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JBFな人たち #18 太田泰造さん、吉年正人さん(錦城護謨株式会社)

JAPAN BRAND FESTIVALにかかわる人たちは、一体どんな想いを持ってものづくりやビジネスをやっているのか? JBFに入って良かったことは?当事者たちにインタビューしてきました。
今回お話を聞いたのは、家電製品のゴムパッキンや自転車ブレーキのゴム部分など、「縁の下の力持ち」なゴム製品を製造している錦城護謨株式会社の代表取締役社長の太田泰造さんと、商品開発を担当する吉年正人さん。「新商品は、繊細なカッティングが美しい“グラス”です」!?

きっかけは、従業員のモチベーションアップ大作戦

——錦城護謨さんは、ゴム部品メーカーとして、幅広くゴムの部品を手がけられていますね。

吉年 弊社はゴム事業・土木事業・福祉事業の空間創りというものもありますが、主たるものはゴム事業です。例えば、大手家電メーカーさんの白物家電全般に弊社の製品が使われています。日本製炊飯器のフタのゴムパッキン部分の4割以上は弊社の商品なんですよ。あとは防水ゴム製品で、世界初の防水シェーバーや携帯電話の軽量化・薄型化にも貢献しています。

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——そんなゴムの老舗メーカーが、「シリコーンロックグラス」という”グラス”製品を作られたと聞いて驚きましたが、ゴムで作られていると聞いてさらに驚きました。

吉年 普段の私たちの商品は、なにかの製品の一部じゃないですか。そうすると、製造に携わる従業員の中には、自分が何を作っているのか分からないという者もいるんですよね。私たちの課題でもありますが、要するによくも悪くも作業がルーティン化してしまい、従業員たちのモチベーションが下がっているのを感じていました。そこを改善するために何かできないかと動き出したのが、“グラスづくり”のきっかけです。

—– 従業員さんのモチベーションを上げるという目的が、きっかけだったんですね!

吉年 せっかくメーカーに勤めているんだから、自分たちの作るものを直接消費者へ届けたい、こんな会社だって知って欲しい、という声は随分前から出ていたんです。そんな中、工場本社を置く大阪府八尾市が、2019年に「YAOYA PROJECT」を立ち上げた。八尾市が抱える企業の技術や魅力的な製品を、世界へ発信しようという試みです。

—— JBFを主催するロフトワークが八尾市と共に立ち上げた行政事業ですね。

吉年 そうです。そこでデザインスタジオのシーラカンス食堂でデザイナーをされている小林さんと、自社ブランドの商品開発を一緒に行うことになりました。実はその前に別ルートで小林さんとは面識があったのですが、何人かのデザイナーさんにプレゼンしていただいた中で、小林さんのアイデアが一番良かった。運命的なものを感じましたね。

デザインにこだわり抜いた割れないグラス誕生

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——それにしても、江戸切子グラスのようで、本当にキレイですよね。まさかシリコーンゴムとは。ここにたどり着くまでに、ご苦労はありましたか?

吉年 試作は繰り返しました。最初、小林さんも我々がどこまでの技術があるか、きっと把握されていなかったと思うんですよね。それで、1回目の試作を出した後、小林さんが「欲が出てきたんですが…」と(笑)。

—— 小林さん、「もっといけるやん!」となったんですね(笑)

吉年 そうですね。だから、1作目と比べると、より深く繊細なカッティング、肉厚な飲み口、底をもっと厚くするという改良を加えました。結果的に重厚感が増しましたし、全体的にクリスタル感も出ました。自分たちだけで作っていたら、ここまでデザインを引き上げられなかったですね。

——どんなユーザーがターゲットなんですか?

吉年 最初、経済的にゆとりのある30〜40代の男性をターゲットにと考えていましたが、小林さんと話しているうちに、割れないということで「小さいお子さんにも使える」「手元が不自由になったご年配の方に便利」「割れないので結婚式の引き出物に最適じゃないか」と、いろんな可能性が出てきました。そこで、「ターゲットを絞らないことをターゲットの指針にしよう」と。

——面白いですね! しかし本当に、ガラス製のグラスにしか見えませんよね。

吉年 デザインのエッジは、ゴムならではですよ。ガラスだとここまでカクカクさせると危ないですからね。

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——ちゃんとゴム素材ならではの良さが出ているんですね。かなり売れていると聞きましたが、どんなプロモーションをしたんですか?

吉年 実は、どうして売っていったらいいのかな〜と僕らも分からなかったんです。だって錦城護謨って世間では得体の知れない会社だし(笑)、僕だったらなかなか手を出さない。……と思っていたら、買ってくださった方がツイッターで紹介して下さって、15万もイイネをいただいて、いわゆる“バズる”状態になったんです。

——すごい!じゃあCMもしていないのに一気に知れ渡ったんですね。

吉年 はい、2020年7月に発売してすぐだったので、本当にびっくりしました。テレビに呼んでいただいたりもして。バズったから、慌てて数を作りましたよ!

——次に何を作るのかが楽しみです。
吉年 実は、第二弾としてワイングラスももうすぐ発売予定です。でも「錦城グラス」を構築するつもりはなくて、目的は消費者の方に直接お届けして、生活の中に見える錦城護謨を感じて欲しいということが1つ、また当初のきっかけであった従業員のモチベーションアップになることが1つ。「使っているよ〜」と言ってもらったら、やっぱり嬉しいですよね。

B to BとB to Cの好循環を回していく

——ここからは代表取締役社長の太田泰造さんにお聞きしたいのですが、会社の雰囲気づくりで大事にされていることはありますか?

太田 お互い理解しあえるような関係性を作ろうと、食事をしたり飲みに行ったり、コミュニケーションを日々積み重ねてきました。それがこういう開発の役に立っているなと感じるところは多々あります。

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——社員の方も声を上げやすい環境なんでしょうね。グラスのプロジェクトをどう評価していますか?

太田 社内のモチベーションアップはもちろんですが、普段は交わらない部署同士の交流が生まれたり、またこれまでの業務ではなかったたくさんの新しい出会いがありました。それが本業であるB to Bに返ってくるという好循環が生まれつつあるかなと。実際に八尾市にある企業様から、商品開発をしないかとお声がけいただいていて、良い方向に進むんじゃないかなと期待しています。

吉年 ものづくりの源流にいるので「こんなものを作ったらどうだろう」と思ったら形にしやすい会社なんです。社長の前で言うのもなんですが、結構好きなことをやらせてもらっています(笑)。

——ちなみに、お二人は仲が良いようですが共通の趣味とかがあるんですか?

太田 二人でゴルフに行ったりはします。ただ、最近はコロナ禍で行きにくいでしょう。だからジムに通い始めました。

吉年 ええっ!? 抜け駆け…! 運動でいうと、弊社で自転車のディスクブレーキのゴム部分を作っているし、車内にも自転車好きが多いので、自転車にも乗りますね。試作しては乗ってみたりね。

——また新しい商品開発につながりそうですね(笑)。

太田 色んなものを生み出すことで、世の中を変えていく。それが私たちのミッションですからね。

太田泰造
錦城護謨株式会社 代表取締役社長

1972年大阪生まれ。近畿大学卒。富士ゼロックス(株)にて新規開拓営業を経験後、2002年に錦城護謨(株)入社。土木事業部長、専務取締役を経て2009年に代表取締役社長に就任。

吉年正人
錦城護謨株式会社 技術部 課長
1972年大阪生まれ。同志社大学卒。1998年に錦城護謨(株)入社。技術部、開発本部、総務部、生産管理部と社内の主要部門を経て、2013年より現在の技術部にて職務にあたる。

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