#1 「新しい歯車」

「よぉ、やっと逢えたね」

車の横に立って、笑顔で手を振りながら

近づいてくる男の人。

正直イメージしてたのと違うと思った。

もっと爽やかでハンサムな見た目だと思ってた。

でも、それでも良かった、

やっと解放されて、やっと自由になれるんだから。

「初めまして、宜しくお願いします」

丁寧に挨拶をしとく。

「畏まらなくてもいいよ。電話では話してたじゃない、全くの他人でも無いんだし、これからは一緒に住むんだし」

「うん」

彼のその言葉に少しホッとした。


荷物は電話で打ち合わせした通り、少しの着替えと手持ちは5千円。

これが今の全財産。

後は面倒見るから大丈夫と、歳上の彼の言葉を信じて、ほぼ裸一貫で新幹線に飛び乗った。

自分1人でどこまでやれるか、この街で試してみたいっていう気持ちもあった。

そして、まだ1度も感じた事の無い自分の居場所と言うものがここなら見つけられる、そう予感していた。

僕は助手席に、慣れない動作で乗り込んだ。

バタンとドアを閉める。

「行こうか」

彼はそう言うと車のエンジンを吹かした。

何か新しい歯車が動き出す音が、

流れてゆく都会の喧騒の中に聞こえたような気がした。


…続く











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