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【国家破産】スリランカで有機農業政策が失敗した理由

今や世界的なトレンドになっている有機農業。
世界初の国全体を有機農業に転換する試みをして大失敗に終わった国があります。

それがスリランカです。
今回はスリランカの有機農業への転換失敗についてまとめてみます。

先まとめです。

まとめ
2022年7月に首相が破産を宣言したスリランカでは有機農業への転換失敗が破産の原因の1つに挙げられています。
そもそもスリランカでは緑の革命から長らく化学肥料を使った農業が奨励されており、有機農業転換の目的は、化学肥料の輸入や使用を禁止することで以前から続く貿易赤字財政赤字の拡大を防ぐことがメインでした。
そのような理由から強制的に有機農業転換に踏み切ったことでコメなどの収穫量は減少。国民生活は困窮に陥ります。
化学肥料の輸入禁止発令の7ヶ月後に輸入禁止を撤回するも状況は良くならずに2022年6月には消費者物価上昇率は前年比54%を記録する非常事態となっていました。
多くの有機農業大国は輸出のために政府の支援が入ることが多いですが、スリランカは政府の支援を辞めるために有機農業に切り替えたというのが一番大きな有機農業への転換が失敗した理由だと考えられます。


スリランカの歴史と農業の概要

スリランカ民主社会主義共和国
人口:2141万人(日本の約1/5)
面積:65,610km2(日本の約1/6)
農用地:454万ha(日本の約1/8)
気候:熱帯性で高温多湿
首都:スリジャヤワルダナプラコッテ
政治体制:共和制・間接民主制
宗教:仏教が約7割、ヒンドゥー教が約2割、その他1割
経済:2019年の一人当たりGDPは南アジアで2位(1位はモルディブ)、輸出品目は茶、天然ゴム、砂糖など。農業の他に繊維業も盛ん

Wikipediaより

まずはスリランカの歴史についてですが、
ヨーロッパの侵攻以降をまとめると、16世紀にポルトガルの植民地となった後、イギリスの植民地となり、その後独立ししばらく安定するも、1983年からは26年間にわたって内戦を続け2009年にやっと終了し今に至ります。

農業ではプランテーション作物として最初はコーヒーが導入され、輸出大国になりますが、サビ病を受けてからは茶葉の生産に切り替え、独立後も茶葉生産、セイロンティーのブランドを守ることにより、今も紅茶生産はスリランカの重要な産業の1つになっています。

有機農業へ転換し失敗、そして破産へ

最近のスリランカ情勢
2020年3月
   : 世界的なコロナショックに巻き込まれる
2020年12月:経済成長率が-3.6%に転落
2021年4月  
:化学肥料や除草剤の輸入を禁止
2021年11月 :上記の輸入禁止を撤回
2022年6月  :消費者物価上昇率は前年比54%を記録
2022年7月  :首相が国家の破産を宣言

スリランカの農業に関する試みとして、とても有名なのが「国内のすべての農業をオーガニックに変える」というものです。

元々、スリランカ政府は1960年代の緑の革命以降、化学肥料に対する補助金を与えることで農業を推進して来ました。
しかし、下記のような理由で、スリランカの農業は有機農業に舵を切るようになります。

  • 農薬や化学肥料の過剰使用による環境汚染健康被害の問題

  • 化学肥料の輸入に頼った生産体制

  • 有機農産物の需要の国内外での高まり

  • 新型コロナウイルス大流行による観光業の大打撃(外貨獲得が絶望的)

そもそもスリランカの農用地は日本の1/5であるものの、農業者数は国民の約1/4(=500万人近く)おり、日本の3倍以上です。
そんなスリランカで土地の制約がある農業という産業を行う場合は、どうしても高付加価値を目指す必要があります。

上記のような背景で2021年4月に化学肥料と除草剤の輸入禁止(=有機農業の推進)に踏み切ったスリランカですが、化学肥料に変わる有機肥料の供給が追いつかないことや、そもそも有機肥料の効能がスリランカのコメの生育に不十分であることにより主食であり輸出もしているコメ生産量が減少、闇市で高騰した化学肥料を売る商人も現れるなどスリランカの農業は混乱に陥ります。

そういった状況を受けてスリランカ政府は同年11月に化学肥料の輸入禁止令を撤回
その時点でコメなどの農産物の価格高騰がかなり伝えられていましたが、その後もインフレが収まることはなく、2022年6月の消費者物価上昇率は前年比54%を記録。
2022年7月にスリランカ首相は国家の「破産」を宣言することとなりました。

