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CEFACT入門 第3話「貿易電子化の大きな一歩-EDI-」

【初出:月刊JASTPRO 2022年6月号(第517号)】

前回は、国連CEFACTの上位組織であるUNECEの歴史や活動、これまでの活動から生まれた成果物としての国際標準や条約などをご紹介しました。

今回から再び国連CEFACTに焦点を当て、まずはEDI(電子データ交換:Electronic Data Interchange)に関するトピックを取り上げます。1973年、貿易業務における情報の流通手段がまだ紙媒体しかなかった時代に、国連CEFACTは書類の削減と書式の簡易化のため、書式をある程度で統一するレイアウトキーを発行しました(国連CEFACT勧告第1号、詳細は月刊JASTPRO 2022年4月号(第515号)の記事「CEFACT前史と4つの基本原則」もご覧ください)。それ以降、コンピュータの普及とともに、商取引業務もコンピュータ化によって効率化が実現されました。しかし、良いことばかりではなく問題点も出てきました。

今回は、その問題点と解決手段としてのEDI、その国際標準についてご紹介していきます。

「変換地獄」と「多端末現象」

コンピュータによってさまざまな業務が効率化されたことは論をまたないでしょう。手書きによる書類作成や計算による時間とコスト、ヒューマンエラーなどが大きく軽減されました。ネットワークに接続された情報システムを導入すれば、企業内・企業間での情報交換をコンピュータ同士のデータ連携の形で実現でき、業務や取引をより速やかに完了できます。しかしながら、そういったシステムを実際に利用する前にきちんとした計画を立てないと、実は様々な困難が生じてしまいます。

一つ目は、「変換地獄」と呼ばれる問題です。これは、異なるデータ形式を取り扱うことから発生します。各企業は(標準あるいは接続性を意識しない限り)それぞれ自社システムで使いやすいデータ形式を整えるので、他の企業と取引する際、自社システムとは別の形式を取り扱うことになります。自社システムがそれを読み取れるようにさせるためには、まず何らかの方法を使って自社形式に変換しなければなりません(言葉が通じないときに翻訳ツールを使うのと同じ考え方です)。取引先の数が少ない場合はその都度対応することも現実的ですが、多くの取引先を持つのが一般的で、この変換作業だけで大変苦労してしまいます。

例として、A社が6社の取引先を持っているとしましょう。もしそれぞれ違う形式を使っていたら、6つの形式が存在します。A社は一社ずつお互いのデータ仕様や意味を対照し、変換ツールを開発せざるを得ないことになります。この費用と時間のかかる対応を、A社が取引先を増やすたびに続けていかなくてはなりません。

二つ目は「多端末現象」です。会社は主導権を握る取引先を合わせるように、先方の形式に従ったデータ交換を余儀なくされます。データ交換に使うコンピュータが専用端末である場合には、取引先の端末を借りまたは購入して自社に設置する他にありません。同一の端末に他の企業とのやり取りは技術面あるいは契約面において制限されているため、他の企業と取引するにはもう一台の端末を置かなければならないことになります。このままで一社一台ずつ端末が増え続け、やがてオフィスは各社の端末に占領されます。

先ほどのA社の事例で考えてみましょう。もし6社の取引先も自社端末をA社に設置することになったら、まず6台分のスペースが必要になります。この6社との電子取引が専用回線で行われるなら、ネットワーク環境もそれぞれ用意しないといけません。6つ端末の操作方法もすべて異なる場合(おそらく異なるでしょう)、従業員は6種類の端末操作方法に習熟しなければなりません。これによってインフラ整備やトレーニングコストは高くつくことになるでしょう。たとえ専用端末ではなく汎用端末上のソフトウェアで各取引先とのやりとりができるようになったとしても、今度は書式が標準化されていない限りたくさんの画面を利用しなければならず、今度は「多画面問題」が出てきてしまいます。

それでは、EDIの定義と仕組みの説明を通して、EDIがどのようにこれらの問題を解消しうるのかを説明していきます。

EDIの基本的要素と効果

EDIの基本的要素は、(1)異なる企業間で、(2)商取引のためのデータを、(3)広く合意された規格にもとづいて、(4)コンピュータ(アプリケーション)間で人手の介在なしで交換することです。ここで特に留意したいこととして、EDIが単に書類や情報を電子化することだけではなく、「広く合意された規格」を使ってデータ交換することを要素として加えていることです。当事者間だけで合意した特殊な規格によるデータ交換であってもそれはそれでEDIと呼ぶ考え方もあります。しかし、ここではEDIにビジネス的・社会的な価値を持たせるため、こういった要素が付け加えられているとご理解いただければと思います。

