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夜明けのすべて

鑑賞:2024年2月@TOHOシネマズ新宿

媚びないことに媚びる。

理解されにくい持病を抱えた主人公が、また理解されにくい持病を持つ者との触れ合いを描いています。

薄氷を踏むように、「何かが間引かれて」います。それは男女関係や職場の人間関係、そもそも病気による悲喜交々をステレオタイプ的に盛り込みそうになるものが「そっ閉じ」されているのです。

現代的な柔らかい感情を丁寧に描かれています。そこを称賛したい気持ちが湧き上がる一方で、あまりにもキレイに切り取られた気持ち悪さも同時に抱えてしまいます。

これは「PERFECT DAYS」を見た時にも感じた、怖さです。警戒せよ、(何かの)プロパガンダではないのか?というアラートが鳴るのです。

この全員が優等生な世界は、現実と地続きなようで、絶対に違う作り物だということに戦慄します。これほどまでに個人の内面に簡単に踏み込まずナイーブなものを訴えてくれるからこそ、知らずに作っているとは思えないのです。

ヒット作の定石のひとつ、「病」をテーマにしながら、ステレオタイプには距離を取って現代的に作り替える作品で、とても心地が良いです。乱暴な現実を「そっ閉じ」してくれています。しかし、それは都合が良すぎると思うのです。骨が抜かれた焼き魚の惣菜のような都合の良さ。ありがとうと嬉しく便利に美味しく食べられるけれど、骨がなくても良いのだろうか?焼き魚とは?と、思うところまで計算されているのでしょうか。

実験的でチャレンジング。収益より賞を狙った作品です。「これからの時代は、こういうのが良いってことで良いですか?」と一石を投じているように感じました。

美味しい骨抜きの焼き魚でした。

▲同じく三宅唱監督作品。こちらは寡黙で無骨な感じが好きです。

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