自分のオンボーディングを自分でつくった話〜居場所を感じるオンボーディング〜
はじめまして。こんにちは。noteでプロダクトマネージャー(以下PdM)をしているじつぞん(@jitsuzon)です。
3週間ほど前にnoteに入社しました。オンボーディングの真っ最中なのですが、自分でオンボーディング資料をつくりました。謎な文ですね。
というのも、note社は組織として急拡大しており、PdMにはまだ十分に整ったオンボーディングドキュメントはありませんでした。リーダーやチームメンバーとの丁寧なやりとりで不安は少ないものの、次に来るメンバーや自分のオンボーディング促進のために自ら資料を整えることにしました。
この記事では、そのときに気をつけたことや考え方についてオープン社内報として公開します。これからオンボーディングしてもらう人、する人双方の参考となれば嬉しいかぎりです。
オンボーディングとは?
すでになじみのある言葉ですがあらためて。オンボーディングは新しく入った人が組織に定着し力を発揮してもらうことを促進するための取り組みです。くわしくは以下です。
また、良質なオンボーディングは離職率や生産性に影響を与えます。
良いオンボーディングとは?
オンボーディングのPRDを書く
「会社がいまどういう組織であるべきか」「社員個人がどういう状態であるべきか」というのと同様に「この組織に入社するAさんがどうなると良いか」はかなり多様性があるでしょう。アプローチにも多様性が必要なことは想像に難くありません。実際に各社では色とりどりの事例が見られます。
そんな逃れられない多様性のなかで立ち戻るべきは、現在の課題と目指す姿です。これはプロダクトマネジメントや、他の仕事でも共通するかと思います。PdMがPRD(Product Requierments Document)を書くように、オンボーディングの要求をドキュメント化することからはじめました。
このようにざっくりでも見えて整理できるようにしました。(画像では省略していますがもうちょい定義は長いです)
調査をする
僕が世界で初めてオンボーディングするわけではないので、偉大な先人たちに情報をもらいに行きます。
他社事例の検索(前述のSELECKさんのまとめ助かりました!)
弊社人事へのヒアリング(これまでの取り組みと目的、全社員共通のオンボーディングや研修についてなど)
各社員へのヒアリング(1on1をしながら「いまPdMのオンボーディングつくってるんですけど…」と個人の体験や社内の良ドキュメントなど教えてもらう)
他社事例ではマイクロソフトさんの自社記事が「ぼくがかんがえたさいきょうのオンボーディングサイト」って感じで衝撃でした。体験の一貫性、コンテンツの個別化が極まっていると思います。
一番気をつけていたのは「入りたての人間がものを知らずベストプラクティスを押し付ける」というアンチパターンでした。やはり文脈やそれ自体(今だとオンボーディング)に対する理解、変化させるべき程度などがわからないと良いインパクトは出せません。完璧なストレートパンチでも当たらないと意味がないのです。それを踏まえて情報を収集し整理していくときに、今回のコンセプトと呼ぶべき指針を発見しました。
わかった通底する状態
アプローチはさまざまでも、普遍的に求めるべき状態はひとつに収斂すると思われました。それは「noteの一員として居場所を感じている」状態です。入念な就職の過程を経て、不安と期待のなか入社し、自分の能力を発揮する。そのためにオンボーディングでなすべきことは「居場所感を持ってもらうこと」です。ここでなら自分はやっていける、活躍できる、不安なことがあっても解決していける、という感覚を持てることが何より重要です。打刻のやり方を覚えるより、データベースの構造を把握するより大事なことです。むしろそれらは「居場所感を持ち」能力を発揮してもらうための手段という構造です。これはPdMに限らずほかの職種でも共通します。
「居場所感」とは?