これにより、EDIは先に述べた二つの問題を解決する手段となります。取引情報が電子化されてコンピュータ間で交換されますので、最も根本的な紙による作業の問題が解消されます。手書きでの貿易書類の作成やチェック、コピー、ファックスや郵送などの作業が最小化され、人件費や時間などのコストとヒューマンエラーを減らすことができます。次に、同一規格のEDIを採用する企業も、標準化されたデータ書式を採用するため、先述した変換地獄や多端末現象からも解放されます。そのほか、現場から一歩引いて貿易全体を俯瞰すると、グローバル化の進展によって貿易の取扱量は年々増加しています[参照ページ]。貿易業界が国際的に標準化されたEDIを使うことができれば、文化や商慣行の違いと言語の壁を乗りこえることが可能になり、市場のオープン化と国際貿易の促進に大きな力となります。

EDIの仕組み

続いて、EDIの仕組みを簡単に説明していきます。本連載ではEDIの技術的な実装方法までは触れませんが、ふだん貿易実務を担当される方が使っている業務システムの裏側でEDIがどのように働いているかに触れてみたいと思います。

図1「EDIを活用した受発注業務フロー」をご覧ください。発注者は自社の業務システムに注文情報を入力して、送信ボタンを押すだけで、バックグラウンドにある変換システムと通信システムは自社形式を共通規格に変換して取引先のシステムに送ります。共通規格でデータを受信した取引先のシステムが自社形式に変換することで、受注者は発注データを正しく受け取ることができます。

このように、電子的なデータ交換(つまりEDIそのもの)が成立するためには、受発注者(抽象化するとデータ交換を行う当事者同士)が、お互いに合意した共通の通信方法・データ構造・データの利用ルール・データ交換に紙取引と同じ価値を持たせるための取り決めなどが必要になってきます。

前段で出てきた「共通規格」というのは、EDIの基本的要素における「広く合意された規格」のことを示しています。繰り返しになりますが、広範囲な合意までは至らなくとも取引先双方だけが合意した取り決めだけでも電子データ交換は可能ですが、それは正確な意味でのEDIとは言えないでしょう。取引先ごとに異なる規格を採用してしまったら、結局変換地獄や多端末現象から抜け出すことはできず、EDIのメリットを最大限に享受できなくなってしまうからです。

解決策の一つとしては国際的に広く普及した標準規格を利用したEDIを利用することです。ここでは、二つの国際標準EDIについて取り上げてみます。

国際標準EDI

EDIの原型とも呼べる手法は、冷戦初期に誕生したとされています。第二次世界大戦後にドイツの首都ベルリンは東西に分割され、東ベルリンはソ連、西ベルリンは米英仏3ヶ国に統治されることになりました。1948年、ソ連による「ベルリン封鎖」から、西ベルリンへの鉄道と道路を含むすべての陸路が封鎖され、西ベルリンは燃料や食料のみか、生活用品や薬の量もすぐに不足しはじめました。西側は「ベルリン大空輸」という作戦を実施し、市民220万人分の物資を空路で輸送しました[参照ページ]。しかし、当時の輸送プロセスでは、荷積みと荷卸し、輸送機の離着陸を迅速かつ的確に追跡するのは非常に困難でした。そこで、米国のギルバート軍曹(Sgt. Edward A. Guilbert) はテレックスやラジオテレタイプ、電話通信を通した標準マニフェスト(積荷目録)システムを開発し、貨物を追跡しました[参照ページ]。

この技術が、60年代中期から米国において運輸業者に活用されました。企業間で交換される運輸データのクオリティを向上させるため、いくつかの鉄道会社が運輸データ調整委員会(TDCC: Transportation Data Coordinating Committee)を設立しました。委員会は1975年に世界初のEDI標準を制定し[参照ページ]、それ以降の業界標準の基礎になりました。

EDI標準の開発はここから急速に発展しました。1978年にはANSI(米国規格協会;American National Standards Institute)はTDCCの規格に基づいて、X12という米国EDI規格を確立しました。その9年後には、国連CEFACTの前身である貿易手続簡易化作業部会(WP.4)がEDIFACTというEDI標準を開発することになります。

ANSI X12

前述のTDCCは、データクオリティを改善するため発足し、1975年に業界間の「生きている標準」(living standard:常に利用者のニーズに合わせて変化できる標準)を開発しました。陸・海・空の輸送と一部の銀行業務に適用することにより、この標準は運輸業界以外の業界にも普及していきます。1979年、ANSIはASC X12(標準認証委員会;Accredited Standards Committee X12)を設立し、TDCC標準に準拠した米国EDIを開発してリリース。現在でも、米国ではEDIFACTを採用する自動車業界[参照ページ]を除けば、多くの業界でX12標準が利用されています。

なお、1990年代にはX12をUN/EDIFACTと統合させる計画もありました。1992年に、ASC X12は将来の標準EDIをUN/EDIFACTに移行するかについて投票を行い、76%の賛成率を得て(66.6%を超えると採択)ANSI X12からUN/EDIFACTへの移行が承認されました。その後1997年にはUN/EDIFACTへの移行を予定していましたが、統合化委員会による検討の結果、2つの規格を並行利用することに支障がないことと、これまでのANSI X12のユーザへの配慮もあり、移行は行われませんでした。米国では現在もANSI X12は開発や改良が続けられ、EDIFACTとの共存が続いています。

