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JBFな人たち #17 三井一聖(ウォーターエンジニアリング)

JAPAN BRAND FESTIVALにかかわる人たちは、一体どんな想いを持ってものづくりやビジネスをやっているのか? JBFに入って良かったことは何か? 当事者たちにインタビューしてきました。
第16回目にお話を聞いたのは、観賞魚の飼育水の汚染物質を化学的に取り除く吸着ろ過材を開発・製造・販売するウォーターエンジニアリング社の三井一聖社長。実は、知る人ぞ知る、業界の異端児なんです。

魚愛が強い人はいっぱいいるけれど

——いきなりですけど、三井さんは昔から魚好きなんですか?

三井 それが、全然そうではなくて。もちろん嫌いではないけど、当初はグッピーとエンゼルフィッシュの違いもわからないくらいのレベルだったんです(苦笑)。

——なんと!それは意外です。そんな人が、どうしてこの世界へ?

三井 実家が熱帯魚屋だったんです。でも、熱帯魚屋は弟に任せて、大学を出てから百貨店に就職しました。8年くらい勤めた頃、熱帯魚屋が忙しくて仕方ないから手伝ってくれないか、と弟に泣きつかれて。バブル崩壊前で、まだその頃は業界の景気が良かったんです。それで、熱帯魚屋も「小売」という括りでは同じだな、と自分を納得させて、この世界に入りました。

——先ほどのお話からいくと、熱帯魚屋になってから魚にハマったわけでもないんですよね?

三井 そうですね。ただ、何も知らない状態で熱帯魚屋はできないので、魚を飼う上で重要な水質のことから勉強しようと本を読んだわけです。でも、本によって書かれていることが全然違う。それならば、と東京や大阪にある有名な熱帯魚屋まで広島からわざわざ行って話を聞くんですけど、その人たちの言うこともことごとく違う。これはなんなんだ、と。

——その原因はなんだったんですか?

三井 殆どが経験則に従ってやっていて、全然エビデンスがないんですよね。ロジカルじゃない。魚好きなマニアが熱帯魚屋になるケースがほとんどだから、「自分がうまくいった」という経験を必要以上に大切に思うのかもしれません。もちろん経験則は素晴らしいんだけど、それを裏付けて理論に昇華させないと、再現性も低い。それをなんとかしたくて、当時知り合った研究者と協力して、水槽の水質検査をして、カルテを作って、ということをはじめました。
そこから、観賞魚を飼う水槽の水=飼育水を整えるろ過材「リバース・シリーズ」が生まれて、看板商品に成長しました。

数万円の設備でも半分の魚が死んでしまう悲劇

——なるほど、熱帯魚の世界に科学を持ち込んだんですね!

三井 まぁ、最初は「何もわかってないくせに」ってボロカスに言われましたよ(苦笑)。でも、水質のカルテのようなエビデンスを見せて、ろ過材を使って水質が変わり、魚が元気になると、認めてくれるんですよね。みんな、結局は魚が好きなんで、魚に良いことを求めている。

——カクレクマノミの飼育セットを開発したのも、その延長ですか?

三井 『ファインディング・ニモ』という映画がヒットした後、UFOキャッチャーでカクレクマノミを景品にするのが流行ったんです。でも、クマノミのような海水魚を飼育するのって、そもそもすごく難しいんですよ。熱帯魚屋に行くと、大体3万円くらいの設備を勧められるんですが、飼育の成功率を聞いたら「50%くらい」と言われる。

——3万円かけても半分死んじゃう!?

三井 そうなんです。ちゃんと育てられるなら3万円かかってもいいけど、そうじゃない。しかも、UFOキャッチャーで取ったような人は、3万円の設備は揃えないですよ。だから数週間で死んでしまう。
数年後、『ファインディング・ドリー』という映画が公開されとき、また同じことが起きるなと思い、「ボトルアクアリウム マリンⅡ」を開発しました。

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——約2000円と、すごく安いですよね。これはどういう設備なんですか?