居場所に関する研究
「居場所」は日常的に使われているものの、かなりフワッとしている言葉です。この正体を知るために「居場所」の深堀りをします。
心理学の文脈でいくつか研究が進んでいるものがあったので、引用数が多そうな論文を複数ピックアップして読みました。
特に「居場所」の構造を説明するものとして『子ども・若者にとっての居場所の意味再考(萩原建次郎 2009)』が大変参考になりました(読み物としてもめっちゃ面白いです)。そこに出てくるのが以下の図です。
くわしい説明は割愛しますが、「居場所感を持つ」ために大事な要素が上記の図です。これらを「会社という居場所」に当てはめてみると、時間性は、会社やチームの目的とそれに向かっている感覚と理解できます。場所性はオフィスの座席や空間に居る感覚、関係性は他メンバーとのコミュニケーションで成り立つ自分の感覚です。リモートワークが基本の弊社では、場所性はオフィス出社が基本だった頃より希薄になっているでしょう。それはリモートワークを選択した上で避けられないことです。同時に偶発的なコミュニケーションがやりづらくなり、関係性も環境上薄くなってしまうのが自然でしょう。時間性もコミュニケーションの弱化に引っ張られてしまうかもしれません。
積極的にアプローチすべき部分
場所性は前述のようにリモートワークがメインの弊社にはコントロールが難しいところです。時間性(目指すべき方向と進行への感覚)に関しては、弊社がMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を定義し、それらがかなり浸透していると入社前の選考時から認識しており、入社後も印象は変わりませんでした。となると、コントロールが比較的やりやすく重要な部分は関係性だと考えられます。オンボーディングだけで解決すべき場所ではないですが、より優先的・積極的にアプローチしたほうがよいのは関係性だとあたりがつきました。
ステートメントをつくる
調査を経て注力ポイントはわかったのでここから形にしていきます。note社ではよく使っている方法があります。施策に取り組むときに「ステートメントシート」というものに施策やプロダクトについて簡潔にまとめるのです。前述したPRDに書き加えてもいいのですが、僕がこのシートを使いたかったのでわがままで使いました。
今回はターゲットが自分自身なので「自分が良いと思うか」である程度判断できるのがやりやすいところです。
前述した「居場所を感じるための個別化」と「ついでにメンテナンスしてもらって自律的に知識をつけてもらう」ことをコアにしています。
本記事では触れませんが、合わせて知識範囲の構造化や、入社前の選考からオンボーディングまでのジャーニーマップを整理しています。点の施策ではなく線・面で捉えるように注意しています。
プロトタイプをつくる
これをもとにまずは素早く良さが実感できるようなプロトタイプをつくります。実は調査段階でビジネスチームが使っているオンボーディングドキュメントがかなり良いことがわかっており、それをちょっとカスタマイズしてプロトタイプにします。ビジネスチームではすでに個人向けにオンボーディングドキュメントが都度作成され、その人自身がアップデートする仕組みになっていました。さっき書いた「ついでにメンテナンスしてもらって自律的に知識をつけてもらう」というのはそれめっちゃいい!と僕が思ったので躊躇いなくパクりました。PdMチーム用にいくらか修正したら、一度チームや人事にレビューをしてもらいます。要点は事前にコメントやステートメントシートの共有などしておきます。
コア価値の「居場所を感じるための個別化」と「ついでにメンテナンスしてもらって自律的に知識をつけてもらう」は最初の1ページ目によく出ていますのでレビューした様子ごと画像で紹介します。
まずは、前段で「お手紙」を書くこと。受け入れるチームのリーダーやメンバーが、自分の言葉でしっかりと入ってくれた人に対して想いを伝えます。別に上手いこと言わなくてもいいし、先輩ぶらなくてもいいです。今のチームメンバーをいつも大事にしているように、誠実に気持ちを表すことが大切です。
次に「あなたのような新しく入る人のためにあなたの手でアップデートしてほしい」と伝えること。与えられたオンボーディングプランをこなすのではなく、次の人のために自律的に知るべきこと、知らなくていいこと、もっと知りたいことなどを弁別する意識を持つことができます。いわゆる内発的動機づけというやつです。到達度テストなんかはおすすめしません。またこの仕組みではオンボーディングをやるほど自動でアップデートされていくので、無駄なメンテナンスコストが発生しません。
レビューからのブラッシュアップ
