組織間におけるデータ連携・データシェアリングの現状とこれから
データは現代のビジネスにおいて貴重な資源であり、適切に活用することで企業の競争力を向上させます。しかし、データの活用方法がわからないと、内部で蓄積されたデータを有効に活用することができず、その潜在的な価値を見逃してしまいます。
自社内でデータのスムーズな活用を推進することはもちろん、組織・企業間でのデータ連携やデータシェアリングがこの課題に対して有効な解決策となります。しかし、組織・企業間でデータを連携して活用し、新たな洞察やビジネスチャンスを発見するにはどうしたらよいのでしょうか。
本稿では、「組織・企業間でのデータ連携」や「データシェアリング」といった言葉の意味を説明しつつ、その重要性を解説し、そのメリットと具体的な手法、そして今後の展望についてご説明します。
「企業・組織間でのデータ連携」「データシェアリング」とは?
「企業・組織間でのデータ連携」が具体的にどのようなものかイメージできますか?
「グループ会社とGoogleスプレッドシートを共同で編集する」、というのもひとつのデータ連携の形です。また「提携会社や業界内部でデータを共有できるような基盤システムを構築する」動きも見られるようになってきています。また最近では、データ取引市場(マーケットプレイス)をはじめとする外部サービスのプライベートグループ機能などを利用して、提携会社とデータを共有する例も増えています。
それでは、「データシェアリング」についてはいかがでしょうか?
「データシェアリング」という言葉をGoogleで検索してみると、①学術研究によって得られたデータをオープン化するという意味で使われている文書もあれば、②企業・組織間でのデータ連携という意味で使われている記事等もあり、ややこしいという印象を受けます。
英語版のwikipedia「Data Sharing」には上記で言う①についての説明が書かれていますが、②の意味に則った用例も沢山ヒットしますし、③個々の企業が持つ「データ共有ポリシー」(プライバシーポリシー)も検索の上位に多数挙がっています。
この記事では、主に②「企業・組織間でのデータ連携」についてご説明します。
データ連携のパターン
企業・組織間でのデータ連携には様々な方法があります。情報処理推進機構(IPA)が発表した「データの相互運用性向上のためのガイド」と「データ利活用ユースケース集」に基づいて、データ連携の3つのパターンを紹介します。
「相互運用性」は「2つかそれ以上のシステムまたはコンポーネントが情報交換でき、また交換した情報を使用できる能力」を指します(wikipedia「相互運用性」)。「結合度」はシステムエンジニアリングの専門用語ですが、一旦「結合度が低い」=「保守コストが低い」と説明をしておきます。
ポイント・トゥ・ポイント(P2P)モデル
組織間で1対1のデータ連携をするモデルです。互いの持つシステム基盤やデータの仕様をきちんと理解して、データの送受信のインターフェースとなるシステムを個別に開発・運用する必要があります。
ハブ&スポークモデル
ポイント・トゥ・ポイントモデルよりも参加組織の多い大規模なデータ連携のモデルです。グループ企業やひとつの業界のなかで形成される傾向があります。参加組織がデータ連携のハブとして使えるようなシステムをひとつ作成し、参加する組織はシステムを通してデータを授受します。
協調モデル
ハブ&スポークモデルから一歩進んで、業界の垣根を超えたデータ共有を実現するモデルです。ハブ&スポークモデルとの違いは、「データ連携のインターフェイスが標準化されているかどうか」です。データの構造や、メタデータ(データについてのデータ)の書き方、個人情報やセキュリティの基準などをあらかじめ定めておく=標準化することで、異なる業界同士のデータ利用を促進します。
携帯電話の充電器をご想像ください。ガラケーの時代には、機種ごとに異なる充電器がありましたね(P2Pモデル)。しかしスマホ・タブレットの時代になると、Lightningケーブル(Apple)やUSBケーブル(Apple以外)で充電できるようになり(ハブ&スポークモデル)、今ではApple製品でもUSB type-Cが採用されています(協調モデル)。
充電器の規格のようなデータの標準規格を設けることで、データの相互利用が簡単になり、異なる業種・業界同士でのデータシェアリングが容易にできるようになるのです。
データ連携のメリット
データ取引市場を利用して企業間でのデータ連携を実施することには、マーケティング効率の向上、新規事業の創出、業界内外に対するプレゼンスの向上といったメリットがあります。
マーケティング効率の向上
自社のデータと他社のデータを組み合わせて分析することで、市場のトレンドや消費者行動に対する洞察を獲得し、効果的なターゲティングやセグメンテーションを行うことができます。この結果、広告やプロモーションの効果が向上し、マーケティングのROI(投資対効果)が高まるでしょう。
