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木造農業ハウスに「呼吸する」「共鳴する」「活かしあう」という一面が見えました

1.はじめに:酒田市主催の「36 SAFARI」に参加してきました
 山形県の酒田市の企業とのマッチングイベント「36 SAFARI」が1月12日に渋谷QWSで開催され、私も参加してきました。

 酒田市を含む庄内地域は、私にとっても所縁のある土地です。私は出生地は山形県酒田市でもあり、両親ほか親せきが庄内地域で長年にわたり生活を営んでおります。
 その庄内地域は、山形県の西部に位置し、日本海に面しています。また、後背地には出羽三山があり、きれいな山々が庄内平野を取り囲んでいます。このような地域での主要産業は、稲作を中心とした農業と日本海での漁業です。これから新鮮な海の幸と豊富な農産物を生かした独自の食文化が形成されてきました。

2.「36 SAFARI」の概要と参加企業について
この酒田市も地域内にとどまらずに都内にも交流を広げていこうということで定期的にイベントを開催しております。今回は、6社の企業のプレゼンテーションがあり、その後、商談会、懇親会という流れでプログラムが進行しました。

●酒田酒造株式会社 
●新栄水産有限会社 
●酒田米菓株式会社 
●株式会社村上キカイ 
●株式会社グリーンエース 
●ヤマガタデザイン株式会社 

3.村上キカイさんの木造農業ハウスについて
 どの企業も地域資産を最大限に活用した魅力的な企業です。その中で一番気になったのが村上キカイさんのプレゼンした木造農業ハウスです。

 これまで農業用のビニールハウスといえば、骨組みは鉄製であることが一般的だと思いますが、同社は間伐材を利用した農業ハウスの普及に挑戦しています。

4.木造農業ハウスのメリットを考察しました
 木造農業ハウスについては鉄製の構造に比べて初期コストは高くなるものの、食の安全性や地域林業の再生、地域資源の活用という点をみれば長期的な利益をもたらすものです。木材の使用は、農業生産における持続可能性やエコ的な視点としても重要です。

 以下にメリットをまとめてみます。

①   食の安全性
 木造農業ハウスは、化学物質の使用を最小限に抑えることができます。鉄製の構造では、錆防止のための塗料や処理剤が必要になることがありますが、木造ではその必要性が低くなります。このように、農作物の栽培環境をより自然に近づけることで、食の安全性を高めることができます。

②   林業の再生
 木造農業ハウスの建設に地域の木材を使用することは、林業の持続可能な管理に貢献します。間伐材を利用することで、森林の健康状態を維持し、適切な森林管理を促進することができます。これにより、森林資源の再生と保護に貢献が果たせます。

③   地域内の間伐材の活用
 地域内の間伐材を利用することは、コストの削減にもつながります。間伐は森林の健康を維持するために必要な作業でもありますから、これらの材料を有効活用することで、廃棄物を減らし、地域の資源を再利用することにもなります。それは、地域経済の活性化にもつながりますし、森林資源の持続可能な利用の促進ともなります。

 このように、木造ビニールハウスは、初期投資は高いものの、食の安全性の向上、林業の持続可能な発展、地域資源の有効活用といった多面的な利点を提供します。これらの利点は、農業と環境の持続可能性を追求する上で重要な役割を果たします。

5.木造農業ハウスに対する感想をお伝えしました
 村上社長がプレゼンを終えて後、短時間ですがお話をする機会をいただきました。私は、この時に現代の住宅においては乾式工法が中心となり、それにより私たちの生活の精神面や健康面にも何かしらの影響を与えているのではないかと思われること、それは農作物にあっても同じでだと思われること、この木造農業ハウスの取り組みは大変意義があることだという感想をお伝えさせていただきました。あわせて後日、以下のような関連から感想をまとめてみました。

①   木材は「呼吸」する
 木材は湿気を吸収し、必要に応じてそれを放出することができる「呼吸」する素材です。この自然な湿度調節機能は、ビニールハウス内の空気が過度に乾燥したり、逆に湿度が高すぎたりすることを防ぐことになります。適切な湿度レベルは、植物の生育に必要な水分の吸収や蒸散に直接影響を与え、最終的には植物の健康と生産性を向上させます。

