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カウンセリング中毒症

カウンセリングの現場で、度々、カウンセリングを担当する際に、不思議な感覚がありました。これまでにカウンセリングを受けたことがない人とは、会話が成り立つのですが、カウンセリングを数年受けてきた人とは、ほとんど会話が成り立たないのです。

それらの傾向は、特に「傾聴」「共感」「定期性」をうたっているカウンセリングを受けてきた相談者さんに顕著でした。詳しい事情を聞いていくと、その大半が同じような過程をたどっていました。

①まず人間関係で難しい時期や孤立感を抱えた時期にカウンセリングにかかり、優しく受容的に自分の話を聞いてくれるカウンセラーに、大きな安心感を覚えます。

②定期的にカウンセリングに通い、日々の生活の中で、ストレスに感じたことを、カウンセリングの中で話して解消するようになります。

③カウンセラーへの比重が大きくなり、日常生活で出会う他の人間関係では、「どうせわかってもらえない」と関わりを避けるようになります。

④月日の経過とともに、一方的に話す癖がつき、カウンセラーに対しては、より受容的に話を聞いてくれることを求めます。

⑤ある日、カウンセラーが言った何気ない言葉がやけに引っかかり、それをきっかけに、カウンセラーに対するこれまでの不満が込み上げ、決別することになります。


話すことで、鬱憤を解消することを「カタルシス」と呼びます。こうした「発散」は、「話す」ことの普遍的な効果ではありますが、カウンセリングの歴史の中では、当初から危険視されている現象でもあります。

というのも、話すことでの発散効果は確かにあるのですが、カウンセラーに依存的になりすぎる点や、解消が一時的でキリがないこと、回を追うごとに、話すことでの発散効果は薄れる代わりに、話して発散しようとする衝動は増加してしまうこと等、副作用がとても大きいことが問題点として挙げられてきました。

「カウンセリング中毒」というと言い過ぎに聞こえるかもしれませんが、何かに取り憑かれたように、一方的に話し続け、自分の気持ちを吐き出そうとする様子は、本人のコントロールを超えた特殊な状態です。

気持ちを吐き出すことに躍起になり、会話を楽しむゆとりも、人とキャッチボールをする力も失い、日常生活が簡素化していくとなれば、それは、他の中毒症状と何ら変わるところはありません。

重たい気持ちから解放される為に行っていたはずの「吐き出す」という行為に、今度は、相談者自身が囚えられ、縛られていくというのが、「カウンセリング中毒症」の一番の怖さです。


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