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書籍紹介『東欧グルーヴ・ディスクガイド』(音源付き)

 この度、DU BOOKSから初の自著『東欧グルーヴ・ディスクガイド 革命前夜の音を求めて』を刊行することとなりました。多くの反響をいただいた一方、「東欧グルーヴ」って何?という方や、新しい情報あるの?という既に知り尽くしているマニアの方もいるかと思います。
 今回、本を買おうか迷っている方のために、内容を紹介すべく記事を書いてみました。

商品ページはこちら。

ちなみに、ディスクユニオンの店舗かオンラインで購入すると、
特典のMIX CDと別冊ディスクガイドがもらえます。


「東欧グルーヴ」とは何か

 東欧グルーヴとは何か、スラスラ説明できる人はいないと思います。なぜなら私が作った造語ですからね…。確かに"東欧"で作られた”グルーヴ”です、と言えばそれまでなのですが、"東欧”がどの国を指すのかというのは解釈がわかれるところです。
 今回、書籍で紹介するのはズバリ6つの国です。

〈掲載対象〉
ドイツ民主共和国/ポーランド人民共和国/チェコスロヴァキア社会主義共和国/ハンガリー人民共和国/ルーマニア社会主義共和国/ブルガリア人民共和国

商品情報より

勘のいい方はお気づきと思いますが、この国名から分かるとおり、これらは冷戦時代に存在し、東欧革命で体制転換が起きた国です。つまりは社会主義時代の東欧で作られたグルーヴィな音楽が「東欧グルーヴ」なわけですね。本書では60年代~東欧革命の89年までに作られたグルーヴを紹介しています。

 社会主義だった東欧にそんな音楽あるの?ロックは禁止だったって聞いたけど?そんな人にこそ読んでいただきたいのがこの本。ジャズやロックはもちろん、テクノやヒップホップ、子ども向け音楽まで掲載されています。その数、
650枚超

掲載レコードは650枚超!(写真は著者のコレクション)

 確かに東欧ではロックが禁止されていた時代もありました。ロックという西側の言葉を避けるため、"Big-beat"という代替語がつかわれた時期もあります。しかし、禁止されるほどやりたくなるのが世の常。次第に規制を上手くすり抜け、ロックを演奏するすべを東欧のミュージシャンは見つけていきます。本書では、ジャズやロックの規制の歴史と、そこから脱却していったポピュラー音楽史を詳細にまとめています。

「東欧グルーヴ」の特徴

ロックやジャズが東欧にあるのは分かった。でもそれってどんな特徴があるの?という方、まずはこれを聴いてみてください。

これはチェコスロヴァキアの歌手、エヴァ・ピラロヴァ―の曲です。期待感高まるドラム・ブレイクに続いて押し寄せる、ブラスの熱狂…。そして演奏が上手い!

「東欧グルーヴ」の特徴① …熱すぎるビッグ・バンドの演奏
このような歌謡曲、ロック、映画音楽、などとにかくあらゆる曲を豪華なビッグ・バンドが演奏しています。その背景には、放送局お抱えのビッグ・バンドの存在がありました。このようなビッグ・バンドは歌謡曲、映画音楽などあらゆる演奏を担当し、東欧のポピュラー音楽全体にジャズのグルーヴを伝播させていったのです。

「東欧グルーヴ」の特徴② …主張するコーラス
歌謡曲の録音に参加したのはビッグ・バンドだけではありません。放送局やレーベルお抱えのコーラス・グループも参加しました。しかし、メインヴォーカルよりも主張する重厚なコーラスサウンドがあらゆる楽曲に入った理由はそれだけではありません。ブルガリアン・ヴォイスが代表するように、東欧の伝統音楽では合唱やコーラスが重要な役割を果たしていました。それがポピュラー音楽にも浸透し、存在感のあるコーラスを聴かせるようになったのです。

ブルガリアン・ヴォイスのコーラス隊

「東欧グルーヴ」の特徴③…凄まじい演奏技術
東欧には各国に国営レーベルが1つ(たまに2つ)存在するだけです。全てのレコードはこの国営レーベルから計画的にリリースされます。1社しかないためリリース数も当然限られてくるわけで、東欧でレコードを出せるのはほんの一握りのプロ中のプロだけでした。そのため、その演奏技術はかなりの高水準。超一流のセッションミュージシャンで構成された放送局お抱えビッグ・バンドはもちろん、歌手やロックバンドも例外なく上手いです。そんな彼らの生み出すグルーヴも、保証付きと言えるでしょう。

