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CEFACT入門 第1話 「CEFACT前史と4つの基本原則」

【初出:月刊JASTPRO 2022年4月号(第515号)】

 当協会は、国連CEFACTの日本委員会事務局を務めています。貿易や物流に携わっておられる方の中には、JASTPROコードは御存じでも、国連CEFACTについてははご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。

 では、その国連CEFACTとは何なのか。インターネット検索しても独自のホームページは出てきませんが、上位組織である国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe =UNECE。最初はヨーロッパ諸国の経済関係強化との目的で設立されたが、今は北米やアジアの国も加盟しており、より大きい経済統合を図っている。)のウェブサイトには膨大な量の情報が掲載されています。この連載では、国連CEFACTとは、その使命や活動は何なのか、といったエッセンスに迫るトピックを取り上げ、皆様に紹介していきます。

貿易円滑化の第一歩

国連CEFACTは、正式名称を「United Nations Centre for Trade Facilitation and Electronic Business (貿易円滑化と電子ビジネスのための国連センター。1997年、WP4が国連CEFACTに改組された当時の正式名称はCentre for Facilitation of Procedures and Practices for Administration, Commerce and Transportで、略称がCEFACTとされました。2000年に現正式名称に改称されましたが、略称CEFACTは維持されました。)」と言います。その始まりは1960年。まずはUNECEのもとに設置された「貿易手続簡易化作業部会(Working Party 4 = WP4)」という作業部会でした(正式名称はWorking Party on Facilitation of International Trade Procedures)。

 当時の貿易業界を想像してみましょう。取引を1件行うために、20以上の企業や政府省庁と連絡を取ったり、45種類以上の書類を提出したりしていました。これに加え、書類ごとに記入欄の位置や求められる情報が異なります。当然ながらコンピュータを利用した電算処理など普及していなかった時代ですので、書類作成には人の目と手が頼りであり、手書きあるいはタイプライターを使うことが一般的。結果的に、作業効率は悪く、ミス発生率が高く、コストも非常に高いものとなっていました。

 例えば、スウェーデンもこの繁雑極まりない文書作成作業に苦しめられていました。第二次世界大戦が終わり、欧州が復興期を迎えた1950年代。同国においては木材や紙、パルプの輸出が重要な収入源でした(紙とパルプの輸出で国の輸出量の31%を占めていました。[参考ページ])が、複数の政府機関や民間組織が輸出に使うさまざまな書類に異なる書式を採用していたため、輸出の際には大量の書類処理を行わなければなりませんでした[参考ページ]。そこから貿易円滑化推進の気運が高まり、他の北欧諸国の支援を受けながら、貿易や物流の書類を統一することをUNECEに提起しました[参考ページ]。特に輸出入業者から各国税関に提出する書類の書式が揃えば、どこの国の税関でもたった一つの書式で済むことになり、通関もより早く行われることになります。

 スウェーデンの要望に応じ、UNECEは貿易書類の削減と簡易化、標準化を目的とした作業部会を立ち上げました。これが、国連CEFACTの前身となる「貿易手続簡易化作業部会(Working Party 4 = WP4)」です。1961年、作業部会は事前に同意を得た紙のサイズやフォームデザインの原則、記載項目のリストに基づいてモデルフォーム案を作成し、各国政府と関係機関に提出しました。およそ一年後、寄せられた意見と専門家による検討を参考にし、モデルフォームを改訂して再度提出。1963年、この改訂モデルフォームはレイアウトキーとして使用可能という結論に達し、1963年から1969年の間に国際的に確立された各種書類にこのレイアウトキーが適用されました。

 この成果は1973年に作業部会が出す勧告の第一号として、「貿易書類のための国連レイアウトキー」[参考ページ]として発行されました。これが、貿易円滑化活動の第一歩となりました。

 国連レイアウトキーは貿易書類作成のための共通基盤になり、EUのSingle Administrative DocumentやFIATA(International Federation of Freight Forwarders Associations 国際フレイトフォワーダー協会連合会)のFIATA Forwarding Instructions、いくつかの国レベルの税関申告書もレイアウトキーに沿って書類を作成することになりました。


国連レイアウトキー UN/Layout Key (簡素化・調和)