先ほどの画像のように同チームや人事から直接的なレビューをもらって質を確認します。またプロトタイプがあるとチーム外の人とも1on1したときなどに「こんなんつくってるんですけどちょっと見てやってくれませんか」みたいなプチレビューコミュニケーションができます。僕は入社初期にこれがあることで、1on1がより有意義な時間になりました。いろんな角度から情報をもらえたり自分がやっていることをアピールできたりするのです。
1on1の重視
調査時点での「関係性の重要さ」とオンボーディング中に自身が実感した「居場所感」への寄与から、1on1を重視すべきだと思いオンボーディングドキュメントに反映させました。より多くの人と1on1できるように関係者のリストアップや輪の広げ方などが書いてあります。テレフォンショッキングのようなイメージです。特にPdMは関係する範囲が広いので、重要性が他職種より上がります。また、会社や業務、人への理解はやろうと思えばキリがありません。完全にやろうとしてもどこかで綻びが出てしまうものです。なのでその不確実性(リスク)は「関係性」という人とのつながりで柔軟に吸収してやるのがnote社では良さそうだと考えました。noteの強みとして「人の良さ」があるので、今はそこに甘えちゃえという寸法です。
ステートメントのところで自分自身がターゲットだと書きましたが、自分自身が最初のユーザーでもあるので、作って実践して変えて、をワンストップでやれるのが今回の取り組みのとても良いところです。それを繰り返していたらいつの間にか、PdMオンボーディングドキュメントが完成していました。
ほかのポイント
このオンボーディング資料は1つのGoogleドキュメントです。少々ボリュームはありますが、ここに立ち返れば1ヶ月は困らない拠点となっています。たくさんのリンクで構成されているドキュメントですが、このドキュメントがひとつの居場所となるように網羅性を上げています。(文字数見たら16,000字ありました)
一部を抜き出すと、以下が入っています。
会社MVV・戦略
チームのミッション・目標
noteの機能一覧・説明
noteのクリエイター調査結果・サクセス事例
1ヶ月内に最低限するTODO
1ヶ月後に達成する目標
1on1する人リスト・1on1のコツ
特に「1ヶ月後に達成する目標」は大事です。決めるのは上長に相談して決めても上長が決めてもよいです。これを先に決めておくことで自律的にオンボーディングしていくことができますし、1on1をするときの良いネタになります。
よくない点としては、個別化のコストが発生することです。一応できるだけ全社的に使い回せるようなフォーマットにしてはいますが、それを追求すると居場所感を減らしてしまうので気をつけています。決まった時期に10人以上ドサッと入る組織でなければ対応可能でしょう。
また、1on1(1on2)を推奨しているために、マネージャーや社内有名人などは1on1で業務が圧迫される可能性があります。このあたりはヤバくなるちょっと前に対処する必要があります。
効果測定はこのドキュメント単体の良し悪しではなく、「1ヶ月たってオンボーディング全体がうまくいったか」をアンケートで確認するようにしています。(僕が1号なのでまだ実施されていない)
さらにやっていく
オンボーディングのドキュメントはその人がnoteで力を発揮し充実した仕事をするためのツールのひとつですので、アプローチはそれだけでは足りません。また、変化に合わせて柔軟に対応する必要性が常にあります。
たとえば、メンターの仕組みの整備、1on1の支援強化(全員がいっぱいする必要はないけど)、社内コミュニケーションの支援(ボトムアップでプロジェクトが立ち上がっていてめちゃ良い感じ)、ワークショップによるチームビルディング支援、などなどやれることはいっぱいあります。
入ってきてくれるひとりひとりを大切にしながら、noteとしてできることを最大限にやっていけるよう、居場所をつくる努力をしていきます。個人的には早くオンボーディングのお手紙を書きたいです。一番楽しい仕事のはずです。
noteでは、お手紙を受け取ってくれるかた、いつか書きたいかたを募集しています。僕のTwitterへのDMからでもよいので気になっているかたはご連絡ください。
本日のバリュー:つねにリーダーシップを / Leadership
note株式会社のメンバーは、あらゆることに当事者意識を持って、率先して行動します。傍観でも、感想でも、批評でもなく、まず自分が行動することを重視します。どんなときも問題を解決する意志を持ってことに臨みます。
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