「東欧グルーヴ」の特徴④…ロックともジャズともつかない、独特の音
ロックにもジャズにも分類できない、ジャズ・ロックなサウンドが多いのは東欧ならでは。ロックへの規制が強化されたことで、ジャズミュージシャンがロックを演奏して需要に応えていたチェコスロヴァキアでは特に顕著ですね。西側から短波ラジオを通して一緒に流入していったジャズとロックは、時に融合しながら独自の発展を遂げていきました。

「東欧グルーヴ」の特徴⑤…色濃く反映した社会情勢
社会主義圏の音楽として、避けて通れないのがやはり政治的影響。それは規制や検閲だけでなく、プロパガンダ・ソングとしても現れています。例えば、東欧から宇宙飛行士を宇宙へと送り出す政策「インターコスモス」を記念したレコードが各国に存在しています。このように、政治的思惑と連動した楽曲は、東欧独自のものと言えるでしょう。

東ドイツの宇宙レコード

以上、東欧グルーヴの魅力が少し伝わったでしょうか?
ちょっと興味が湧いてきたという方に、本で取り上げるオススメの曲を紹介しましょう!

楽曲紹介(音源付き)

それでは、実際に書籍で紹介する東欧グルーヴの楽曲から、特にオススメのものをジャンルごとに紹介していきます。YouTubeのリンク付きなので、ぜひ聴いてみてください。

ジャンル1…ジャズ
ジャズのアーティストからは、ポーランドのNovi Singersを紹介。世界的に評価されるヴォーカル・グループで、声を楽器のように操って美しいハーモニーとジャズを融合させた、東欧のアイコン的存在です。ちょっと変わり種に思えますが、東欧ではこのようにコーラス×ジャズの組み合わせはメジャーなのです。

ジャンル2…ロック
続いてロックでオススメするのは、チェコスロヴァキアが生んだロックの最高傑作と呼ばれているFlamengoのアルバム『時計の中の鶏』からの一曲。ダークでプログレッシヴな音世界は必聴です。当時の東欧ではあまりに先進的な内容だったため、バンドはアルバムリリース後に解散を余儀なくされてしまったという曰く付きのアルバムです。

ジャンル3…歌謡曲
続いては歌謡曲。東欧のお茶の間を最も賑わせたのが歌謡スターです。チェコのカレル・ゴットのように、国境を越えて東欧全域で人気を博した歌手もいました。各国で歌謡祭が開催され、多くの動員がありました。歌謡曲の演奏は、先述の放送局お抱えビッグ・バンドが担当しているので、グルーヴィなものが多いです。今回オススメするのはブルガリアの歌謡スター、フリスト・キジコフの楽曲です。ブルガリアらしいメロディとファンキーな演奏がクセになりますね!

ジャンル4…ディスコ
東欧にも70年代後半、ディスコのブームが訪れました。中でも成功したのはハンガリーのニュートン・ファミリー。ここ日本でも、彼らの楽曲「ドン・キホーテ」が大ヒットしました。あのジンギス・カンのメンバーにもハンガリー人がいますね。ハンガリーは知られざるディスコ大国なんです。

ジャンル5…テクノ
東欧では電子音楽も盛んです。書籍では、自作シンセサイザーを製品化したハンガリーのミュージシャンなど、電子音楽のアーティストを多数掲載しています。ここではルーマニアの電子音楽の巨匠、アドリアン・エネスクの楽曲を紹介します。

いかがでしたか?
書籍では、これらに加えてサイケにプログレ、ヒップホップやハウス、子ども向け音楽、サントラ、プロパガンダ・ソング…
とあわゆるジャンルのレコードを紹介しています。きっと気に入る1枚が見つかるはず。

まだまだ読むのを迷っている方、
ツイッターでも東欧グルーヴ情報を発信していますので、
よければ、まずはそちらをご覧ください。
X(Twitter)

最後までお読みくださりありがとうございました!




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