アフターコロナ~日本企業におけるこれからのコミュニケーションのあり方~

 昨今、新型コロナウィルス感染対策の為、各社にて在宅勤務等のテレワークが急速に普及しつつある。各社とも情報セキュリティやコミュニケーションの観点から踏み出せずにいた状況から、社会的な情勢により否が応でも取り組まなければならなくなっている。

 急速にテレワーク化が進んだ事に伴い、様々な自粛ムードの中、慣れない状況下において多くの管理職がチームのマネジメントについて何らかの苦慮を感じているのではないだろうかと推察する。就業環境としてのITシステム及び情報セキュリティの整備に関する問題も非常に大きいが、現場レベルではコミュニケーションの難しさが顕著になっているのではないだろうか。

■避けられない潮流としてのテレワーク普及

テレワークにおけるコミュニケーションの「2つの落とし穴」と「10のコツ」

 会って直接コミュニケーションする事の重要性や有効性はもはや語るまでもない。しかし、それらが今後は前提とはならない状況が確実に訪れる。新型コロナウィルス対策、そしてオリンピック開催に伴う交通機関の問題等により、今までテレワークをやってこなかった人達がどんどんその利便性や有効性に気が付いて実施するようになる。生産性向上、業務効率化、労働人口減少に伴う人材調達の困難さ増大、BCP等の観点からテレワークを今後も推奨し続ける企業がどんどん出てくる。

 確かにテレワークはやってやれない事は無い、と感じる人が多いだろう。自分も初めて先日在宅勤務を2日間体験して、一部に課題は残るものの、技術的に十分に可能だ、という感覚を持った。もう少し手を加えれば完ぺきとは言わずともほぼ実務上問題ない状態に持っていける。

 今後、テレワーク普及は特に都心部及び大都市圏において避けられない潮流だ。技術的な進化と普及がホワイトカラーの仕事のテレワーク化を可能にしてしまったからだ。一度堰を切ったように流れだした動きを止める事は出来ないだろう。


■テレワーク全面導入時代に問われる企業の課題とは

 一方、コミュニケーションに関する課題はそう簡単に解消するものではない。人間の認識、意識、価値観などが絡むからだ。今まで「職場」という同じ空間に身を置いて仕事をする事で成り立っていた『あうんの呼吸』が出来なくなってしまった、と嘆く声も出てきそうだ。

 空気を読んで仕事をする能力は、日本のサラリーマンに要求される一般的なソフトスキルの一つだ。日本企業においてビジネスパーソンに求められる能力の第一位はコミュニケーション能力と言われている。だがその実態は、コミュニケーション能力ではなく、空気を『正確に』察して関わる能力だ。決して明確な意見表明の能力等ではない。敢えて言えば、傾聴力、文脈を早くかつ正確に掴む能力、文脈に沿って適切な行動を考案し選択する能力とでもいえようか。

 しかし、テレワークとなればそうはいかない。何せ、別々の空間にいて異なる仕事をしているのだから、空気は読めない(極めで読みにくい)事が前提になる。互いに心情を察しながら、タイミングを見計らって、声をかける等の技術は実質上不可能になる。だとすると、出来るだけ自分自身の状態をオープンに開示したり、他者が発信した情報を積極的にキャッチしていく等の能動性、テキストorオンライン面談中心で業務を進めて行く能力の重要性がより高まる。これらの変化に対応出来ない人は相対的に価値を失うだろう。日本人が従来から得意としてきたといわれる「ハイコンテクストなコミュニケーション」が出来なくなる訳だ。

※ブログ更新※超絶ハイコンテクストなコミュニケーションである「あうんの呼吸」は良い面ばかりではない。

 このブログの考察は秀逸だ。日本人、特に現代の会社の経営層が部下に求める「あうんの呼吸」はそこに存在する同調圧力(反対意見を言えない空気感)、認識のズレを「流して」しまうリスク等が潜んでいる、と見抜く。テレワークが今後ますます推奨され、普及していく時代には、対面によるコミュニケーションが減少するからこそ、より丁寧に相互の認識のすり合わせを行い、同じヴィジョン、同じ方向性、同じタイミング等で仕事をしているか、という事のこまめな確認&調整が重要になる。

■経営者の説明責任が一層問われる時代

 そもそも、経営者が部下に「あうんの呼吸」を求める姿勢は、日本特有の「甘え」の構造だ。経営者は全てのステークホルダーに対し、事業運営に関する説明責任を負っている。言わずとも察して動いて欲しい、という事は職責の放棄に他ならない。経営者が頻繁に漏らす言葉に「そんなことも言わなきゃわからないの?」というセリフがあるが、そうなのだ。もしもそう思うのであれば、組織における『文脈の形成』に失敗していると言って差し支えない。文脈とは、組織風土、組織文化という言葉でも代替できる、組織の認知、判断、態度、行動等を強く規定する規範の事だ。経営者は自らが目指す事業の方向性に向けて集団を動かす際、文脈を丁寧に構築する事が求められているのだ。

テレワークの推進に伴い、経営者の説明責任がより一層問われる時代になるだろう。

■あうんの呼吸とは?

 そもそも私たちは日頃から「あうんの呼吸」という言葉を安易に使いすぎている。恐らく「あうんの呼吸」とは本来、意識の領域構造が通常の状態から大きく変容し、互いに強固に結びついている「フロー状態(ゾーン)」を指す言葉と言える。U理論でいうレベル4に入っている状態だ。であるならば、「以心伝心」「何も言わずとも繋がっていて全てがわかる」「互いが一体感を感じていて、冷静なのに身体にやる気とパワーが満ちている」「高いパフォーマンスが生み出される」といった、あうんの呼吸で表現している一連のポジティブな効果を説明できる。

 これは即ち、「相互忖度」「空気を読む」「相手の思考に合わせて行動する」等とは全く異なるレベルの話だという事を認識する必要がある。「あうんの呼吸」が発動するには、相互の信頼、その場の状況、向かうべき課題、特定の心理状態等、複数の要素が複雑に絡み合っていなければなるまい。「空気を読む」というレベルの話ならば、意識の領域構造が浅い段階に留まっている為、お互いの考えや感覚が本当にはわかっていない。過去や状況からあれやこれやと推察しているに過ぎない。それは合っている事もあるが、外れている事もある。また、相互に考えている事は合っているかも知れないが、会社のビジョン達成からはズレている事もある。

 経営者と従業員が真のあうんの呼吸に至るには、経営者が説明責任をきっちり果たし、組織風土を意図的にデザインして形作り、それをメンテナンスし続けていく不断のプロセスが欠かせない。

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