新規事業の創出
異なる業界や領域のデータを組み合わせることで、新たなアイデアが生まれることがあります。例えば、ある企業の製品データと別の企業の消費者行動データを組み合わせて連携することで、製品の改良や新商品の開発につながるかもしれません。また、多くの組織からなるデータ連携コンソーシアムやデータ取引市場へ参加することで、他社との協業のチャンスが生まれる可能性があります。
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業界内外に対するプレゼンスの向上
データ取引市場や連携プラットフォームへの参加により、他の企業とデータを共有し価値を提供することすることは業界内における自社の存在感や認知度を向上させ、影響力を高めます。これにより自社の競争力を維持・向上させるのみならず、企業横断型のプロジェクトにおいて欠かせない存在としての地位を確立することができるでしょう。
データ連携の事例
国内の取組
国内での企業・組織間データ連携の取組みの中から、一般社団法人企業間情報連携推進コンソーシアム(以下、NEXCHAIN) が実施する取組みをご紹介します。
NEXCHAINは業種や企業の壁を越えたデータ連携を実現するために設立した社団法人であり、経団連がサポートするDXプロジェクトのひとつです(公式HPより引用、一部改変)。多数の企業が参加する「分科会」ではデータ連携に関する活発な議論がなされており、ブロックチェーンを活用した企業間での情報連携を推進しています。
NEXCHAINは設立時より「賃貸入居時プロセスのワンストップサービス」を提供しています。従来「入居申込」「電気申込」「ガス申込」「電話申込」等の全てのプロセスで個人情報の記入が必要とされていましたが、NEXCHAINの情報共有プラットフォームを利用することで、「入居申込」時に入力した情報を安全にインフラ各社に提供する仕組みです。
またNEXCHAINは現在積水ハウス株式会社との連携により「不動産IDを用いた転入居手続きにおける自治体連携DXに関する取り組み」を実施しています。これは「不動産ID」という建物を一意に管理するためのIDを用いて、上記に加えて「水道申込」「転入・転出届」までをワンストップサービスにする取組みです。
詳しくはNEXCHAINの公式noteをご覧ください。
今後もNEXCHAINが推進する不動産の分野におけるデータ連携の取組みから目が離せませんね。どこの組織や業界にもある「このデータをこの会社に渡せれば……」「何度も同じデータをやりとりしている気がする……」というお悩みこそが、データ連携による新しいビジネスモデルを作るチャンスかもしれません。
データ連携の課題
しかし、他社とのデータを連携するにはいくつもの課題があります。
商慣習の問題
経団連の「データ利活用・連携による新たな価値創造に向けて」提言のアンケート調査「(別紙1)データ連携の進展状況に関するアンケート 概要」によれば、「異業種他社とのデータ連携を考えたことがない」と回答した企業は22%であり、同業種他社では44%にのぼります。
しかし、特定の状況においては競合他社と情報を連携しながらマーケティングすることが利益につながるという意見もあります(参考)。他社とデータを連携しながら広範囲なマーケティング分析を実施し、業務を効率化させていくことが大事です。
セキュリティの問題
データ連携に伴うセキュリティもまた大きな課題です。せっかくデータの連携を実現しても、人為的なミスや悪意のあるアクセス等によってデータが流出してしまうと、自社ばかりではなく関係者全体を巻き込んだ問題に発展しかねません。
データ連携基盤を構築する際には、ブロックチェーンを援用したデータの追跡や、データの匿名加工化等ができるよう設計し、セキュリティリスクに対応する必要があります。また、データを直接ダウンロードするのではなくGoogle DriveやAmazon S3といったクラウドサービスに接続できるような仕組みがあると、安心です。
「スモールスタート」の難しさ
データ連携基盤の構築は、どうしても長期間かつ大規模な開発プロジェクトになってしまいます。小規模な「おためし」期間を設けて効果を実証したいと思っても、一から連携システムを構築する場合、予算や期間の面で妥協をすれば上記のようなセキュリティ・インシデントが生じてしまう可能性もあります。
そこでおすすめなのが、「JDEX®」やSnowflake、Everysense等の「データ取引市場」サービス。多くのデータ取引市場サービスは「グループ機能」や「データを公開するユーザーの指定」と言った、サプライチェーンや業界内部でのデータ連携に便利な機能を備えています。
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