JBFな人たち #10 松木一真(蒼築舎)
JAPAN BRAND FESTIVALにかかわる人たちは、一体どんな想いを持ってものづくりやビジネスをやっているのか? JBFに入って良かったことは何か? 当事者たちにインタビューしてきました。
今回お話を聞いたのは、日本古来より伝わる土壁の左官技術を継承している「蒼築舎」の専務・松木一真さん。松木さんの構成要素は、「友情・努力・勝利」!?
インスタのフォロワーは左官職人だらけ
——インスタグラムにアップしている土壁、とても斬新でカッコいいですね。
松木 ありがとうございます。土壁って、古臭いイメージがあるんですけど、パーテーションみたいに使ったり、アートパネルみたいに飾ったり、もっと可能性があると思うんですよね。写真だと本当に僕が作ったかわかんないんで、もう動画にしちゃいました。
——フォロワーってどういう方が多いんですか? 職人さんはあまりSNSをやっていないという勝手なイメージがあります。
松木 インスタにこんなに職人いるのかよ! って、びっくりするくらい、左官職人ばかりですよ(笑)。工程も全部見せているんで、職人さんが真似しようと思えばできるし、世界に発信するつもりが「自分から仕事減らしているんじゃないか」って思うこともありますけど(笑)。でも、参考にしてもらえるなら嬉しいです。
——知識やスキルをシェアして、広がり、業界全体の技術が向上する。それってすごく今っぽいと思います。左官職人って、マニュアルとかのない世界ですよね。
松木 まったくないです。なのに、材料にちょっと砂が足りなかっただけで割れちゃったりするから、感覚を研ぎ澄ませなきゃいけない。経験や知恵みたいな部分で戦うのが、左官の仕事の面白さだと思います。
——よく「職人は10年でやっと一人前」みたいなこと言われますけど、本当なんですね。
松木 そう思います。自分はやっと10年たったくらいで、まだまだですけど。
今は出汁から麺まで自分でつくっている
——そもそも松木さんは、どうして左官の仕事に就いたんですか?
松木 父親が「現代の名工」に選ばれたり、ミラノで個展しちゃったりするような左官職人で、会社をやっているんです。でも、別に継げとも言われなかったし、興味もなかった。だけどその一方で、中学くらいの頃には「自分は左官になるんだろうな」と頭の片隅で思っていましたね。それで、工業高校の建築科を卒業してから新潟の職業訓練校で左官の勉強をして、向こうで5年くらい修行してから、実家に戻ってきました。
——すごいお父さんなんですね!
松木 正直、そんなに仲のいい親子じゃなかったんですけど(笑)、左官職人になってから仕事の面での“すごさ”がわかって、今ではリスペクトしてます。父親を尊敬できるようになったのは、この仕事をはじめて良かったことのひとつですね。
——親子揃って魅了される、左官の仕事の面白さってどこにあるんでしょう。
松木 気温や湿度によって仕上がりも変わるから、毎日材料も変えていかなきゃいけない。壁を塗るって聞くと、単調な仕事に思われると思いますけど、毎日違うんですよ。すごく刺激的な仕事です。
——まさに生き物を相手にしている感じですね。
松木 でも、それがわかったのは、新潟の修行先がうちと正反対の現代的な現場だったからかな。たとえるならば、ラーメンでいうインスタントみたいなところで。もうほぼ素材はあって、あとはお湯を入れるだけ、みたいな。その点、今は出汁からスープ作って、麺も自分でうって、ならではの味を追求して……ってすれば、どんどん美味しくなるし、面白くなる。もちろんインスタントが悪いわけじゃないけど。
——ラーメンのたとえ、すごくわかりやすいですね! そうして手間ひまかけて自然素材の土壁や漆喰をつくっているわけですが、ニーズはありますか?
松木 需要は間違いなく増えています。SDGsの関係もあるのか、いわゆるエシカルな考え方の人が増えている気がしますね。そのニーズをちゃんとモノにしたいと思ってJBFに参加しました。
——異業種とのコラボも楽しみです。
松木 インスタでやっている実験もなんですけど、壁が壁のままの使われ方をする必要はないと思うんですよね。そういう販路を探していきたいし、近代的な建築とか、アートとのコラボにも興味はあります。
四日市駅の真ん中にカッコいい壁を置いて、グラフィティとかしてみたいな、とか考えてるんですよ。土壁は土に還るんで、たらその場で壊しちゃう。ちょっともったいないけども(笑)。
——それは面白いですね! ぜひ実現してほしいです。
友情・努力・勝利を胸に秘め
——松木さんのアイデアはどんなときに生まれるんですか?
松木 一人でいる時間ですかね。結婚して子どももいて、今は実家で親と一緒に暮らしているんで、全然そういう時間がないんですよ。一時期、一人の時間がほしくて、家の中にテントを立てて寝起きしていたこともあります(苦笑)。
——変人じゃないですか(笑)。今、一人の時間を確保したら何をしますか?
松木 まず『週刊少年ジャンプ』読みますね。
——友情・努力・勝利!
松木 そうです、そうです! あんまり読書とかも好きじゃなかったんで、読み続けているのってジャンプだけなんですよ。自分の構成要素の8割はジャンプです(笑)。
——思ったより多い(笑)。一番好きな漫画は?
松木 難しいですね……でも、一番読み込んでいるのは、やっぱり『スラムダンク』かな。
あと『バクマン。』も好きです。漫画家になりたい男の子たちの漫画なんですけど、読んでいると「本気で仕事しているから、こんなセリフが出てくるんだろうな」と思ったりするんです。大袈裟に言うと、プロフェッショナルの仕事に対する姿勢というか。漫画から学ぶことは多いですね。
——ちなみに、紙派ですか? 電子書籍派ですか?
松木 今は肩身狭い感じでKindleで読んでるんですけど、ホントはガバっと雑誌を広げて紙で読みたいんですよね。そういうとこも、伝統的なスタイルが好きなのかもしれないです。
松木一真
蒼築舎 専務取締役
日本古来より伝わる土壁の左官仕上げ(塗り壁・漆喰・竃)の伝統技術を守り継承している左官職人舎で、様々なプロダクトを発表し続ける。伝統的な左官の手法で、一から全て手で土壁を作り上げ、屋内外を問わず扱える「cohettui HAJIME」や、土壁を屏風のように使え、壁掛けとして空間を彩るプロダクト「byoubu」の企画など、職人の枠を超えた挑戦を行っている。
https://tutikabe.net/
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