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【人体改造カラダコラム Vol.22】

人体改造カブ式会社とは、札幌駅前通地区全体の健康=エリアヘルスマネジメントに取り組むプロジェクトです。今月のコラムは事務局の仙波から、最近観た映画についてお話します。

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「ノマドランド」という映画をご覧になられたでしょうか。

アメリカではリーマンショックを契機として第二次産業が大きな損害を負い、工場の雇用サイクルで成り立っている企業城下町が次々にゴーストタウン化したそうです。工場の廃業によって住む町も家も失くした60代の女性ファーンがこの作品の主人公です。彼女は夫との死別を機に長年住んだ家を手放し、改造した一台のバンに乗って車上生活をはじめます。

彼女のように日雇いや短期の仕事を求めて車で旅を続ける人々を、この作品では「ノマド(=放浪者、遊牧民を意味するフランス語)」と表現しています。彼らの大半は高齢者で、厳冬や酷暑、持病、車の破損など、たったひとつのアクシデントが命の安全を脅かしかねない過酷な日常を送っています。高年齢が響き、得られる職業も肉体労働がほとんどです。

こうした話題を取り上げるメディアは、いつも貧困者やマイノリティを「かわいそうな人」として取り扱いがちです。しかし、本作の一番優れた点はそうした既存のマジョリティの視点を巧みに回避しているところにあります。

主人公のファーンは過酷な車上生活を通じて同じノマドのコミュニティに出会います。そこに集った仲間たちと身の上話をして、互いに共感します。そうして育まれたコミュニティは、劇中でも離れていようと助け合える共助の輪に成長していきます。また、旅を通して雄大な大地に圧倒され、悲しい時は打ち付ける荒波に感情を投影する。彼女らは自然環境に身を置いて生きる実感を楽しんでいるのです。これは都市生活者が忘れてきた感覚だと思います。

彼女らに共通するのは、ノマドであることに誇りを持って生きている点です。ノマドという生き方を”選んでいる”自負がある。そのプライドが過酷な環境で彼らが生き続けるエネルギーになっているのだと思うのです。

この映画は、ファーンの一年近いノマド生活を題材として、そのリスクと尊厳の両面を等価で描くことによって、人の生き方に問いを投げかけているのだと感じました。家があるほうが幸福か、家族と暮らすほうが幸福か。それらのステロタイプな規範と時には葛藤し、今を能動的に生きる彼女の姿はとても力強く、美しく映ります。

最近、個人的に新しいチャレンジを始めました。というより、考えて能動的に行動しなければいけない状況に身を置きました。私もファーンのように太く強く今を生きたいと思います。

ファーン役を演じたフランシス・マクドーマンドは2017年の「スリービルボード」に引き続きアカデミー主演女優賞を受賞、監督のクロエ・ジャオは有色人種の女性として初めてアカデミー監督賞を受賞。作品としてもアカデミー作品賞を受賞されました。なお、ドキュメンタリー映画ではありません。

緊急事態宣言下で映画館にも足を運びづらいでしょうが、ぜひご覧になってください。

(事務局 仙波)

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