三井 簡単に言うと、飼育水の汚れを取り除く特殊素材(リバースマテリアル)により、エアーポンプやろ過器不要で海水魚を飼育することができるセットです。これまでの設備に比べると安価ですが、追跡調査をすると100匹中死んでしまうのは3匹程度。「3ヶ月死亡保障」をつけて、24時間メール相談に乗ることもしています。自分で言うのはなんですが、すごく簡単に飼えるようになったし、ボトルサイズなので、マンションのように大きな水槽は置けないような環境でもクマノミが飼えるようになりました。

——それは革命的ですね! お客さんから喜びの声は届いたりしますか?

三井 「魚に人生救われました」というメッセージをもらったりしますね。大げさではなく、魚って生き物なので、癒しの力があるんですよ。

いつも言っていることを言ったら、You Tubeでバズった

——みんなが三井さんの製品を使うようになってもおかしくない気がします。
三井 いい製品を作った自信はあるので、もっと知ってもらう工夫が必要ですよね。JBFに参加したのは、そういう部分での知見がほしかった、というのもあります。

——なにか気づきはありましたか?

三井 異業種の人や一般の人に直接話すと、業界の人に話したときと全然違う反応が返ってくるし、共感してもらえるんです。これは嬉しい発見でしたね。まだどんな人と組めばいいのか、組めるのか考え中ですが、せっかく異業種の中に飛び込んだので、楽しい挑戦がしたいと思っています。

——You Tubeにも出演されたそうで。

三井 私が主催したわけじゃなく、You Tubeで発信している熱帯魚屋の店長さんに誘われて、ゲスト的に話をしたんです。いつもお店の方に話しているような内容なのですが、おかげさまで大きな反響をいただいて。一般の人に直接事実を伝えられる強さ、というのを感じました。
https://www.youtube.com/watch?v=s5O5YbOHnqQ

——もともと人前で話すのは得意なんですか?

三井 苦手です(笑)!でも、学生の頃、芝居をやっていたので舞台だと思えばできるかも。自分では一生懸命、冷や汗かきながら説明してるんですけど、店のスタッフからは「今日の三井さん芝居がかってましたよ」って言われることもあります(笑)。

——お得意なんじゃないですか! それなら、これからはどんどん発信していきましょうよ。

三井 頑張らないといけないですね。まあ、見た人が、何が正しいかを判断してくれればいいし、今はそれがネットを介して伝わって、評判に変わる時代です。正直に、誠実に商売をしている人が報われる、いい時代になりましたね。

三井一聖
ウォーターエンジニアリング 代表取締役

1965年、広島県福山市生まれ。生家は老舗の西日本最大級の観賞魚販売店「みつい園」。大学卒業後、横浜市の百貨店、株式会社横浜そごうに就職。イベントの立案企画、販売のノウハウやお客様に寄り添った接客を学ぶ。1996年に、両親の健康問題と人手の足りない家業の観賞魚店を手伝うべく帰郷。2001年、業界の常識に疑問を持っていたところ、画期的な吸着ろ過材を開発をする研究者に出会い師事。全力で開発協力を始める。そして2007年に師匠の理念と開発品を世に残すべくさらに改良した基幹商品”リバース”を発表しウォーターエンジニアリングとして起業。その後は全国の専門店を一店舗づつ回り「日本一わかり易い水質の勉強会」を開催しながらリバース特約店を開拓。毎月地道に特約店を増やし続け現在は約370店舗に達しさらに増加中。2016年にはUFOキャッチャーのクマノミの命を救うためだけにボトルアクアリウムマリンを開発。リバースを中心とした様々なノウハウをつぎ込み、その飼育成功率の飛びぬけた高さと飼育のしやすさは業界内外の注目を浴び様々な賞を獲得する。現在も様々な環境が絡み合った「小さな命を大切にする為のモノづくり」をモットーに開発を続けている。https://www.water-eng.net/


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