 国連レイアウトキーとは、具体的な書式を厳密に定めたものではなく、いくつかの基本項目の位置を固定して書類の見た目をある程度整えつつ、国々の制度や慣習による相違点を許容した設計基準です。輸出入の実務に携わったことのある方はお気づきかもしれませんが、インボイスや船荷証券(B/L)といった書類ではShipper/ConsigneeやItemがほぼ同じ位置に記載されています。細部にいろいろ違いがあるにせよ、こういった「ある程度の統一」によって、一目で必要な情報を把握できることは、まだ人の目と手だけが頼りだった時代において、その作業効率を格段に向上させる手法でした。

UNレイアウトキーがサポートする主な貿易文書の例
(UNECEサイトの説明よりJASTPROにて作成)

-        Quotation, Order, Invoice等の貿易文書
-        Despatch Advice, Packing Listなどの貨物管理文書
-        Export/Import/Transit Declarationなどの税関申告文書
-        その他Cert of OriginやDangerous Goods Noteなど規制関連文書
一定の規則性を持つレイアウトをこれらの文書に適用することで、カーボンコピーを容易にしたり、人力による事務処理が容易になりました。


4つの基本原則

 さて、貿易手続簡易化作業部会(WP4)は、この国連レイアウトキーの勧告を端緒に貿易円滑化やそれに続く電子ビジネス発展に向けた活動を進めていくことになるのですが、それについて詳しく触れる前に、まずは重要な「4つの基本原則」について紹介します。これは、WP4が発展的改組を経て国連CEFACTとなった現在までのすべての活動に通底するキーワードになっています。

簡素化(Simplification)

 一つ目は「簡素化」です。活動当初からの柱であり、貿易手続きにおけるプロセス、手順において不要と思われる要素や重複した作業を取り除くことを意味しています。提出書類の枚数を削減し、重複した情報の記入と提出を避け、無駄な作業を排除することで貿易手続きの流れをシンプルにすることを目指しています。コンピュータ時代になってからは、一度入力した情報がそのまま後続システムに活用できるような「ワンラン・メソッド」(One Run Method)という考え方も生まれました。

標準化(Standardization)

 「標準化」が二つ目の柱です。標準化といえば、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)、国際電気通信連合(ITU)のような標準化団体がさまざまな分野における標準化に取り組んでおり、国連CEFACTもこういった標準化団体との協調を保ちながら国際標準を開発しています。

 貿易手続きにおける標準化の例としては、UN/LOCODEが上げられます(下記コーナー参照)。貿易と物流に関わる地名をローマ字5桁のみで表記するUN/LOCODEによって、言語によるつづりの違いや、物理的な位置が異なるのに地名が同じといった問題を解消することができました。日本においても、輸出入手続きで利用されるNACCS(Nippon Automated Cargo and port Consolidated System)における港や空港などの地名を表す際のコードとして活用されています。


UN/LOCODE     (簡素化・標準化)

 当協会ホームページにも「UN/LOCODE」というコンテンツを掲載しておりますが、これは貿易や運輸関連の地名と場所を示すコードです。海港や空港、内陸通関デポ、貨物ターミナル、貨物の受渡場所なども含まれています。

上2桁はISOの国名コードで、下3桁はその地名コードです。国名コードさえあればどこの国の場所に指しているかはっきりわかりますので、例のように下3桁同じでも、国内でユニークな文字列になっていれば問題がありません。
またUN/LOCODEには場所名の他、その機能や緯度経度などの詳細も登録されています。羽田空港を例[参考ページ][参考ページ]として見てみましょう。

※機能のコード説明は下記の通り。
0:確認待ち 1:港  2:鉄道ターミナル 3:道路のターミナル 4:空港 5:郵便の中継局 6:マルチモーダル機能や内陸通関デポなどの場所 7:固定輸送機能の場所(例:石油プラットフォーム)8:内陸水運(河港・湖港) B:国境の通過地点

現在、UN/LOCODEにはおよそ249カ国から、110,000超の項目が登録されています[参考ページ]。港のフルネームの代わりに、たった5文字のコードで明確に貨物の所在地を確認できるので、貨物の追跡管理には大変便利です。したがって、大手船会社や物流会社、政府機関(特に税関や港管理機関)[参考ページ]に広く使われています。

 UN/LOCODEはUNECEが管理・保守し、利用者から登録申請を受け付けています。申請地点が存在するか等の審査は各国政府機関などから成るNational Focal Points(各国窓口機関)が行います。当協会は日本のNational Focal Pointの役割も担っています。


調和(Harmonization)

