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後発開発途上国におけるビジネスキャリア選択

学生時代、留学やボランティアなどで途上国へ行き活発に活動をしていた人たちのほとんどは、社会人になると日本で就職をして、その後、そういった国との関係性は希薄になってしまうように思えます。

今回は自分の経験も踏まえながら、後発開発途上国のビジネスにおけるキャリア選択とはどういったものがあるのか考えてみます。
(ビジネスということで国連、NGO、JICAなどについては今回は扱いません)


4つのカテゴリー

私がいるネパールがそうなのですが、後発開発途上国には株式会社が多くありません。
そのため、ネパールに住んでいる日本人も国連、NGO、JICA、世界銀行といった組織に属されている方の方が、ビジネスセクターの方よりも圧倒的に多い印象です。

ある篤農家さんの苗作りの様子

そんな国でビジネスということでキャリアを考えると、この4つにカテゴライズできるのではないかと思います。
(カテゴリー自体はどこでも同じものですが)

※国内=日本、現地=途上国ということで書いています

1. 起業(国内ベース)

現地の商材を日本で販売するという形態です。
この方法であれば法人を設立するのは日本ということになります。
ただ、現地で生産拠点を持つ場合は現地でも会社を建てる必要が出てきます。

2. 起業(現地ベース)

現地で法人を設立するケースです。
この場合、現地で作ったものか他国から仕入れたものを現地や他国で販売することが多くなります。

3. 就職(日系企業)

日系企業の海外進出先に駐在するケースです。
ネパールにはありませんがメーカーや商社であれば海外進出している企業も多いでしょう。

4. 就職(現地企業)

現地人がオーナーの法人で働くケースです。
現在の私はこのパターンになります。

それぞれの特徴

ここからはそれぞれのカテゴリーの特徴を私見を交えてまとめてみます。

1. 起業(国内ベース)

◾️ メリット
・手軽に始められる
・決定権がある

◾️ デメリット
・現地との関わりが限られる
・現地側の管理がとにかく大変
・基本的には飽和市場の中で生き残っていく必要がある

国内ベースで起業を行うメリットはなんといっても気軽にできるということでしょう。
自分のペースで行えば良いため副業として始めることも可能です。
その一方でビジネスとしてはなかなか軌道に乗せづらいのではと思う部分もあります。
その理由としては、まず日本のマーケットでやっていく場合、競合製品のクオリティがかなり高く、さらに低価格であることが考えられます。
食品であろうが工芸品であろうが、途上国でものづくりを行う場合は最初はクオリティが低く、さらに現地からの輸送費もあるため高価格になりがちです。
(人件費が安いことを考慮したとしても、大量生産ができない場所で作るケースがほとんどなので中国・アメリカなどが同じものが作っていた場合は価格で勝てることはまずありません)

上記を解決するためには現地で指導を行なったり管理を徹底する必要がありますが、マーケットが日本の場合は必然的に販売活動を日本で行う必要があり、なかなか現地の管理までしっかりと行うことはできません
現地で信頼できる人を見つけたり、日本から信頼できる人を派遣しない限りは販売を頑張ったとしても製造部分がボトルネックになってしまいます。
そして販売を頑張ると書きましたが、これは作ることよりも難しいことだと思うので、業界を相当研究して、時間をかけて、粘って。。やっていっても成り立つかは分からないという感じだと思います。
(過去にこのケースの事業に参画していましたが、やっぱりかなり難しい)

また、営業活動を日本で行うため、現地に長期間滞在するというのはできないと思います。

2. 起業(現地ベース)

◾️ メリット
・日本では飽和市場の商材もこちらならブルーオーシャンの可能性がある
・現地にじっくり滞在できる
・決定権がある

◾️ デメリット
・現地のマーケット情報・商習慣・法律・マネジメントなどのハードルは高い
・外国人ができない業種もあるかもしれない
・なかなか日本に帰れない

現地で起業する際は、外国人であるということが良くも悪くも強く影響すると思います。
良い面としては、日本人として当たり前に培ってきた感性や習慣が現地では差別化要因になることがあります。
物事をしっかり管理できたり、サービスの質が高かったりというあたりはその一例と言えます。
また、日本で見聞きしてきた情報や商品が現地にない場合は、それも事業のアイデアになり得ます。
さらに「日本人である」というだけでアジアの途上国では現地人からプラスな印象を持ってもらうことができます。