②   適切な環境が維持される
 また、木造農業ハウスは、熱の絶縁性も良いため、日中の温度上昇を和らげ、夜間の温度低下を遅らせることができます。これにより、ハウス内の温度がより一定に保たれ、植物の生育に適した環境が維持されます。

③   農業技術と環境の調和による持続可能な農業実践
 このように、木造農業ハウスは、湿式環境を活かした自然な調節機能により、植物の生育を促進する理想的な条件を提供します。自然素材の利用は、農業技術と環境保全の調和を図る一つの方法として、持続可能な農業実践に貢献することができるでしょう。

6.プレゼン中に五木寛之さんのコメントが思いだされました
 私の中に20年近く前に聞いた、作家の五木寛之さんの以下の話が強く印象に残っていたこともあり、木造農業ハウスに関心が高まったところです。以下、引用し、紹介させていただきます。

〈五木〉 
数年前の『中央公論』に、東大の鈴木博之さんという建築工学の先生が、戦後の日本の建築工学の発展は「湿式工法」から「乾式工法」への大転換にあったと書かれています。
 
昔は、家を建てている前を通りかかりますと、鉄板の上にセメントの粉をわっとあけ、そこへ砂利と砂を入れてバケツで水を入れてこね回しておりました。壁土を練るとか漆喰を作るとか、水を多量に使って家を建てていたんですね。
 
それが50年の間に、コンクリートは工場で造って持ってくるようになり、壁土を使わないでベニヤ板にビニールの壁紙を貼るようになり、さらにアルミサッシ、プラスチック、軽金属、ガラスなどを使って、一滴の水も使わずに一軒の家が建つようになった。それを「乾式工法」というのだそうです。
 
僕は、乾式へ大転換をしたのは建築だけでなく、教育にしても、医療にしても、あらゆる分野でそれが当てはまると思うのです。僕たちはいま、完全な乾式社会の中に住むようになった。一滴の水分も、さっき言った情なんていう水分の存在しないところで生まれ育つようになった。そうなると、心の中まで変わってくるのは当然だと思うんです。
 
水分を含んでいるものは重いけれども、乾いたものは軽い。だから、乾式の社会は軽い社会であって、その中で心が乾けば、命が軽くなるということにもつながってくる。困った時に簡単に自分の命を放り出す、あるいは他人の命を奪う。こういうことも、心が乾いているということからくるのでしょう。
 
ですから僕は、そういうすべてが乾燥しきって水分がないところへ、オアシスの水を注ぐ必要がある、日本人の渇ききった心に井戸を掘って、水分を含んだみずみずしい心を取り戻す必要があるのではないかと思うんです。
 
そのためには、やっぱり先ほど申し上げた、「情報」の「情」というものの意味を、もう一度しっかり考えること。笑うことだけではなく悲しむこと、泣くこと、そうした戦後放り出してきたいろんなものを再検討してみる必要があるのではないか、と思っているのです。

出所:致知出版社

.さいごに:農法を超えた関係性の再構築に役立つと期待します
 五木さんは、この技術的な転換が単に建築界に留まらず、教育、医療などの分野にも及び、さらには社会全体の「乾燥」につながっていると指摘しています。この乾燥とは、物理的な水分の欠如ではなく、人間関係や精神状態における「情」という要素の欠如を象徴しています。五木さんは、現代社会が持つこのような「乾燥」が、人々の心を硬くし、生命を軽んじる傾向につながっていると憂慮していました。
 社会や個人が「水分を含んだみずみずしい心」を取り戻す必要があるという五木さんの提言のヒントとしての食、そしてその農法における湿式に関心があります。食べ物を通じた、豊かな環境の形成、深い関係性への気づき、情の大切さを再認識すること、オアシスのような潤いをもたらす鍵だと考えられます。
 農業ハウスの一形態にとどまらず現在の社会課題の解決に貢献しうる取り組みだと思っております。村上キカイさんの展開を応援いたします。

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