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特殊部隊と秘密           カッコいい軍隊に気をつけろ その4  愛国者学園物語141

 またジェフは、「カッコいい軍隊に気をつけろ」の中で、特殊部隊にも言及した。そして、それは衝撃的な内容を含むものだった。

 その最初の話題は「隠された部隊」だった。米軍は陸軍のグリーンベレーや海軍のネイビーシールズ、あるいは他の特殊部隊に関しては多くの情報を公開している。隊員の選抜課程やその働きぶり、使用している武器や組織について、現役の隊員にすらインタビューさせるサービスぶりだ。しかし、ある部隊だけはその存在を公表していない。それは、陸軍のデルタフォースである。情報公開に熱心な米軍はその存在を全く認めていないが、各種の証拠から、この部隊が存在し、対テロ作戦や奇襲攻撃を主な任務としていることは間違いない。それならば、なぜ米軍はその存在を公表しないのか? 

 特殊部隊は秘密作戦に従事するのが普通だから、情報公開には馴染まない存在かもしれない。しかし、私たち銃後の人間であり、軍隊を支える納税者である私たちには、自分たちの国の軍隊について知る権利がある。それは、特殊部隊も例外ではないとジェフは主張した。


 また彼は、陸上自衛隊の特殊部隊である特殊作戦群を取り上げた。

 マスコミにほどんと登場しない彼らであるが、彼らを自衛隊の軍事パレードに出すべきだ。正確に言えば、自衛隊のそれである自衛隊記念日観閲式(かんえつしき)などに、特殊作戦群を出すべきだ。特殊部隊は軍の最精鋭であることは、どこの国でも誰もが認める事実である。だからこそ、私は彼らをパレードの先頭で行進させて、その存在と勇姿を国民に見せるべきだと思うのだ。

 もちろん、彼らの身元を隠すために、テロリストの攻撃や敵の情報機関の工作から守るために、彼らを『公開しない』というならば、それは理解出来る。もしそうならば、目出し帽を被ればいいではないか。非常に興味深いことに、目出し帽を被った特殊作戦群の隊員たちの写真は、日本の軍事専門誌に何度も登場しているのである。

 それなら、なぜ、自衛隊最大のイベントである観閲式に彼らは出られないのか? 写真はOKだが、動画はだめなのか? どうか、私の口の悪さを許して欲しい。彼らが特殊部隊隊員に特有の特徴的な歩き方をしていて、動画だとそれがバレてしまうから、そういうイベントには出られないのか? そういう歩き方があると仮定しての話だ。もしそういう歩き方があるなら、それを変えればいいではないか。

 あるいは、目出し帽で顔を隠していても、現代のハイテクによって、素顔が再現可能だから、敵の目が集まる観閲式には出られないというならば、お面を被ればいい。現に、海外の特殊部隊には、お面と言うかフェイスマスクで顔を隠している部隊もある。台湾陸軍の特殊部隊がその一例だ。それにアニメ「攻殻機動隊」シリーズに登場する警察や軍の特殊部隊の隊員たちはガスマスクなどを顔に被っている。あるいは、同シリーズに登場する「海坊主」と呼ばれる部隊の人間も、お面のようなマスクで顔を覆っている。まさか、自衛隊にはマスクを買う資金がないわけではあるまい。

(中略)
 特殊作戦群の隊員たちは、もしかしたら、陸自の精鋭である第一空挺団の隊員たちに混ざって、行進に参加しているのかもしれない。私がここに書いたこと、なぜ彼らは観閲式に出ないのかは、彼らを馬鹿にするためではなく、私の素朴な疑問を書いただけだ。

 そして、付け加えたい。何でもかんでも秘密にすることは、彼ら自衛官のやる気を削いでしまうのではないか。写真撮影は問題ないのに、なぜ、彼らは観閲式に出られないのか? 過度の秘密主義は、私は止めるべきだと思う。


 ジェフが次に話題にしたのは、1996年の米映画「ザ・ロック」だった。この作品は出演者が豪華で、主役はニコラス・ケイジ、海兵隊准将役は「アビス」に出たエド・ハリス、特殊部隊ネイビー・シールズの隊長は、「ターミネーター」で有名なマイケル・ビーン。それに「007」で有名なショーン・コネリー。

 一言で言うと、待遇に不満を持った米海兵隊のグループが人質をとり、毒ガス弾頭を装備したミサイルで米政府を脅迫するという、言わば、身内の恥を題材にした映画だった。

 そのグループも、米海兵隊のエリートである威力偵察隊・フォースリーコンの隊員で構成されていて、指揮官は最高の勲章である議会名誉勲章を授けられた海兵隊准将という、ちょっと信じがたい話なのだ。ではなぜ、そんなエリート軍人たちが政府に反旗を翻したのか。それは、自分たちは数多くの特殊作戦に参加して戦い、部下たちを失った。それなのに、政府は彼らに十分に補償せず、勲章も与えず、作戦の存在も認めなかった。それゆえ、彼らは米政府に幻滅して、毒ガスと人質を武器にして、身代金を要求したのだ。こういう映画だから、生真面目な米軍人や米政府関係者からすれば、嫌な内容だったかもしれない。名誉勲章受章者の将軍や、精鋭のフォースリーコンの隊員がそんなことをするわけがない、と思っただろう。

 ジェフは続けた。私がこの作品で注目したいのは、米政府の扱いに失望した特殊部隊員という題材だ。

 特殊部隊はその性質上、その作戦を公にすることは難しい。だから、大戦果を上げても秘密扱いで、誰にも語れない。勲章をもらえても秘密扱いなんてこともある。そのような隊員にどのような待遇を与えればいいのか、その成果をどう評価したらいいのか、これは大きな問題だ。

 そのような課題を社会に問いかけたという点で、この映画は単なるアクション映画ではなく、意義深い作品である。

 そして、話題は特殊部隊の失敗に移った。

 例として、1979年のイーグルクロー作戦。米国の特殊部隊は、イランによって人質に取られた米国人たちを救出しようとしたが、航空機の事故で失敗。

 映画「ブラックホーク・ダウン」(2001年)は、93年に東アフリカ・ソマリアで起きた米軍特殊部隊と武装勢力の戦いで、米軍側が苦戦し死傷者が出た実話をもとにしている。このような失敗談を公開し、その映画まで制作出来ることは、軍の情報公開に意義があることの証であろう。

(中略)
 「アメリカン・スナイパー」はネイビー・シールズ所属の狙撃手として抜群の功績を上げた兵士が、その過酷な体験からPTSDに苦しむ様子を描写している。祖国のため、自由と民主主義を守るためとは言え、そこまで苦しまなければならないのか。あるいは特殊部隊の隊員なのだからやむを得ないというべきなのか。彼らに文字通り超人的な成果を期待しておきながら、疲労すれば、ばつ印をつけてしまうのが、私たちの社会なのだろうか。それではあまりにも、特殊部隊の関係者に対して失礼だと思う。


 そして衝撃的な話へつなげたのである。

続く

これは小説です。陸自の特殊作戦群だけでなく、海自の特殊部隊である特別警備隊も、ほとんど公の場には出てきません。

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