一方で、現地で事業を行うには現地のルールに則る必要があります。
ビザの取り方から観光客とは異なるため、現地の日本人から情報を得られる環境を作っておく必要があると思います。
また、外国人はそもそもできない業種もあるので、その辺りも気を付ける必要があります。
そして現地で事業を行う場合は基本的にパートナーとなるような現地人がいた方が良いと思いますが、このケースに限らず、こういった現地で何かをする場合は人にまつわる部分が一番大変だと思います。

また日本人ということで足元を見てくる人も必ずいます。
騙される、ぼったくられる、賄賂を要求されるリスクは常にありますが、最初は相場が分からず、騙されていることにさえ気づけないかもしれません。
ですので、会社の代表であってもあえてあまり目立たないようにするなどの工夫も場合によっては必要だと思います。
現地では最初、言葉も話せなければ、法律も商慣習もよく知らないとなると完全に不利です。
なのでその辺りのマイナス要素を何かでカバーしながらやっていく必要がありそうです。

日本での起業と比べると守りの強度がより重要なイメージです。

3. 就職(日系企業)

◾️ メリット
・安定した給与
・一定期間現地に滞在できる
・衣食住の保証
・現地企業よりも大きなプロジェクトに関われる

◾️ デメリット
・決定権が限定的
・チャレンジがしづらい
・将来、自らがやっていくイメージは湧きづらい

なんといっても一番の魅力はバックがしっかりしていることだと言えます。
正直、ネパールにこの手の会社はほとんどないため、あまりサンプルがありませんが、大手企業で海外駐在ということであれば現地企業よりも金額等が大きく動くプロジェクトに関わる機会も多いのではないでしょうか。

ただ、大きな企業であれば当たり前ですが裁量は小さくなるでしょう。
また、守られた環境にいるため、現地でサバイバルをしていくような感覚は身につきづらいかもしれません。

とはいえ、現地にしっかりと身を置けるため、将来、現地でもっと自主的に何かをやりたい場合のステップアップのための手段と捉えることもできます。

4. 就職(現地企業)

◾️ メリット
・業界により入り込める
・「外国人の制約」を受けにくい
・「特殊な人材」として評価をしてもらえる

◾️ デメリット
・経済的な安定は期待できない
・決定権が限定的
・騙される恐れがある

最後に現地企業への就職です。
このパターンは今回の4つの中で一番マイノリティかもしれません。

良い面としてはビジネスの主体が現地人であるため、外国人の会社と比べて情報が入りやすいことや、現地の法律や商慣習を容易にクリアできることです。
また、オーナーが外国人であれば参入できない業種でも従業員としてであれば参入することができたりもします。
そして外国人であることは企業にとっても差別化要因となるため、人材として重宝されやすいという点もあるかと思います。

しかし、こういった関係性は雇用主との信頼がなければ成り立ちません。
日本であれば社長に騙されたらしかるべき対処法があるかもしれませんが、ここは外国であり、立場は圧倒的に弱いのです。
また、日系企業ほど給与がいいということはまずないため、ライフスタイルを現地の平均的な水準に合わせる必要があります。

そして、自分の会社でない以上、決定権は限定的となります。
とはいえ、現地企業は日系企業より小規模であることが多いため、立場にもよりますが、基本的には日系企業よりも裁量が大きいということは十分考えられます。

