを綴った、毛塚了一郎の漫画です。音楽ファンの間では大きな話題になりましたね。第2話「密盤屋の夜」は、東欧で密かに規制されたレコードを聴こうとする女の子の話になっています。当時の雰囲気を追体験できる、オススメのコミックです。

伊東信宏『東欧演歌の地政学: ポップフォークが〈国民〉を創る』
東欧のクラシックについて研究する伊東信宏氏による研究成果を中心に、東欧を専門とする気鋭の学者たちによる研究成果を、オムニバス形式で収録した一冊。内容は雑多ですが、研究者たちによる、専門的に掘り下げた東欧音楽に関する記述を読むことができます。ユーゴスラヴィアの演歌についてが中心ですが、東ドイツについても触れられています。


いかがでしたか?ソ連東欧の音楽書籍、こんなに出版されているんです。
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最後までお読みくださり、ありがとうございました。


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