スリランカの破産の原因については有機農業への急速な転換も含め、さまざまな意見があります。

有機農業への転換失敗の原因

国家が破産した原因としては様々な意見が出ていますが、その1つとして挙げられる有機農業への転換が失敗してしまった理由を考えてみます。

スリランカが有機農業への転換に踏み切った理由
1. 農薬や化学肥料の過剰使用による環境汚染健康被害の問題
2. 化学肥料の輸入に頼った生産体制
3. 有機農産物の需要が国内外での高まり
4. 新型コロナウイルス大流行による観光業の大打撃(外貨獲得が絶望的)

スリランカが有機農業への転換を試みた理由は上記4つにまとめられますが、個人的に、この中で特に大統領一族の決断に大きな影響を与えたのは2「化学肥料の輸入に頼った生産体制」4「新型コロナウイルス大流行による観光業の大打撃」だと考えています。

元々、財政赤字貿易赤字の双方を抱えていたスリランカの外貨獲得手段の1つである紅茶産業をはじめとした農業は、輸入による化学肥料ありきで成り立って来ました。
また、化学肥料を使うことに対しては政府の補助金もつくなど、緑の革命の恩恵に縋るスリランカ政府は化学肥料使用に肯定的な態度をとっていたのです。

しかし、コロナショックにより観光業という外貨獲得のためのもう1つの柱を失ったスリランカ政府は、農業における化学肥料の使用を禁止することで貿易赤字を抑え、なおかつ農家への補助金も減らすことができると考え、化学肥料の使用禁止に踏み切ったのだと思われます。

そもそも有機肥料を国内で製造するには、堆肥となる糞尿を排出する動物を大量に飼育する必要がありますが、スリランカにはそのようなことができる広大な農地は存在せず、その辺りも有機農業転換後の無策さが表出しているように感じます。(有機に切り替えて家畜たくさんになるのが環境的にいいことなのかも疑問です)

つまり、有機農業へ転換をしようとした目的は政府のコストカットであり、それ以上の影響(収穫量減少による国民の生活苦など)を考慮することはほとんどなかったことが今回の悲劇を招いたのだと考えられます。

農業は政府のコストカットのために ”選ばれてしまった” のです。
そういった意味では有機農業への転換失敗は、遅かれ早かれ起きていたかもしれない財政破綻を国民生活にダイレクトに衝撃を与えることでいくらか早めただけという見方もできます。

緑の革命をはじめたとした農業技術の発展についてはこちら

有機農業の成功には政府の支援体制が必要

有機農業面積が大きい国トップ10とその要因
※世界の有機農地の2/3は牧草地

世界で有機農業を盛んに行っている国は先進国が多く、特に輸出のための体制をしっかりと構築していることが共通点だと言えます。

スリランカは有機農業をコストカットのための手段として使おうとしている時点でそれらの国とは全く異なります。

※スリランカに近いところでインドのシッキム州は州内の農業を全て有機農業に転換することに成功していますが、シッキム州はインドで最少人口であり農家は6万人、暑い時期でも気温は30度に満たないなどスリランカとは全く異なる条件です。

有機農業についてはこちらに詳しく書いています。

最後に

今回はスリランカの有機農業への転換失敗についてまとめました。

2022年7月に首相が破産を宣言したスリランカでは有機農業への転換失敗が破産の原因の1つに挙げられています。
そもそもスリランカでは緑の革命から長らく化学肥料を使った農業が奨励されており、有機農業転換の目的は、化学肥料の輸入や使用を禁止することで以前から続く貿易赤字財政赤字の拡大を防ぐことがメインでした。
そのような理由から強制的に有機農業転換に踏み切ったことでコメなどの収穫量は減少。国民生活は困窮に陥ります。
化学肥料の輸入禁止を発令した7ヶ月後に輸入禁止を撤回するも状況は良くならずに2022年6月には消費者物価上昇率は前年比54%を記録する非常事態となっていました。
多くの有機農業大国は輸出のために政府の支援が入ることが多いですが、スリランカは政府の支援を辞めるために有機農業に切り替えたというのが一番大きな有機農業への転換が失敗した理由だと考えられます。

最後までお読みいただきありがとうございました。


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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