現地就職を選んだ理由

私の話になってしまいますが、上記の中で現在の私は「4. 就職(現地企業)」を選んでいます。

試験圃場を作るために井戸を掘ってもらった

理由としては、端的に言うと「農業界への参入の難しさ」からなのですが、まず前提として私は現地の解像度を上げるために長期滞在をしたいと考えていました。

「ネパールの農業」というと、なんとなく遅れていることや農家さんが貧しそうなことは想像できます。
しかし、具体的にどう遅れているのか、どう貧しいのか、何が課題なのか。。そういったことは行かないと分からないと思いました。

ネパールに行く前は日本の複数の農業関連企業で働かせていただいたため、「日本の農業」という比較対象は持っているつもりです。
その定規を持って、ネパールと日本では何が違うのか・同じなのか、日本が過去に経験した課題であればどのように克服したのか、ネパールでは何がネックなのか。。などをできるだけ把握しようと思ってこちらに来ました。

しかし、ネパールでは農業というのは外国人が参入できない業種です。
メーカーや飲食店としてなら参入できるため、そこから間接的にネパールの農業を見るという考えもありますが、そこまで私は器用ではないと思ったので、そういう方法を取るのはやめました。
それ以前に、現在のネパールの最低投資額は2,000万ルピー(約2,300万円)であり、明確なビジネスプランもない私にとって、とてもそんな金額を引っ張ってくる勇気はありませんでした。
(2019年以前は500万ルピーであり、その頃に会社を作った日本人オーナーさんはいますが、それ以降に参入したケースは聞きません)

ただ、それでもビジネスで農業に関わるキャリアを選択したかったので、以前より知り合いだったオーナーの会社に入ることにしました。
身近に農業関係のビジネスをやっている人がいたのは本当に幸運なことでした。

そして新しい会社のため、これからやっていこうという気風があり、私のアイデアも通りやすく、やりたいことは基本的にさせてもらえています。

日本でもそうですが、農業界は閉鎖的で可視化された情報が少ないことも多いため、正確な情報を得るためには人間関係がとても重要ですが、その辺りも現地企業に入ることでやりやすくなっていると感じます。

現地就職のデメリットとして挙げた経済的な安定は確かにありません。
(日本の頃の1/10の給与)
しかし、もともと散財するタイプではないので私にとってはそんなに問題ではありません。

また決定権については上述のとおり会社規模が小さいため比較的色々と決めさせてもらえる環境にあります。

そして一番大事な「騙されるリスク」についてですが、これについては「わからない」というのが本音です。
前提として、私はオーナーを信頼していますし、99.9%そんなことはないと思っています。しかし物事に絶対はないと思います。

特に現地企業で就職というのは、今回の4つのカテゴリーの中でそういったリスクをに対して一番弱い立場です。

ただ、命さえあれば現地で高められた解像度は失われることはありませんし、自分の資本を会社に入れている訳でもないので経済的なリスクも小さいと思います。
ここは考えすぎて臆病になるのも勿体無いので、何かあってもどうにか再起できるんではないかと楽観的に考えています。

ただ、騙されること以上にあり得るのが「価値観の違い」です。
ネパールでは社会課題をビジネスで解決するという考え方を持ったネパール人はほぼいません。
社会課題=NGOの領域という認識が非常に強いです。

今の会社でやろうとしていることも社会的意義は確実にありますし、ネパールの農業を底上げする活動だと思っていますが、現在は会社のフェーズ的に「ソーシャルビジネス」はできていないため、今後、そういった方向に舵を切りたい時は今と別の展開を考えておく必要もあるかもしれません。

起業というのは手段でしかありません。
現地に入り込むのであれば、すでにベースのある現地企業に入るという選択をした方が効率的なこともあります。

私の場合は解像度重視で現地就職を選びましたが、ネパールの課題やビジネスについて理解ができたら、何らかの形で早めに次のステップへ移りたいと考えています。

客観的にどういう選択が自分にとって良いのか要素を出して比較することで、現在の自分に最適な選択だけでなく、ある要素を満たした場合には次のステップとしてこういった方向も考えられる。。というようにロジカルにキャリの判断ができるようになると思います。

今回は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。


Twitterでも農業やネパールについての情報を発信しているので良ければ見てみてください。

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