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読書レポート「話し合いの作法」

無防備でか弱い人類が、他の生物に淘汰されずに地球の支配者のなれたのは、実は「話し合い」という他の生物は獲得できなかった能力とも武器ともいえるものを手に入れたからではないでしょうか。
しかし、人類も年を取りました。老化現象の1つとして、「話し合い」の能力が明らかに弱体化してきているようです。ここ最近の世の中を見れば、これは明白です。このことを憂慮して書かれた本だと勝手に感じました。「話し合い」の「作法」を取り戻すことによって、日本を元気にし、世界を滅亡から救いたい、そんな思いだと。そして、これを読む私達は、世界平和への直接貢献はできなくても、自分の属する組織と、そのメンバーにささやかな元気と活気とやる気をもたらすことはできるはずです。

「話し合い」を「対話するフェーズ」と「決断(議論)するフェーズ」の2つのフェーズにわけたのが、極めてわかりやすくて、いいですね。分解は大事です。会議ファシリテーションにおける「拡散フェーズ」と「収束フェーズ」に近いプロセス区分ですね。

まさに、世の中「対話」ブームです。間違いなくこのブームを作り出した1人である中原先生は、ほろ苦い思いでおられるところもあるのでしょうか。自己目的化した対話は、いっときの温泉的快楽効果はあるものの、生産性的には何も生まないものです。なんか対話しただけで、その空気に陶酔しちゃったりしていませんか。

この本を読んでいて、カウンセリングの講義とシンクロする箇所が多々ありました。カウンセリングにおける関係構築フェーズで行うのはまさに対話的な接触です。しかし、傾聴ばかりしていても、クライアントの解決は得られません。いずれ単なる堂々巡りが続くようになります。決断をして行動化して初めて、クライアントの問題の解決に一歩踏み出すことができます。ただ、いきなり決断を迫っても、それが真に解決すべき問題なのかすらまだわかりません。なので、暖かく対話を続け、様々な話をしていただき、それらを貴重な問題解決の材料として活用していきます。

対話の8つの要素の1つとして書かれている『「本当の問題はファシリテーションではなく「問い」』というのも実感です。よいファシリテーターは、よい「問い」を立てることができているのです。カウンセリングでは、「問い」は「状況」についてではなく、「気持ち」について立てるのが鉄則であり、主語を「私」で語れるのが大切ですが、「問いと自己を関連させる」というのは、同じようなニュアンスに聞こえました。ほかの要素もすべて、コメントしたいですが、今のところはやめておきます。

で、8つの要素で一番好きなのは、6番目の『対話とは「今、ここ」を生きることである』ってやつです。ニヤリですね。正直、これができているなぁと実感する場は、例外なくよい対話が成り立っている場だと思います。いかに、対話に没頭できていない話し合いが多いことか。対話に没頭しないというのは、申し訳ないけれど価値をあまり感じられない話し合いだといってもいいかもしれません。そんな対話の場を減らしたい、あらためて実感します。

本書は、大阪行の新幹線で読み始め、その後、東梅田から谷町6丁目に向かう谷町線の中で読了しました。マキショウのカウンターで余韻を味わっていました。そして、翌日、中原家の家訓に従って、銭湯でコーヒー牛乳をいただきながら、記念撮影もしてきました。


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