 さて、「標準化」はとても大事ですが、国際的な取り組みにおいてはそれだけだとうまくいかないことがあります。国際標準を受け入れる=これまでの手続きや運用方法が使えなくなってしまう、となってしまえば大きな混乱が起きてしまうので、この「調和」という考え方が重要になります。標準化された事柄をそのまま機械的に導入するのではなく、現在の手続きや運用との違いを認識し、その差をどうやって整合させ、混乱を最小限に抑えながら進めるか。例えば、国連レイアウトキーについては囲み記事でご紹介の通り「具体的な書式を厳密に定めたものではなくいくつかの基本項目の位置を固定して書類の見た目をある程度整えつつ、国々の制度や慣習による相違点を許容した設計基準」となっています。このような調整の余地を残した取組みは、関係者が標準を受け入れやすくするための工夫と言えるでしょう。

透明性向上(Transparency)

 最後の柱は「透明性」です。「簡素化」や「標準化」、「調和」といった基本原則は貿易の円滑化に寄与するものですが、規制に関する情報は関係者にとってはコスト、納期などに影響するため、「透明性」は非常に重要です。さらに近年は貿易における人権や環境保全を確保する手段の一つとして重要視されています。国際条約で禁止されている児童労働や強制労働による産品、密漁(猟)・乱獲による産品を排除する手段として透明性が求められています。

また、透明性と関連して「追跡可能性・トレーサビリティ(Traceability)」という考え方も近年重要性が増しています。商品の生産・加工から手元に届くまでの過程がブラックボックスでは、その商品を取り扱う企業にとってもリスクですし、消費者も商品選択の手段がありません。そのため、生産・製造・流通などサプライチェーンの透明性および商品の追跡可能性を向上させることで持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく、国連CEFACTにおいても力を入れる分野になっています。

紙から電子へ

ここまで、第1回として国連CEFACTの前身時代である貿易円滑化作業部会(WP4)における貿易円滑化に向けた取組みの例と、CEFACTの根底にある4つの基本原則について紹介いたしました。

1970年代以降、世の中はコンピュータ処理の時代を迎えます。貿易の世界においてもコンピュータの登場は作業の効率化にとても大きな影響を及ぼすことになります。そして、WP4は貿易電子化において非常に重要となる成果物を開発・普及させてきました。次回は、CEFACTもう一つの焦点である電子ビジネスに焦点を当て、電子データ交換(Electronic Data Interchange = EDI)とその国際標準EDIFACTについてご紹介する予定です。(つづく)



参考文献:

JASTPRO (2011)「勧告第1・2号 貿易書類のための国連レイアウトキー」『平成22年度 -国連欧州経済委員会勧告集(対訳)-(勧告第1号~勧告第33号)』PP.5。

Karlsson, L. (2012). The Incentive to Abate: The Swedish Pulp and Paper Industry and the 1969 Environment Protection Act. Acta Universitatis Upsaliensis. Uppsala Studies in Economic History 96. https://www.diva-portal.org/smash/get/diva2:544766/FULLTEXT01.pdf 

Kommerskollegium National Board of Trade. (2008). Trade facilitation and Swedish experiences. http://www.beep.se/files/Trade.pdf 

UN/CEFACT. (1981). Recommendation N°. 1. United Nations Layout Key for Trade Documents. (https://unece.org/fileadmin/DAM/cefact/recommendations/rec01/rec01_ecetrd137.pdf。現在CEFACTホームページに載せられているのは改訂された1981年版。

UN/CEFACT. (2018). UN/LOCODE Executive Guide. https://unece.org/fileadmin/DAM/cefact/GuidanceMaterials/ExecutiveGuides/UNLOCODE-ExecGuide_Eng.pdf 

UN/ECE. (2007). Fifty years of trade facilitation: Twenty years of electronic business standards.  https://unece.org/fileadmin/DAM/press/pr2007/07trade_p06e.htm

UN/ECE. Code for Trade and Transport Locations (UN/LOCODE). https://service.unece.org/trade/locode/jp.htm

UN/ECE. (2020). United Nations Code for Trade and Trasnport Locations: Recommendation No. 16 (Revision 4 – 2020 Ed.). 13-14. https://unece.org/sites/default/files/2020-12/ECE-TRADE-459E.pdf

UN/ECE. (2021). UN/LOCODE (Code for Trade and Transport Locations) Issue 2021-2: Note to the uesrs of UN/LOCODE. https://service.unece.org/trade/locode/2022-1%20UNLOCODE%20SecretariatNotes.pdf 

加藤和道(1975)「JASTPROの設立とこれからの活動」『貿易手続簡易化運動の方向――昭和50年度論文集――』PP.54。

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