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いつの間に、すーちゃんと同世代になっていたわたし

歳を重ねるほどわかっちゃう30代女性の「リアル」に、いつだって寄り添ってくれる。

新卒で採用された出版社で雑誌編集者だったときのこと。映画好きにはこの上なくありがたいことに新着情報欄の担当を任されていて、編集部宛の新作試写会の招待状はまずわたしのデスクに届いた。誌面で紹介する映画はもちろん、合間を見つけては気になった作品の試写会に足を運び、それはそれは夢のような時間を過ごしていたのだった(もちろん仕事はそれだけではないので、激務ではあったが)。

2012年に公開された映画「すーちゃん まいちゃん さわ子さん」も、そんな新着情報欄担当の「特権」によって鑑賞した作品のひとつだ。当時23歳のわたしからしたら、すーちゃんはひとまわりくらい上のおねえさんだったけれど、なんだか未来の自分を観ているような気分になったのを覚えている。わたしも30過ぎになったら、きっとまだ独身で、でもちょっと重要な仕事を任されて、本音を話せる友だちがいて、すーちゃんみたいな人生を送っているのかな……と想像する自分と、どこかでそうならないことを祈っている自分と半々だった。

原作である漫画の『すーちゃん』を読んだのは、もっとあとのことで、それこそアラサーになってからである。初めて読んだときは、あれ、なんか23歳のわたしより、すーちゃんやまいちゃんの言葉が刺さるな……という感じで、若干複雑な気持ちになってしまったのが本音だ。でもたびたび読み返すうちに、イライラするときはイライラするし、落ち込むときは落ち込むし、でも日常にはささやかなしあわせがちょこちょこあって、もっと肩の力を抜いて自分の気持ちに素直に生きていいのだな、と思うようになった。

そして今、わたしは順調にすーちゃんの年齢に近づきつつあり、順調にすーちゃんみたいな人生を歩んでいる。親友と呼べる友だちも昨年結婚したことだし、失恋してまたふりだしに戻ってしまった自分は一体どうしたらいいのだろうと不安に思うこともある。そんなわたしに対して、すーちゃんはいつだって「わたしはわたしで大丈夫」と寄り添ってくれる気がして、定期的に本棚から引っ張りだしてはページをめくっている。まだ当分はお世話になります、たぶん!

すーちゃん
益田ミリ/著
幻冬舎、2006年/刊


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