UN/EDIFACT (Electronic Data Interchange for Administration, Commerce, and Transport)

UN/EDIFACTが開発されるまでは、米国のANSI ASC X12と欧州共同体(European Community)が実施しているGTDI(貿易データ交換指針書:Guidelines for Trade Data Interchange)、二つの標準が存在していました。標準規格は言語のようなものなので、二つの言語があると、また変換作業を行わなければいけないことになってしまいます。

いくつかの国がこの事実について、WP.4へ提言しました。WP.4は60年代に貿易書類の簡易化と標準化のためレイアウトキーを発行したときのように、全世界で共通して利用できる標準EDIの開発に取り組んでいました。1985年、WP.4の事務局とラポータグループ(各地域にいるUN/EDIFACTの開発担当者。メッセージ開発、技術評価、普及と文書化などの地域活動の調整を担う)、GE.1の専門家(WP.4の標準開発グループ)はニューヨークで米国のJEDI委員会(合同電子データ交換委員会;Joint Electronic Data Interchange)と会議を行い、二つの作業グループを結成しました。二つのグループはそれぞれGTDIとX12のシンタックス(文法のようなもの)の違いを検討するグループと、データエレメントとメッセージを比較するグループでした。さらに、GTDIとX12に基づいた世界標準を開発するUN/JEDI(国連合同EDIグループ)がECEと米国により結成され、86年3月にWP.4の承認を得ています。

標準統合の成果はその一年後にあらわれてきました。UN/JEDIグループは合意されたEDIシンタックスをWP.4事務局に提出し、UN/EDIFACTの名義でISOへ提出。その後1988年7月に国際標準ISO9735として承認され、UN/EDIFACTはEDIの世界標準規格になりました。

UN/EDIFACTの特徴は、まず取り扱う情報が貿易関連データに限らないことです。UN/EDIFACTの正式名称は「行政、商業、運輸のための電子データ交換」です。名前の通り、その対象範囲は行政や商業、運輸まで広く展開されています。現在は、小売や税関、ヘルスケア、農業、保険業界にもUN/EDIFACTが使われています[参照ページ]。

また、UN/EDIFACTは国や地域に関わらず、どこでも使うことが可能な標準EDIです。特にUN/JEDIグループはANSI X12を考慮してUN/EDIFACTを開発したため、UN/EDIFACTとANSI X12は基本部分において大きく共通性を有しています。ANSI X12を広く利用する米国を除けば、UN/EDIFACTは広く世界に普及することになりました。

なお、UN/EDIFACTはハードウェアとソフトウェアについては規定しておらず、どのようなコンピュータやアプリケーション、通信方式であっても自由に使うことができます。つまり、UN/EDIFACTは業界、地域、技術面で注意を払って、可能な限りに柔軟性を確保して作られていると言えます。

まとめ

ここまでご紹介してきた通り、 EDIはその概念が生まれてから半世紀以上にわたって使われ続け、EDIFACTのような世界的標準規格や各業界における標準規格の確立によって、電子取引に欠かせないツールとして普及してきました。今となっては、いわゆる「古くて枯れた」技術であると言えるでしょう。ここでいう「古くて枯れた」という表現はネガティブな意味ではなく、「よく知られていてノウハウがたくさんあり、技術的にも安定している」ことを示しています。データ交換/電子取引に使える技術としては、この20余年の間に例えばXMLやAPIといった新しい技術も出てきていますが、これらと並んでEDIは今でも現役の第一線で使われ続けています。

一方で、貿易業界も含め、特に中小企業においてはEDIの普及が進んでおらず、今でも紙やFAXを利用して仕事が行われているという現実もあります。1社とでもEDI取引を行っている(それ以外が紙ベースであったとしても)という基準であっても、EDIの導入率は4~5割程度にとどまっていうという調査結果もあります[参照ページ]。

今回はEDIの概要や歴史とそのメリット、国際標準としてのEDIFACTについてご紹介してきましたが、世界標準で語られる理想とデジタル変革という文脈における電子化・効率化が進まない現実の間には、まだまだギャップがあります。依然として大半を占めている紙ベースの仕事をどのように電子化・効率化していくか。当協会の掲げるミッションである貿易円滑化にも直結する課題として、引き続き調査研究と各所への提言を強化していきたいと、改めて感じています。(つづく?)


参考文献:

EDI推進協議会;(財)日本情報処理開発協会 産業情報化推進センター(1997)『EDIで実現するネットワーク・ビジネス社会』

JASTPRO(1999)『EDIFACTガイドブック』(第5版)

Jenkins, G., Lancashire, R. (1992). The Electronic Data Interchange Handbook: A Quick Read on Edi. EDI Council of Canada.

朝岡良平・伊東健治・鹿島誠之助・菅又久直(1998)『図解よくわかるEDI』日刊工業新聞社 

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